松岡茉優×古川琴音
20代の痛みと輝きをその身に映して

北村くんがそう決めたんだったらきっと大丈夫だと思えるところがありました。――松岡茉優

「お芝居というのは、守って破って離れる、だ」
――古川琴音

――本作では、他者の人生観に訴えかけるような言葉がいくつも登場します。おふたりが他者にかけられた言葉などで、いまもご自身の中で生きているものはありますか?

古川:そうですね……(考え込む)。

松岡:私たちは作品ごとに出会いがありますし、折に触れて様々な言葉をいただくものですが、北村匠海くんのことを話したいなと思います。彼とは縁が長くて、初めてご一緒したのは彼が中学生のとき(ドラマ「鈴木先生」)。その後は私が初めて主演した映画に私の想い人として出てくれて(映画『勝手にふるえてろ』)、次は私が想われる役(ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」)、そして『スクロール』では全く交じり合わない人生を生きる間柄でした。

 最初の共演は学園モノで、演じる私達も中学生で若かった。その年代って、どうしても大きなものに流されがちになると思うんです。どこか長い物に巻かれてしまうようなところがあったのですが、彼はそんな中でも、自分が違うと思うことはやらなかった。一番わかりやすい例で言うと、みんながその場の空気に流されて笑っていても、自分が面白いと感じなければ、笑わないような子でした。その一方で内に熱いものを秘めていて、カッコいい人だなとずっと思っていたのですが、北村くんが現場で不平不満を口にしているのも聞いたことがないんです。もちろん監督に食い下がったり「ここはこうですか?」という提案はあるけど、後から「あれはおかしいよね」みたいな話を絶対にしない。それが彼のブレないところだから、今回も北村くんが「やる」と決めたことが私も参加したいと思う大きな理由になりましたし、北村くんがそう決めたんだったらきっと大丈夫だと思えるところがありました。北村くんの存在自体が私にとって大きいのは間違いありません。彼が今後どんなお仕事をしていくのか、私も楽しみです。

古川:私も色々な現場で刺激を受けながら今があると思っていますが、ぱっと思い出したのは中学校の演劇部のときのことです。顧問の先生が本当に演劇好きな方で、新歓公演の台本も書いて下さったのですが、その中に「お芝居というのは、守って破って離れる、だ」というセリフがあったんです。『風姿花伝』の序・破・急のお話をしているのですが、その当時の私はセリフの意味がわからず覚えたままにセリフを発していました。

 でも、この仕事を始めてから先生がおっしゃっていた言葉の意味がわかるようになりました。最初に台本という地図があり、自分のセリフを覚える必要があり、「最低限この言葉は言って物語をつなげなければいけない」という「守る」べき約束事がある。ただ、守っているだけでは役が生きてきません。だから次に「破る」へと向かう。自分と重ね合わせたり、自分なりに想像力を膨らませて積み重ねていくフェーズ。そして、カメラの前に立ったらそういったことをすべて忘れて、まるでいま思い浮かんだ言葉を話しているようにゼロになる。これが「離れる」です。まだまだ全部が全部わかっているわけではありませんが、年々納得するようになっています。

――素敵なお話をありがとうございます。『装苑』や「装苑ONLINE」の読者には10代後半~20代前半のクリエイター志望の方も多いのですが、ちょっとした“後輩”たちへのメッセージを最後にお聞かせください。

古川:逆に聞いてみたいことがたくさんあります。私は昔も今も、自分が何が好きで何が嫌いかがまだ曖昧で、だからこそ〈私〉に憧れを抱きました。演じるうえで、「好きなものだけじゃなくて嫌いなものもわかっておくと自分らしく生きられるのかも」と思いました。

――松岡さんの「短所も設定する」というお話とも重なりますね。そんな松岡さんはいかがですか?

松岡:私は、日常で自分自身が気づいたことはかけがえがない発見だと思っています。とっくの昔に誰かが気づいていることだったとしても、自分の中で実感を手に入れるのは全く別物で、映画や本はそのきっかけをくれる存在です。

 特に今回は少し若い世代の葛藤のお話だと思いますが、この4人に自分を当てはめる必要はありません。「あれは違うんじゃないか」とか「なんであんなことをしたんだろう」というようなものでもいいですし、すぐに何かが変わらなくてもいい。ただ、20数年間生きてきた4人の人生がたまたま交錯してしまった瞬間を観たことで、今後の人生に生きてくるような自発的な“実感”が生まれたら、これ以上ないほど嬉しいです。

Mayu Matsuoka  1995年生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)、「コウノドリ」(’15年)などで注目を浴び、主演映画『勝手にふるえてろ』(’17年、監督:大九明子)で第42回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞、『万引き家族』(’18年、監督:是枝裕和)で優秀助演女優賞を受賞。『蜜蜂と遠雷』(’19年、監督:石川慶)、『騙し絵の牙』(’21年、監督:吉田大八)でも同賞優秀主演女優賞を受賞。主な映画出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(’12年、監督:吉田大八)、『リトル・フォレスト 夏・秋』『冬・春』(’14年、’15年、監督:森淳一)、『猫なんかよんでもこない。』(’16年、監督:山本透)、『ちはやふる -下の句-』『-結び-』(’16年、’18年、監督:小泉徳宏)、『ひとよ』(’19年、監督:白石和彌)『劇場』(’20年、監督:行定勲)、『ヘルドッグス』(’22年、監督:原田眞人)など。3月19日(日)より放送・配信がスタートするWOWOWの連続ドラマW「フェンス」で主演を務める。

松岡さん着用:ジャケット、パンツ 各¥64,900、シャツ ¥39,600 ウジョー(エム TEL 03-6721-0406)/ イヤリング ¥22,000 イオッセリアーニ(アッシュ・ペー・フランス TEL 03-5778-2022)/ 靴 スタイリスト私物

Kotone Furukawa     1996年生まれ、神奈川県出身。2018年に映画デビュー。NHK連続テレビ小説「エール」、「この恋あたためますか」(ともに2020年)、「コントが始まる」、「流行感冒」(ともに’21年)、主演作「アイドル」(’22年)などのテレビドラマや、短編映画『春』(’18年、監督:大森歩)、映画『十二人の死にたい子どもたち』(’19年、監督:堤幸彦)、『泣く子はいねぇが』(’20年、監督:佐藤快磨)、『花束みたいな恋をした』(’21年、監督:土井裕泰)、街の上で(’21年、監督:今泉力哉)、『今夜、この世界から恋が消えても』(’22年、監督:三木孝浩)、『メタモルフォーゼの縁側』(’22年、監督:狩山俊輔)などで若手俳優としての地位を固める。濱口竜介監督がベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いた短編集『偶然と想像』(’21年)では、三編のうちの一編「魔法(よりもっと不確か)」で主演を務めた。

古川さん着用:チュールトップ ¥74,800(税込み)、チュールスカート 参考商品 サポートサーフェス(TEL 03-5778-0017)/ リング  mamelon

『スクロール』
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