matohu(まとふ)
パタンナー 廣嶋勇紀
まとふの予約制店舗「matohu椿山」で。ボディが着ているのは、ちょうど廣嶋さんが組んだばかりだという2024年春夏のシャツのトワル。
工場で勤めた経験から、創造的パターンにアプローチする
小売業界で3年働いた後、「自分が好きなことをしてみよう」と一念発起。文化服装学院服飾研究科に入学した廣嶋勇紀さんは「初めは“見返し”すら分からなかったんです」と苦笑するが、文化で学ぶうちに、職人気質を生かせるパタンナーの仕事に関心を持つようになった。
「まとふのデザイナー、堀畑(裕之)や関口(真希子)がパタンナーだったように、服作りの根幹であるパターンが分かれば、デザインもできるようになるのではないかと思ったんです。それで技術専攻に進み、卒業後は福島県の縫製工場、三恵クレアに就職しました。勤めた5年間で、様々なターゲットやテイストのブランドのパターン制作と裁断に携わることができました。その経験は宝物です」
工場のパタンナーとブランドのパタンナーはまったく違う。いかにパターンで創造性を発揮できるかが肝。
しかし、縫製工場とデザイナーズブランドでは、同じパタンナーといってもその仕事内容は「まったく違う」という。
「縫製工場では、よりきれいに縫いやすく作ることにフォーカスしますが、ブランドのパタンナーには創造性が求められます。まとふには制作のプロセスが大きく二つあり、一つはデザイナーのデザイン画に対してアプローチをかける方法。そしてもう一つは、パタンナーからのデザイン提案です。部分的な見本も丸ごと1着も、パタンナーがデザイナーに提案できるので、技術のみでなくクリエイティブな力も問われます。また、デザイナーが求めるバランスに近づけていくためには、トワル組みの作業が大切です。昔は多い時で5、6回組み直したこともありますが、今は2回程度で完成させられるようになりました。パタンナーの仕事の本質は、デザイナーが作りたい服の具現化。そしていかに最短でそこに到達できるかが大切なところで、そのためには『仮説・検証・フィードバック』のプロセスを重視しています。さらに一緒に働くスタッフとはなんでも話せる環境づくりも心がけています。パタンナーは職人仕事である半面、コミュニケーション能力が生きる仕事でもあるんです」
ʼ23-ʼ24年秋冬コレクション「共振する世界」より。(右)今季を象徴する、イチョウなどの落ち葉柄のテキスタイルが美しいスカートは、左右で切り替え位置もギャザー分量も変えた遊び心にあふれた造形。¥69,300 (左)ゆったりしたシルエットのパンツは、左脚前身頃が右脚に少し重なるアシンメトリーな作り。タック入りでエレガントな印象にも。¥73,700 まとふ(matohu椿山)
Q&A INTERVIEW
① デザイナーズブランドのパタンナーに必要な資質は?
デザイナーが作りたいものを具現する担い手としての力量と、コミュニケーション能力。
② 仕事で大切なプロセスは?
トワルを組んだら、モデルに着せて必ず歩いてもらいます。布の動きや分量感を見て修正することが大切です。トワルの縫製も自分で行いますが、きれいに縫えていないとデザイナーが正しくチェックできないので、トワル縫製にも気を使います。
③ 仕事の楽しみは?
これまで11回のコレクションを担当しました。毎回成長を感じる瞬間があり、それが楽しみにつながっています。
Yuki Hiroshima
1986年生まれ、神奈川県出身。文化服装学院服飾研究科を経て、2014年、服飾専攻科技術専攻卒業。福島県南相馬市の縫製工場、三恵クレアで5年間勤めた後、ʼ18年にリューズテンに入社。まとふのパタンナーを務めている。
matohu
1998年に文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコースを卒業した堀畑裕之と関口真希子が2005年に設立。日本の美意識が通底する新しい服の創造をコンセプトに、和洋のどちらにも属さない独自のスタイルを提案。ʼ18年より、国内の手仕事を言葉と映像で伝える「手のひらの旅」をコレクションとともに発表している。
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