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映画『ちょっと思い出しただけ』公開目前!
映画監督・松居大悟×俳優・池松壮亮対談。
何でもない日々と、個人の切実な生を映し出す先に

 松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』(2月11日全国公開)は、2021年の夏、東京オリンピック開催中の東京の街を中心に撮影された。すぐに編集されて、2021年11月の東京国際映画祭コンペティションにノミネートされ、観客賞を受賞し、審査員によるスペシャルメンションも発表された。映画の舞台となるのはコロナ禍以前の生活と、コロナ禍以降の生活、オリンピック以前の日本と招致が決まってからの日本、人生を変えると思えた恋をした日々と、人生を変えなかった恋愛以後の生活。過去と今を同時に行ったり来たりする愛おしい作品で、東京国際映画祭の閉会式で、審査員長を務めたフランスの女優、イザベル・ユペールは“受賞作とは遜色がないぐらい素晴らしい”という意味を込めて「スペシャルメンション」を急遽設けたと説明し、主演の池松壮亮と伊藤沙莉のふたりの演技をたたえた。クリープハイプが作った「ナイトオンザプラネット」という曲を託されて出来上がったこの映画を巡る松居大悟監督と池松壮亮の対談で、3人の歩みについても聞いた。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / hair & make up : Fujiu Jimi / interview & text : Yuka Kimbara

『ちょっと思い出しただけ』
 2021年7月26日。この日34回目の誕生日を迎えた佐伯照生(池松壮亮)は、朝、いつものように観葉植物や飼い猫の世話をし、ラジオから流れる音楽にあわせて体を動かしていた。ステージ照明の仕事をしている彼は、その日もダンサーに照明を当てる。一方、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)は、ミュージシャンの男を乗せて夜の東京の街を走っていた。男は、トイレに行きたいと言って劇場で車を降りる。葉もタクシーを降りると、どこからともなく聞こえる足音に吸い寄せられてしまう。そこには、ステージで踊る照生の姿があった。
 その1年前。2020年7月26日には、照生は部屋でリモート会議をし、葉はマスク姿で飛沫対策シートをつけたタクシーを運転していた。再び遡り、2019年7月26日。照生は理髪店で髪を切ってから仕事に行き、夜は行きつけのバーで酒を飲んでいた。葉は居酒屋で合コン。彼女は、行きがかり上、LINEを交換することになった男にアイコンの猫について聞かれる。彼女がアイコンにしていたのは、照生が今も飼っている猫のモンジャだった。
 時はさらに1年ずつ遡り、照生と葉の蜜月の時や出会いの瞬間を映し出す。二人の、そして観客の私達の、二度と戻らない愛しい日々が思い出されていく。

松居大悟監督・脚本、池松壮亮、伊藤沙莉ほか出演。
2022年2月11日(金・祝)より全国公開。東京テアトル配給。
WEB:choiomo.com
Twitter:@choiomo_movie
Instagram:@choiomo_movie
©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

うかつに人に会えない時代だけど、そんな日々も先の未来から見たら愛おしいものになるんじゃないか(松居大悟)

――東京国際映画祭の閉会式に参加していたのですが、審査員長のイザベル・ユペールさんや、同じく審査員だったローナ・ティーさんが、池松さんと相手役の伊藤沙莉さんのふたりの演技に恋をしたと話していたのがとても印象的でした。

池松壮亮(以下、池松) 感動しましたね。コンペティション部門にノミネートされたラインナップは、多くが社会問題を描いたものでした。一方この映画はそういうものではなく、個人が生きていること、特に東京で、このコロナ禍に、時代の転換期に今生きていることの切実さを映したものです。グローバルな視点からすると本当に小さな小さな、けれども確かにある切実さを、フランスから来たユペールさんをはじめとする審査員のかたたちが見てくださったこと、そして評価してくださったことに感動しました。懐が深いなと思いました。

松居大悟(以下、松居) 閉会式の後、審査員の一人だった映画プロデューサーでキュレイターのローナ・ティーさんと話したとき、この映画の照生と葉のふたりの恋愛の物語が、国は違っても自分たちの関係と思えるほどだったと言ってもらって。意見が割れたから主要な賞は与えられなかったけれど、強く推す人がいたから「スペシャルメンション」となったと聞きました。誰と誰が割れたのかは教えてくれなかったんですけど(笑)。

――『ちょっと思い出しただけ』は池松さんが演じる照生の暮らす部屋が主な舞台で、彼の毎年の誕生日を基軸にしているのですが、この作品を見て思い出したのが、松居監督が2020年、コロナ禍による緊急事態宣言期間中にSHINPAによる在宅映画製作として発表した短編映画『カーテンコール』でした。これは、松居監督の呼びかけによって全国から集まった、緊急事態宣言下の色んな人の自分の部屋から見える風景の羅列でしたけど、今回は照生の部屋の風景はつぶさに写されるけど、彼の部屋から見える景色は限定的に、ラストになって明かされます。

池松 それ僕に見せてくれたやつですよね?

松居 うん、(映画のリンクを)送った。最初の緊急事態宣言中、みんなが外に出られない状況の中で声をかけてもらった企画ですね。普段ならあまりこうした企画には参加しないのですが、このときは「やらなくちゃいけない」と思って。みんなに呼び掛けて家の中から見える風景を送ってもらい、それを集めて当たり前の景色が愛おしく見えるように編集しました。

松居大悟監督『カーテンコール』(SHINPA在宅映画制作 #2)

――『カーテンコール』を見たとき、松居さんや風景を提供した人々と同じく苦難の時を過ごしているんだという同時代性を心強く感じたんですけど、それがより強度を増したのが『ちょっと思い出しただけ』ですね。この映画を見ながら、自分の過去の6年間の記憶がとても刺激的に想起させられました。

松居 ありがたいです。日々の積み重なりが愛おしいという。

――そうです、まさにそういう共感が、この映画にもあって。前はどうでもいいと思っていた部屋で過ごすということの意味が一変するという感覚を起こされて。それは脚本を書いている段階から見えているビジョンだったんですか?

松居 何気ない日々を連ねて、愛おしい二人の時間にしたいなというのは思っていました。6年間のとある一日を描く際、その一日はあえて特別な日にはしたくなくて。足を怪我した日とか、照生と葉の付き合いだした日とかのターニングポイントの日じゃない。
 何気ない一日や、ちょっとした日々も愛おしくなる瞬間ってあります。今はうかつに人に会えない時代だけど、そんな日々も先の未来から見れば愛おしいものになるんじゃないか。そんなことを考えて脚本を書いていました。コロナ禍だったからかもしれないですけどね。

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