ヴィム・ヴェンダース監督が
新作の映画『PERFECT DAYS』への思いを語る。
Wim Wenders Interview

2023.12.15

Photographs : Josui(B.P.B.)

ヴィム・ヴェンダース監督が語る、新作『PERFECT DAYS』への思い“映画を撮ることで、見る人の人生を向上させることができればと期待している”

2022年、芸術文化のノーベル賞ともいわれる第33回高松宮殿下記念世界文化賞の演劇・映像部門の賞に輝いたヴェンダース監督は、昨年10月に開催された同賞の授賞式のために来日。制作の真っ只中にあった新作『PERFECT DAYS』について次のように語り始めた。 

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第33回高松宮殿下記念世界文化賞の演劇・映像部門受賞についての記者会見では、「第二の故郷ともいえる日本でこのような栄誉ある賞を受賞できて大変感動しています」と、満面の笑顔で喜びを露わにした。ヴェンダース監督は、大の親日家として知られる。左から ヴィム・ヴェンダース氏(演劇・映像部門)、クリスチャン・ツィメルマン氏(音楽部門)、妹島和世氏+西沢立衛氏/SANAA(建築部門)、アイ・ウェイウェイ氏(彫刻部門)、ジュリオ・パオリーニ氏(絵画部門)©︎日本美術協会/産経新聞

「公共トイレを題材にした映画のオファーがあったとき、最初は驚いたのですが、考えてみるとトイレは、建築における1つの傑作だと思いいたりました。その存在について考えたとき、私たちはトイレを誤解しているとも思いました。私たちは(人生において)トイレでかなり長い時間を過ごします。それが、文化や社会の中核にあるにもかかわらず、私たちはトイレをあまり評価してこなかった。それを大事とするのであれば、ドキュメンタリーではなくて、ストーリーを持った映画にするべきではないかということで取りかかったのです。一種の冒険でもありました。」

●ヴェンダース監督の新たな発見:トイレは小さな聖域

 日本での映画撮影も、既に3度行ってきたヴェンダース監督だが、昨年は、2011年以来11年ぶりの来日となり、東京・渋谷の街並みやTHE TOKYO TOILET(以下、TTT)のトイレを視察したり、シナリオハンティングを敢行。東京スカイツリーや浅草や下町の路地など、新しい発見があったという。

 シナリオハンティングの折、ヴェンダース監督は、舞台となるトイレを視察して、小さな「聖域」だと評した。建築を愛してやまない彼には、TTTにより生み出されたトイレ、すなわち、個性的で機能的な建築は、とても興味深い対象だった。そしてすべてのトイレの場所的な魅力や、構造的な面白さを見つけては嬉々としたという。映画の主人公はトイレの清掃員の平山だが、ヴェンダース監督は、個々のトイレの魅力を存分に引き出すように撮影している。また。平山の清掃のあり方からも、トイレが小さな「聖域」だというリスペクトを感じさせる。

 16日間の撮影で、主人公平山の日々を追うのはチャレンジだった。ヴェンダース監督は、平山の暮らすアパート、銭湯、コインランドリー、休日に通う店、すべてのロケ地を歩いて探し回り、主人公の行動範囲の中でそれらを選び、できる限り作為は排除したという。

 平山を演じた役所広司について、ヴェンダース監督は「40年前に出会っていたら、いくつもの映画を一緒に撮れていたのにと思うほど素晴らしい」と称賛する。本作『PERFECT DAYS』はフィクションでありながら、淡々と描かれた平山の人生には驚くほどのリアリティーがある。公共トイレで架空の存在である“平山さん”に実際に会えるような気がしてくるのだ。

●建築や街を愛する監督ならではのヴェンダースマジック

 主人公の平山が暮らす古いアパートも、銭湯も、地下街の居酒屋の空間も実に魅惑的で、『ベルリン・天使の詩』で壁崩壊前のベルリンを詩情豊かに映し出したヴェンダース監督の切り取った東京は、新鮮で心の深層に忍び込んでくるような魅力があった。アートの力により、TTTのトイレも、東京の街自体もさらに昇華した存在として輝いて見えてくる。

「私は建築が好きなので、場所からインスピレーションを受けます。『ベルリン・天使の詩』もベルリンという場所からインスピレーションを得たものを形にしました。今、私がインスピレーションを受けているのは渋谷です。その場所に行ってカメラをどこで構えれば、どんな絵を撮れるか、それを観客にどう見せるかを考えます。建築空間を撮るとき、観客の皆さんにも、その建物がどういう風に発言するか、建築家は、どう作ってきたのかといったことを感じて欲しいのです。現場の創造者(建築家)と同じものを感じてもらうことが重要だと思うのです。私の作品は、“フィクションのようなドキュメンタリー”あるいは、“ドキュメンタリーのようなフィクション”であることが多いのですが、これは、社会的な現実はいつもそこにあるべきと考えているからです。私にとってリアルであることが非常に重要で、その意味で、今日のこの人生とはどういうものであるかを見せたいと思っています。そういう映画を撮ることで、見る人の人生を向上させることができればと期待しています。今日の世界における気候変動や人間の欲望といった問題をまず捉えて、映画の中で表現していく社会性が非常に重要だと思います」(ヴェンダース監督)

『PERFECT DAYS』 
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
12月22日(金)より、「TOHO シネマズ シャンテ」ほかにて全国公開予定。配給:ビターズ・エンド
WEB:https://perfectdays-movie.jp/
X:@perfectdays1222

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