横浜流星と黒木 華。
役を表現するビジュアルの作り込みのお話と、価値観の現在地。

2023.04.21

なるべく色々な映画を観て、様々な人に会って話をすることが大事。「早くこうしていればよかったな」と。――横浜流星

自分が極めたいと思うこと以外のことが、意外と本当にやりたいことにつながっていく。――黒木華

――装苑読者には10代・20代のクリエイターやクリエイター志望の方が多くいます。おふたりからアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

横浜:僕からすると同世代の方も多いかと思いますが、なるべく色々な映画を観て、様々な人に会って話をすることが大事だなと思います。ちょっと前に僕はふさぎ込んでいて、あまり他者と会わないような時間がありました。でもそれをやめてから色々なものを学べて、「早くこうしていればよかったな」と感じています。かといって人から得たものを全部取り込むのではなく、必要ないものはそれでいいし、自分で色々探したうえで判断すればよいかなと思います。

黒木:やっぱり、何でも経験した方がいいと思います。そうすることで何が好きなのか、嫌いなのかがわかってきますよね。人としてやってはいけないこと以外は、何でもチャレンジしてみてほしいです。自分が「極めたい」と思うこと以外のことが、意外と本当にやりたいことにつながっていったり。

 「やっておけばよかった」と後から思わないように、どんどん飛び込んでいってほしいです。

――失敗に臆病になりがちな人にとっても、非常に後押しになる言葉です。

黒木:たとえ失敗したとしても絶対無駄にはなりません!

――作品選びにおいて、ほかの役者さんからは「身近にメンターがいない」という声も聞きますが、おふたりはどのような工夫をされていますか?

横浜:それこそ藤井さんが「面白いよ」と薦めてくれた映画を観ることもありますね。ハマるものもそうでないものもあるけど、まずは観てみる。そこから気になる役者さんがいたら他の作品を探して観てみて、そうやって広がっていきます。

黒木:私も監督からオススメの作品を教えてもらうことは多いですね。あとはフライヤーです。フライヤーのデザインがカッコいい映画は、やっぱり観たくなります。その他だとA24が好きなので、A24作品もよく観ます。『ヴィレッジ』の配給、制作会社であるスターサンズも「日本のA24」を目指している、と伺いましたが、同じようなチャレンジ精神を感じます。(スターサンズの創立者である)河村光庸さんにお会いしたときもそうですし、藤井さんにお話を伺っても「誰もやっていないことをやる」ことを重視しているのかなと思いました。

――藤井監督ともA24についてよく話すのですが、黒木さんはどんな作品がお好きですか?

黒木:いっぱいあります。『ミッドサマー』も好きですし、最近観て面白かったのは『ライトハウス』です。

横浜:観てみよう。

――横浜さんも以前『SKIN/スキン』のお話をされていましたよね。『ヴィレッジ』の撮影の合間などに、おふたりでそうしたお話はされたのでしょうか。

黒木:撮影の最初の方は、横浜さんが優のような状態になっていたから(笑)、これは話しかけちゃいけないんじゃないか……と思ってしまって。

横浜:そうですね(笑)。

黒木:後半になってちょっとだけお話しました。
 今回、私が演じた美咲は、優を受け止めて包み込む役だったので、目線であったりセリフがないところで醸し出すものを感じ取ってもらえるように神経を研ぎ澄ませていました。キャストもスタッフも集中力がとても高い現場でしたね。

横浜:芝居をしていても黒木さんは全部受け止めて下さるし、包み込んでくれました。優は長い間いじめにあっていたことで人間として生きられていなかったけど、美咲と会って、彼女の前では唯一人間でいられるようになったという感覚があります。

――美咲に「ずっと一人で頑張ってきたんだよね」と言われて優がせきを切ったように泣きだすシーンが印象的でした。

横浜:あれは救われたシーンでした。ロケ場所の都合上、その前のシーンを事前に撮ることができず「心が追い付けるのか」という不安はありましたが、いざ本番が始まったら杞憂に終わりました。あのシーンを早めに撮れたことでより優として生きることができましたし、その後の美咲とのシーンもより距離を近付けられた気がします。

黒木:あのとき、美咲には母性のような感情がありました。悔しさや切なさ・寂しさはきっと彼女自身も持っていたものだと思います。「大丈夫だよ」という言葉は、優だけじゃなく自分にも言っているように感じました。

――藤井監督は優と美咲の関係を「鏡」と語っていましたが、いま黒木さんがお話しされたようにどこか共依存的でもありますよね。

黒木:撮影の最初の方にいま挙げたシーンを撮ったことで、そうした距離感が自然に生まれていきました。私は横浜さんと今回が初共演だったので、そういった意味でも一気に距離が近づくシーンを早めに撮れたことは大きかったです。

――該当シーンは一連で撮影(シーンの途中からアングルを変えて撮り直すのではなく、頭から行う形)されたそうですね。

横浜:そうですね。一連で撮ってもらえるのは、僕はすごくありがたいです。気持ちがどんどん高まっていくところを自然に出せますから。

――藤井監督は粘りの演出で有名ですし……(笑)。

黒木:穏やかに「いいですね。もう一回!」とおっしゃいますよね(笑)。

横浜:言いますね(笑)。

――横浜さんは、優と美咲の共依存的な関係についてはどのように受け止められましたか?

横浜:そうですね。自分としてはとにかく美咲を守りたい一心でした。

――なるほど。「共依存的」というのは、ちょっと他者的な目線ですね。当事者からすると必死になっているから……。

横浜:そうなんです。優と美咲にはある事件が起こりますが、優としてはどうにかして目の前の問題を片づけなければならないし、美咲に罪の意識を持ってほしくないという感情でいっぱいでした。その事件も、「なんとか美咲を守ろう」と自分の中で彼女を思った結果の行動だったかなと思っています。

Ryusei Yokohama 
1996年生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。近年の出演作に、『きみの瞳が問いかけている』(’20年)、『あなたの番です劇場版』『DIVOC‐12/名もなき一篇・アンナ』(ともに’21年)、『嘘喰い』『流浪の月』『アキラとあきら』『線は、僕を描く』(’22年)など。他、ドラマ「初めて恋をした日に読む話」(’19年/TBS)、「私たちはどうかしている」(’20年/NTV)、「着飾る恋には理由があって」(’21年/TBS)、「DCU」(’22年/TBS)、「新聞記者」(’22年/Netflix)、舞台『巌流島』などに出演。待機作に、主演映画『春に散る』(’23年8月25日公開予定)。

横浜さん着用:コート¥760,000、シャツ¥145,000(参考価格)ディオール(クリスチャン ディオール TEL 0120-02-1947) / その他 スタイリスト私物

Haru Kuroki
1990年生まれ、大阪府出身。2010年、NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』に娘役で出演。その後、映像作品にも活躍の幅を広げ、『小さいおうち』(’14年)でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)、『浅田家!』(’20年)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な映画出演作に『リップヴァンウィンクルの花嫁』(’16年)、『日日是好日』(’18年)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(’21年)、『余命10年』(’22年)、『イチケイのカラス』『#マンホール』(’23年)など。待機作に、映画『せかいのおきく』(’23年4月28日公開予定)。

『ヴィレッジ』
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