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映画『ちょっと思い出しただけ』公開目前!
映画監督・松居大悟×俳優・池松壮亮対談。
何でもない日々と、個人の切実な生を映し出す先に

30年前にミニシアターブームを作ったジム・ジャームッシュの遺伝子を引き継ぐこと(池松)

――ちょっと話を脱線して、松居監督と池松さんの出会いの頃の話を伺いたいのですが、お二人は2010年のラジオ(FMシアター「相方のあり方」2010年、NHK-FM)で最初に組まれたんですよね。

松居 これは大傑作ですよ。

池松 それから12年ってすごいですね。その時は一日の仕事だったからほぼ覚えていないのですが。

松居 俺は覚えてるよ。

池松 ほんと?

松居 ツナギを着た少年がやってきて。

池松 覚えてないな(笑)。

松居 第一印象は「顔、ちっちゃ」。

池松 (笑)。僕としては、初めてのストレートプレイ『リリオム』(2012年、青山円劇カウンシル)で一緒に組んだことがやはり大きかったです。

――その後、尾崎さんを含めて3人のお仕事としては、尾崎さんの原案を松居監督が脚本にした『自分の事ばかりで情けなくなるよ』、『私たちのハァハァ』があり、松居さんと池松さんとのタッグでは『君が君で君だ』があって。
池松さんは俳優としてトップを走るようになり、クリープハイプもメジャーシーンで活躍し、尾崎さんは芥川賞候補の作家にもなった。映画が一番、形に作るまでの時間がかかるので、松居監督としてはお二人の背中を追いかけるスタンスになるかなと思うんですけど。

松居 ふふふ、そういうのはありましたね。もちろんミュージシャンや俳優部のほうが人に気づかれる瞬間が多いものですが、自分の中では、一緒に作った作品を人に見てもらえている実感がありましたし、華やかではないけれど、主宰する劇団「ゴジゲン」もあったので、大丈夫だったんです。
 うーん、いや、大丈夫なフリをしていたのかもしれない。3人とも何かしらの不安を抱えていたし、悩みが似ていたんですよね。そのことについて会って話せていたから大丈夫だったんだと思います。そりゃ、池松君、めっちゃ賞を獲っているなって焦る瞬間もありましたけど。

――池松さんは、この脚本が来た時、松居監督の変化を感じましたか?

池松 脚本は稿を重ねるごとに変化していくものなので最初の段階と完成品ではだいぶ変化がありますが、なんというか、可能性が見えたんですね。変な言い方ですけど、勝算が見えたというか、これだったら勝負ができるっていうのが見えた。
 昨年の夏、本当は三カ月くらいロシア映画に参加するはずだったんです。けれどそれが急遽飛んでしまい、この夏どうしよう、暇だなと思っている頃に『ちょっと思い出しただけ』の話を頂きました。それはコロナ禍でミニシアターの存続にまつわる深刻な問題が出て、みんなが打開策を探している時期でもありました。ジャームッシュといえば、日本で約30年前にミニシアターブームを作った人です。そんなジャームッシュの映画に喚起され、遺伝子を受け継いだ作品の企画が今、ジャームッシュ作品をはじめとするミニシアター作品に沢山の影響と恩恵を受けてきた自分の手もとに来た。ミニシアターに足を運びたくなるような映画をどう打ち出すべきかという自分自身の思いと、様々な事情が繋がって、この作品に向き合ってみようと思わせてもらいました。

『ちょっと思い出しただけ』には8種類のフライヤーがあり、設置されている映画館に足を運び、このフライヤーを集める映画ファンも多数。タイトルロゴやデザインを手がけたのは、数々の映画ポスター、フライヤー、パンフレット、DVDなどの優れたデザインを担当してきた大島依提亜。使用されている写真のすべてが、本作を彩る大切な場面だ。

――私は、尾崎さんの演技が予想以上にうまくてびっくりしました。

松居 伝えておきます。

――尾崎さんの緊張感を和らげるような用意をされたんですか?

松居 いやいやいや。むしろ、すごく聞いてくるんですよ。「ここは、どうだった?」「若干、声小さすぎた?」って。

池松 尾崎さん、楽しそうだったし。やっぱりジャームッシュ映画におけるトム・ウェイツ的な立ち位置でスクリーンの中にいてもらわないと。

松居 そうそう。

池松 ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、社会的な弱者を描き、弱者同士を繋ぎ、何年も前に多様性を映した映画だと思うんですね。今ではどちらかというとオシャレ映画として認知されていますが、内実は本当に痺れるほど見事です。ジャームッシュ映画にはお笑い芸人やミュージシャン、素人、そして俳優が見事に作品世界に溶け込んでいます。そんな映画を愛し、この映画の発端である尾崎さんにも出てもらえたのは本当に良かった。最初はね、嫌がってたんです。

松居 そう。台本がいいし、邪魔したくないって。それこそバンドのプロモーション映画だと思われたくない、映画と曲の関係性は独立したものであってほしいって言っていたんだけど。でも、ジャームッシュの映画に欠かせないトム・ウェイツの立場でっていうと、じゃあ、特殊メイクをさせてくれって言われたんですよ。それで髭を用意させてもらって。だからこの映画の尾崎君は、クリープハイプの尾崎君じゃないです。あそこにいるバンドは、トム・ウェイツのような男が率いるバンドで、クリープハイプの曲を演奏しているという。

池松 「ナイトオンザプラネット」の歌詞の二番に、今回、明確に、「いつのまにかママになってた」という歌詞が出てきて、「命より大切な子供」って尾崎さんは歌っているんですよね。完全に青春と決別している。2010年代を共にした僕はそこに心動かされましたし、この時代の大きな転換期に発表する映画としての可能性を感じました。

Sosuke Ikematsu ● 1990年生まれ、福岡県出身。2003年『ラストサムライ』で映画デビュー以来、映画を主戦場に圧倒的な表現力で観客を魅了し、日本映画界には欠かせない存在に。主な出演作に映画『紙の月』『海を感じる時』『ぼくたちの家族』『愛の渦』(すべて’14年)、『劇場版MOZU』(’15年)、『セトウツミ』『デスノートLight up NEW world』(すべて’16年)、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17年)、『斬、』『君が君で君だ』『万引き家族』(すべて’18年)、『町田くんの世界』『宮本から君へ』(ともに’19年)など。近年は海外作品への出演も多く、活動の幅を広げている。待機作に『シン・仮面ライダー』(2023年公開予定、庵野秀明監督)。第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第41回ヨコハマ映画祭主演男優賞、2018年度全国映連賞男優賞、第9回TAMA映画賞最優秀男優賞ほか受賞歴多数。

Daigo Matsui ● 1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を担い、自身も役者として出演。2012年『アフロ田中』で長編映画監督デビュー。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(’13年)、『スイートプールサイド』(’14年)、『ワンダフルワールドエンド』『私たちのハァハァ』(ともに’15年)、『アズミ・ハルコは行方不明』(’16年)、『アイスと雨音』(’18年)、『君が君で君だ』(’18年)、『#ハンド全力』(’20年)などを監督。クリープハイプをはじめ、数々のMVも手がける。’21年には『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』と『くれなずめ』が公開。また、小説『またね家族』も上梓している。4月、5月には、ゴジゲン第18回公演『かえりにち』を上演する(チケット発売は3月上旬予定)。

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