栁 俊太郎 Netflix映画『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』インタビュー。“ゾンビ”にならないためにしている大切なこと。

2023.08.15

ブラック企業で働き、生きる気力を失って汚部屋で暮らす天道輝(てんどう・あきら)が、ゾンビだらけになった街で迫る死者たちに追われるーーという奇想天外なストーリーが人気の漫画『ゾン100 〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』。テレビアニメも放送中のこの作品が、Netflixで実写映画化され、現在配信中。本作で、主人公・輝の親友の竜崎憲一朗ことケンチョを演じた栁俊太郎さんにインタビュー。パニック映画の中のこと、と単純に笑い飛ばすことができない不思議なリアリティを感じる本作について、お話を聞きました。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Shogo Ito (sitor) / hair & make up : Akihito Hayami (CHUUNi)  / interview & text : SO-EN

“『明日からどこにも行かなくていいよ』と言われたあのコロナの時に、少しほっとした人が何人いたのか、と”

――『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』は、漫画から始まり、アニメ、そして今回の実写映画に展開されている作品です。栁さんが演じられた主人公・輝(アキラ)の親友の竜崎憲一(ケンチョ)は、漫画ともアニメとも違うオリジナルの「ケンチョ」だと思いました。

栁 俊太郎:「ありがとうございます。そこは結構意識したところでした。漫画のケンチョは、よりエンタメ性のあるキャラクターだったと思うのですが、実写ならもう少しシリアスに見えた方が面白いかなと思って役作りをしたんです。
それは、脚本を読んだ時に、この映画が人間ドラマであり青春群像劇でもあると感じたことや、ケンチョの葛藤も書かれていたことが大きかったです。それなら見た目も含めて、もう少しケンチョを自分に近いキャラクターにしてみようと。物語の前半は黒髪ですが、あれはウィッグなんですよ。ちょっと変な面白いやつにしたいなと思って選びました(笑)」

――歌舞伎町のシーンの途中から着ていた柄シャツが印象的でしたが、あの衣装はどんなふうに選んだのでしょうか?

栁 俊太郎:「あの服は歌舞伎町で仕入れた設定なんです。歌舞伎町でゲットした服を着て、歌舞伎町で見つけたカラー剤で金髪にして。だから後半のケンチョは歌舞伎町仕様です(笑)。あの柄シャツ、歌舞伎町っぽさがありますよね」

――はい、絶妙な柄や素材感にも「らしさ」があって。金髪具合にこだわりはありましたか?

栁 俊太郎:「あんまり綺麗にしたくないなっていうのはありましたね。自分で適当に染めた時にちょっとオレンジっぽくなっちゃう感じにしています。そこはリアルさを求めていました」

――『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』はゾンビ映画ですが、いみじくも今の日本を表しているように感じました。過剰に我慢したり苦しみながら自分を失って生きているのは、ゾンビ状態と言えるのではないか、と。栁さんには、この映画の世界のゾンビはどのように見えていましたか?

俊太郎:「輝なんてまさにそうで、やりたいこともできずに機械化しちゃっていますよね。命はあるけど、何のために生きているのかはわからない状態。それはゾンビのようだと思いますね。現代社会においては、気づかずそうなってしまっている人は多いのではないでしょうか。

輝がゾンビだらけの世界に気づいて言ったのは『もう会社に行かなくてもいいんじゃね?やったあ!』で、あの姿ってぶっ飛んでて面白いのですが、よく考えると3年前、僕らも一瞬そう感じなかった?と思うんです。突然やってきたコロナウイルスのパンデミック禍で、人と関われない、外には出られない、仕事はリモートになって、僕ら役者も現場がなくなった。『明日からどこにも行かなくていいよ』と言われたあの状況で、最初、『やった』って少しほっとした人が何人いたのかと。そう思うと、輝は変なやつかもしれないけど、決して自分たちと遠い感覚を持った人ではない。割とこの現実もゾンビの世界に近いというか、もう少しで僕らもゾンビになるところだったんじゃないか、と今にして思いますね。そういう現実を思い起こさせるのも、映画の役割の一つだと感じます」

――わかります。本作はそうして自分を押し殺していた状況から脱却するというストーリーでもあり、勇気づけられました。

栁 俊太郎:「自分を押し殺して生きている人が多い中で、ちょっとは解放してもいいんじゃないか、ということがこの作品のメッセージだと思います。『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』を見て、少しでも解放感を得ていただけたなら、この作品に参加した意味がありますね。
あとは、自分のやりたいことを考えてみるのもいいかもしれません。僕自身も実際にやってみたんです。すると、『ここに行きたい』とか『これをしたい』とかよりも、『これをやらなきゃいけない』と思うことがたくさん出てきて。家族に会いに行かなきゃいけないとか、大切な親友と飲みに行かなきゃとか、英語を勉強しなきゃとか……人生には、まだまだやらなきゃいけないことがあるんだなって思いました。自分の人生を見つめ直す作品でもあります」

“多分、かっこつけだったんです。でもそれは、役者をやるなら違うだろと思いました”

――『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』の漫画の原作者である麻生羽呂さんは、2020年に栁さんが出演したNetflixシリーズ「今際の国のアリス」の原作者でもあります。「今際の国のアリス」で演じられていた「ラスボス」みたいな尖った役も、今回のケンチョみたいに身近にいるような青年役も、近年の栁さんの出演作では全く異なる人物像を見ることができますが、振り幅や引き出しをつける上で意識されていることはありますか?

栁 俊太郎:「新鮮に見てもらえることは、すごく重要だなと思っています。これをやればカタいけど、見ている人は飽きちゃってるみたいなことが、僕は一番嫌で……。そうならないためにも、普段から物事をフラットに見るようにしています。あまり自分の価値観では判断しないというか、柔軟な気持ちで物事を見ることを意識して、他者の意見も受け入れる。それを否定しちゃうと、新しい情報が入って来なくなる気がして」

――なんでも一回自分の中に取り込んでみる?

栁 俊太郎:「そうですね。20代の頃は、『かっこいいか』『かっこよくないか』でなんでも判断しちゃって、自分が『かっこよくねえな』と思うと、割と何事も避けちゃうタイプだったんです。ただそういう姿勢は、モデルの仕事をする上ではいいと思うのですが、役者として生きていくなら違うなと。役者は、自分がかっこいいと思えない役を演じることだっていくらでもあるんですよね。だからいろんなものに触れて受け入れることが重要だと思ったんです。生き方が変わりました」

――そう思うのに何か強いきっかけがあったのでしょうか?

栁 俊太郎:「特別なきっかけがあったわけではなく、このままで俺大丈夫なのかなって思った感じですかね。役者として面白いことしてるのかな?って。もっといい役者になりたいという気持ちが強く芽生えたら、考え方も柔軟になりました。多分、“かっこつけ”だったんです。プライドも高かったですし。それはモデルをやるならプラスに働いたと思うのですが、役者なら違うだろと思いました」

――自分自身を変えたというお話でしたが、自らを失った「ゾンビ」にならないようにしていることはありますか?

栁 俊太郎:「肉体的にも精神的にも健康でいることが大事だと思うので、サプリを飲んだりして気を遣っています。いろいろ実践していることはあるのですが、健康でいようとすると、朝は早起きして日光を浴びよう、とかどんどん繋がっていくんですよね」

――人としてベーシックに大切なことを大切にする、ということですね。

栁 俊太郎:「はい、そこが一番大事かな。そうすると、人に優しくしたいとかも思うようになって。一番忘れちゃいけないことを大切に持っておけば、“ゾンビ”にはならないはずです」

Shuntaro Yanagi  
2009 年に第24回メンズノンノモデルオーディションでグランプリを受賞。パリコレクションやミラノコレクションなどに出演。2012 年に俳優デビュー。世界 190 ヵ国に配信された Netflix「今際の国のアリス」をはじめ、映画やドラマで話題作に続々出演。2022 年は 10 本以上のドラマ、映画に出演。直近ではフジテレビ連続ドラマ「スタンド UP スタート」に出演した。7 月期テレビ朝日連続ドラマ「ハレーションラブ」に出演中。
Instagram:@shuntaroyanagi

Netflix映画『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』
上司からのいびりと終わらない残業。心身をすり減らしながらただひたすらに働き続ける会社員の天道輝は、ある日突然始まったゾンビの増殖をきっかけに、生きる喜びを取り戻すことになる。「今際の国のアリス」の麻生羽呂原作、高田康太郎作画の連載漫画を原作とした実写映画として誕生。
監督:石田雄介、出演:赤楚衛二、白石麻衣、栁 俊太郎ほか
Netflixにて独占配信中。