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映画『スワンソング』試写会、ゆっきゅん×カナイフユキ、
そしてスペシャルゲストにヴィヴィアン佐藤が登場した、
豪華トークセッションをレポート!

 ヘアドレッサー、メイクアップアーティストとして一世を風靡したパトリック・ピッツェンバーガー(通称ミスター・パット)が、人生の終盤に自らを取り戻していく過程と、その旅路を描く映画『スワンソング』(2022年8月26日公開)。
 本作の公開に先がけて、「装苑ONLINE」ユーザー限定の特別試写会を開催。映画上映後には、ゲストに歌手・文筆家として活躍するゆっきゅんさんと、人気コミック作家でイラストレーターのカナイフユキさんをお迎えして、『スワンソング』トークをくり広げていただきました。トークの後半には、シークレットゲストとして、アーティストでドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんが登場!大盛況の『スワンソング』試写会のトークセッションの様子をお届けします。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)

『スワンソング』
STORY 
ヘアメイクドレッサーとして有名な「ミスター・パット」ことパトリック・ピッツェンバーガー。ゲイとして生きてきた彼は、パートナーのデビッドを1994年にエイズで亡くし、店を構えていた町も離れて、今は老人ホームに入居している。ヘアメイク業もとっくの昔に引退していた。そんなパットのもとに、あるとき弁護士がやってきて思わぬ依頼をする。それは、元顧客であり親友のリタからの遺言で、「私の死化粧をしてほしい」というもの。リタと確執を抱えたままだったパットは一度依頼を断るものの、思い直し、かつて暮らした町へと向かうため、老人ホームを飛び出す。懐かしい町で様々な人と出会う中、パットは時代の変化や自らの過去、知らなかった事実に向き合っていく。

監督:トッド・スティーブンス
出演:ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス2022月8月26日(金)より、シネスイッチ銀座、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

左 ゆっきゅんさん、右 カナイフユキさん。

――まずは、『スワンソング』からゆっきゅんさんとカナイフユキさんの心に残った場面を教えてください。

ゆっきゅん:いくつも名場面があったんですけれど、最初に泣いたのは、昔、一度だけミスター・パットのヘアサロンに来たお客さんに再会する場面です。その方が営んでいる洋服店で、服を選んでもらうところ。ミスター・パットは、誰も自分のことなんて覚えていないと思っていたけれど、そんなことはなくて、とてもいい記憶として洋服店の人の中に残っていて。そこがすごく泣けましたね。
 そのあと、何度もそういうテーマが出てきましたよね。現代のゲイカップルが子供を育てているのを見て、「彼らは子供の記憶に残るけれど、自分はどうだろう」という風にパットがつぶやいたり。彼がずっと寂しさや孤独感を抱えてきたことがわかるのですが、ラストでは、パットの存在がある人の心を救っていたということが明らかになる。面識がない相手や、世代が遠い人にも、何かを残したり伝えたりできるということも描写されていて、いいなと思いました。

カナイフユキ:ミスター・パット自身、ゲイの自分には世代をつないでいくようなことはできないと思っていたのに、実はできていたんですよね。その展開は、僕もすごく素敵だなと思っていました。だからゆっきゅんが今言ってくれたラストは、もう涙なしには観られない感じで……。

ゆっきゅん:うんうんうん。

カナイフユキ:その場面で、重要な役を演じていたのはマイケル・ユーリーという役者さんなんです。

ゆっきゅん:すごくかわいい。

カナイフユキ:そうなんですよね。彼は『アグリー・ベティ』(2006~2010年)というアメリカのドラマでもいい役を演じていた役者さんで。そのときはファッション雑誌のエディター役で、オネエキャラみたいな感じなんですけど、彼自身にも恋愛などのドラマがあって。それで僕はマイケル・ユーリーが好きだったので、彼が『スワンソング』でも重要な役を演じていて嬉しかったです。実際、彼はクィアであることをカミングアウトしているんですよね。
 あとは、ミスター・パットが人生の最後にだんだん自分を取り戻していくところですよね。さっきゆっきゅんの話に出た洋服屋さんの話もそうですけど、帽子や服を手に入れるうちに、だんだんミスター・パットになっていく……という様子が視覚的にもチャーミングだし、ぐっとくる感じがありました。最終的にはサングラスをかけて、靴を盗んで完成するっていうのも印象的でしたね。衣装を使った演出がよくできているなあと思いました。
 もう一つ付け加えると、歴史の移り変わりを描いていること。現在のゲイカップルは子育てもするし、出会いの場がバーやクラブじゃなくてアプリになっているっていう描写もあって、時代の変化がわかります。
 パットとリタの確執の原因が、パットの恋人がHIVで亡くなったことに起因しているという話がありましたよね。それで、ああいう田舎町だと、HIVに対する偏見や間違った知識があったんだろうなということを想像させられました。今だとHIVにどう感染するかは学校でも習うので皆知っていると思うのですが、昔、情報が少ない町では空気感染すると思い込んでいる人もいたようなんです。そういう風に時代の移り変わりがさりげなく色々と入っていて、素晴らしいと思いました。

ゆっきゅん:言葉をちゃんと選んで言うと、この主人公のパットってクソジジイだと思うんですよね。バッドビッチっていうか。

一同:(笑)

カナイフユキ:チャーミングだよね。

ゆっきゅん:そう。クソジジイ愛してるぜ!っていう映画だと思うんですよ。劇中、パットが自分自身を取り戻す変化はあるんですけど、人に優しくなったりはしなくてずっと悪態をつき続けてる(笑)。約束もすっぽかすし。それが人間味があるというか、愛せるなあって。このミスター・パットの人物造形の魅力がそのままこの作品の魅力ですよね。

カナイフユキ:冒頭、パットのいる老人ホームに弁護士がきて「リタの死に化粧をしてほしいんだ」って言ったら、パットが「枝毛まで再現するの?」みたいに皮肉を言うじゃないですか(笑)。

ゆっきゅん:おまえ!って感じよね(笑)。

カナイフユキ:ずーっとあのテンションなんですよね。

ゆっきゅん:パットが町に戻って最初に行く美容室での、会話の応酬もすごくよかったですよね。それで、そこにあったピンクの帽子が完全に似合っちゃって。あの帽子をかぶった瞬間に取り戻していく感じはありました。
 それは、パットを演じていたウド・キアーの演技のすごさだと思うんですけど、洋服店の試着室から出てきたときもねぇ……良かった。DIVAムービーでした。

映画『スワンソング』より。写真上が、ゆっきゅんさんが話してくれたピンクの帽子。

――DIVAといえば、ミスター・パットがゲイクラブのステージに立つ場面もあって、それが映画の構成上効いていましたよね。ゆっきゅんさんから見て、ミスター・パットのステージパフォーマンスはいかがでしたか?

映画『スワンソング』より。ミスター・パットの場面。

ゆっきゅん:尊敬するディーヴァが増えましたね。昔通っていた閉店間際のクラブにいったミスター・パットが、急遽、その場にあったシャンデリアをかぶってステージに出てくるところもすごく泣けました。二つ目に(心に残った場面を)あげるとしたらそのシーン。

カナイフユキ:音楽もよかったですよね。

ゆっきゅん:うんうん。劇中流れる音楽に、歌詞の和訳が字幕で出るじゃないですか。その和訳の歌詞と、映画の場面がリンクしているところが親切だなと思いました。これは、私があんまり洋楽を知らなくて、どのくらいのヒット曲だったかがわからないからかもしれない。もしも日本のヒットソングをああいう風に使ったらやりすぎって感じちゃうと思うのですが、そこは自分の知らない曲だったから楽しめた感じもありました。

カナイフユキ:時代感も音楽で再現していましたよね。ミスター・パットが生きてきた時代と今で、音楽も使い分けられているんだろうなって。

映画『スワンソング』より。親友の最後の願いを果たすため、老人ホームを抜け出し町へ向かうミスター・パット。

――クラブの閉店もそうですし、ミスター・パットが愛していたものがどんどんなくなっているのが現代だという描写もありましたよね。その過去の物たちにまた色気もあって。タバコの「MORE」とか。

ゆっきゅん:「ヴィヴァーンテ」も!

カナイフユキ:ヴィヴァンテなんて化学物質だらけの昔のヘアセットのアイテムよってバカにされ続けても、パットはそのヴィヴァンテにこだわっているんですよね。それも良かった。

ゆっきゅん:どこを探してもヴィヴァンテが無いんだよね。でもどうしてもヴィヴァンテが必要だから、いちばん会いたくないかつての弟子のディー・ディーのところに行くっていう。

カナイフユキ:それも死に化粧を頼んできたリタのためなんだろうなっていうのが、友情ポイント。

ゆっきゅん:そうそう。この映画、ミスター・パットの人生の終わりを描いた映画というふうに見られると思うのですが、リタとパットの友情の物語としても私はとらえていて。
 リタとパットは友達なだけではなく、一緒に仕事もしていたわけなんですが、そういう人と「対話ができなくなってしまう」という断絶の、一番大きなことって死だと思うんです。だけどリタからの遺言の形で、ミスター・パットに最後のヘアメイクの指名が残された。それが一体どういうことなのかがだんだんわかってくる、そこにたどり着くまでの旅が描かれているんですよね。
 会いたくない弟子に会いに行くのも、リタのためではあるんだけど、自分が悔いなく人生を終えるためでもあるんですよね。もうね、男女の友情ものにわたくし弱いので、ぐっときました。その友情がだめになってしまった理由が、パットの恋人のデビッドの死だったというのが悲しいけれど。

カナイフユキ:描かれていないしセリフにもなかったですけれど、恋人のHIVがわかって、パットのお客さんが減ったということかもしれないですよね。

ゆっきゅん:町を出ざるをえなくなったんでしょうね。

カナイフユキ:悲しいなあ。

ゆっきゅん:あとは、自分がずっと見ないようにしてきた過去に向き合わなきゃいけないこともあるんだなって思いました。ミスター・パットが向き合いたくないことに向き合っていく姿勢や、一度約束をすっぽかすところ、無茶をして倒れてしまうようなところが美しいなって。そういうもがいているさまが、生命として綺麗でした。

カナイフユキ:ミスター・パットがいきいきしていたから、自分達も悔いなく死にたいなって思わされますよね。

――ミスター・パットをめぐる重要なアイテムが映画にはたくさんでてきますが、お二人が印象に残っているものはありますか?

カナイフユキ:いっぱいありますが、やっぱり、最後に出てくる盗んじゃった靴。あと老人ホームでナプキンを畳み続けていることにもぐっときました。最初にゆっきゅんが言っていた、洋服屋さんで服を着替えたところも、なにかがバチッと来たと思いますし。
 あと個人的に思ったのは、犬ですね。ポスタービジュアルにもなっている、パットが着ているミントグリーンのジャケットの衿についてるブローチも犬なんですけど、随所に犬が出てきますよね。最初、パットが思い出の品をベッドの下から引きずり出してくる場面で見えるデビッドの写真が、犬との2ショットなんです。デビッドが犬好きの設定だからなんだろうなと思ったのですが、そんな風に、印象に残るものがうまく挟みこまれている映画でした。

ゆっきゅん:私は、やっぱりピンクでキラキラの帽子が。あのバチって決まった瞬間、物語が動き始める感じがしました。ミスター・パットからしたら帰りたくない町に帰ってきているから最悪だったと思うんですけど、ピンクの帽子をかぶったのが、あの町でパットが初めていきいきした瞬間だったんじゃないかな。

――おっしゃるように、ヘッドドレスが重要なシーンで出てくる映画でもありましたよね。まだまだお二人からお話をうかがいたいのですが、実は、今日スペシャルゲストがきてくださっているので、ここでお呼びしたいと思います。アーティストであり、ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんです!

左から、ヴィヴィアン佐藤さん、ゆっきゅんさん、カナイフユキさん。なんとこの日のために、ヴィヴィアン佐藤さんが劇中に出てくるパットの「シャンデリアハット」を再現したヘッドドレスを制作。その特別な帽子を、ゆっきゅんさんにこの場で贈呈!ヴィヴィアン佐藤さん作のシャンデリアハットは、『スワンソング』を公開中の「シネスイッチ銀座」(ロビー)にて展示中。読者の皆さんは、ぜひ、パットの物語とともにゴージャスなシャンデリアハットにも会いに行って。

ヴィヴィアン佐藤さん。

シャンデリアハットを贈呈されたゆっきゅんさんと、ヴィヴィアン佐藤さん。

映画『スワンソング』のシャンデリアハット。

――ヴィヴィアンさんバージョンの「シャンデリアハット」のデザインポイントを教えてください。

ヴィヴィアン佐藤:これは私がデザインしたわけじゃなくて、ほとんど映画のものを同じようにコピーしたわけなんですけど、このハットが出てくるのは本当に重要なシーンなんです。
 というのも、ドラァグクイーンの文化は、廃材やいらなくなった物、価値がないとして見捨てられた物や捨てられた物などを活用して、価値あるものに変換させる「見立ての文化」なんですよ。価値のあるようなものと、価値のないようなものを同列に扱うこともします。だから、ドラァグクイーンは単に派手な女装や派手な恰好をしているわけではないんですね。映画の中のシャンデリアも、もともとは隅に置かれていましたよね。そういう、使っていない物や廃材になっていた物をヘッドドレスにすることがドラァグクイーンっぽいなって思ったんです。
 ジャン・ポール・ゴルチエやヴィヴィアン・ウエストウッドも、実はゲイクラブのパーティーにきて、ドラァグクイーンの手作りの衣装のアイデアを盗んでいたんです。だからドラァグクイーンがヴィヴィアンやゴルチエのコピーをするっていうのはおかしな話で、本来は逆。彼らに影響を与えるのがドラァグクイーンなんです。

――そうなんですね!クリエイティブなドラァグクイーンの精神がわかり、いまとても勉強になっています。ゆっきゅんさんは、シャンデリアハットをかぶってみていかがですか?

ヴィヴィアン佐藤:罰ゲームみたいじゃない?大丈夫?

ゆっきゅん:シャンデリアハットに耐え得る私服を選んでまいりましたので、大丈夫です。これをかぶってミスター・パットはパフォーマンスしていたんですねぇ。重みを感じます。

カナイフユキ:これにあわせて大丈夫な服が手持ちであるってすごいですよ。

――カナイさんのネックレスも作られたものなんですよね。

カナイフユキ:はい!貴和製作所で材料を買って、パットの手作り精神に敬意を表して作ってきました。

ヴィヴィアン佐藤:素敵。じつはこの帽子は点灯するんです。点灯式をしましょうか。3、2、1、はいっ。

シャンデリアハットが点灯!さらにサプライズで、この後はヴィヴィアン佐藤さんからゆっきゅんさんにヘッドドレスもプレゼントされました。ゆっきゅんさんは「うれしい…普段使いします」とのこと。

――では最後に、皆さん一言ずつメッセージをお願いいたします。

ヴィヴィアン佐藤:私は、この映画のウド・キアーさんに感動しました。ブルーグレーの瞳が素敵でしたよね。映画『ベニスに死す』は、老作曲家が美(タッジオ)を求めてベニスを彷徨い歩き冥界に向かっていくという映画でしたけど、『スワンソング』にもそんなところがあるなって思います。低予算で作られている映画ですが、良い作品なのでヒットしてほしいです。

カナイフユキ:ヴィヴィアンさんからいまお話があったように、低予算の映画ではあると思うのですが、かなり丁寧にいろんなことを織り込んで作られています。なのでぜひ多くのかたに観ていただきたいですし、観たら感想を綴ってSNSに投稿したり、ご友人や知人のかたに広めていただけたらなと思います。

ゆっきゅん:今日はなんていうかいろんなことが起きすぎていますが……素敵な映画のトークに呼んでいただいて、ありがとうございました!『スワンソング』を観て救われる人がいると思います。そういう方に届いてほしい映画です。


ヴィヴィアン佐藤 ●アーティスト、非建築家、美術家、映画批評家、イラストレーター、文筆家、擂り鉢地形研究、尾道観光大使、青森県七戸市キッズDQ化プロジェクトほかで活躍。芸術全般への深い造詣から、ジャンルを横断して独自の見解で分析。自身もアーティストとして活動する。個展やヘッドドレスのワークショップも開催。8月は渋谷の「QWS」にて「ヴィヴィアン佐藤ヴンダーカマー」のインスタレーションを行なった。
Twitter:@viviennesato  
Instagram:@viviennesato

カナイフユキ ● 個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動。エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたzineの創作を行う。今年4月には、渋谷の「GALLERY X BY PARCO」で個展『ゆっくりと届く祈り』を開催し、作品集も販売。
Twitter:@f_k_offi
Instagram:@fuyuki_kanai
WEB:https://fuyukikanai.tumblr.com/

ゆっきゅん ● 2014年の上京とともに、アイドル活動を開始。’16年より、サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバーとして活動する。ミスiD2017でファイナリストに。ユニットでのライブ活動を中心に、個人では演技、トーク、映画やJ-POP歌姫にまつわる執筆業でも活躍している。’21年からはセルフプロデュースでのソロプロジェクト「DIVA Project」をスタートし、デビュー曲「DIVA ME」が話題に。新曲「遅刻」と「日帰りで」が配信されたばかり。
Twitter:@guilty_kyun
Instagram:@guilty_kyun
WEB:https://www.guilty-kyun.com/

『スワンソング』
WEB:https://swansong-movie.jp/ 
Twitter : @swansong_movie  

© 2021 Swan Song Film LLC

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