私は基本エゴサはしないです。自分がどうかというより、映画自体がどう思われたかに興味があるかな。──岸井ゆきの
その時々で保守的なやつは新しいものを否定するけど、新しいものの良いところを見つける作業をした方が健全だと思うんです。──𠮷田恵輔
――承認欲求と羞恥心の狭間で葛藤するというか……。
𠮷田:実は、俺はエゴサはめっちゃしてるんですよ。ワンクリックで見られるっていうくらい頻繁に。基本は作品に対してだけど、みんなが書いてるレビューは俺自身に対しての評価ともうほぼ変わらないし、それを10年以上続けているとあんまり何も感じなくなっては来ている。
ただ普通の人はディスられ慣れていないから、自分に否定的なことを言われたら傷つくはず。俺は気に入られなくて当たり前の世界に生きていると思ってるから、「この人の映画本当に嫌い」と書かれてもプカー(と煙草をふかす)って感じで「嫌いって言いながら毎回観てるじゃん! はい俺の勝ち‼」って思ってる(笑)。
あと、一つひとつの意見は一個人のものだけど、何十個も見ていくと「評判の良くない箇所」が見えてきたり、「意外とみんな同じ勘違いしてるな」みたいなのがわかってくる。逆に「俺は何も考えていなかったけど、みんな褒めてくれるな」もあるし。アンケートとして活用している部分もありますね。自分を変える必要はないけど「ここを変えたほうがいいじゃん」は参考にはなるかな。まぁでも、怖さはあるよね。
岸井:私は基本エゴサはしないです。自分がどうかというより、映画自体がどう思われたかに興味がありますね。
𠮷田:確かに。芝居の良し悪しなんて観る人次第だし、映画自体もそうだけど「生理的に無理」とか「こいつのこの発言腹立つ」とかまで言われたらいやだね。そう、だから取材って結構危険なんですよ(笑)。
岸井:2秒だけ切り取られて使われたり……。
𠮷田:切り取りは怖い。動画だったら雰囲気とか喋り方で「今はふざけてるな」とかがわかるけど、文章でガチガチに書かれると「ボケになってない!」と思うことがあって。
岸井:本気で言ってるみたいになりますよね(笑)。
𠮷田:俺もふざけてムロさんのことを「ムロは……」みたいにいじるけど、なんか偉そうに見えちゃうじゃん。難しいよね。
映画『神は見返りを求める』より
――ただ、『神は見返りを求める』では否定的な部分だけではなく「YouTuberとして生きていく矜持」もしっかりと描かれているのが素敵でした。
𠮷田:正直、両方の気持ちがあるんです。映画やテレビが築いた文化を、ほぼ素人同然のやつが「時代は俺たちのものだ」みたいにして!と受け付けない部分もある。けど、文化の歴史ってそういうことの繰り返しじゃないですか。ラジオがテレビになるとか、舞台が映画になるとか。その時々で保守的なやつは新しいものを否定するけど、新しいものの良いところを見つける作業をした方が健全だと思うんです。
YouTubeはそんなに甘い世界じゃないし、売れてるやつがお金を持っているといったって、そういう人はすごい努力をしてて、才能があるわけです。やっかみを持つのは簡単だけど、その人たちのスゴさをちゃんと見ないといかんと思う。実際、俺自身もやっかむ一方でYouTubeばっかり見てるしね。
岸井:𠮷田監督はどんな動画を観ているんですか?
𠮷田:お金のやつ。投資とか株とか不動産、税金とかの。アメリカがこういうことを考えるのは中国がこうだから、そしてそれが日本に影響して……みたいなものを分かりやすく解説してくれるのがあるんだよね。
あとは、読むのが難しい本の解説動画。『罪と罰』とか長いしロシア人の名前が覚えられないけど、喋りが上手い人が40分くらいで内容を解説してくれるとすっと頭に入ってきて読んだ気になれる。
岸井:私は、YouTubeをほぼ観ないです。昔のライブ映像を観るくらいです。家に帰ってきてテレビをつけたら、すぐFire TV Stickを起動させて「何の映画を観ようかな」という感じです。
𠮷田:SYOさんも仕事でやってると思うけど、YouTubeで映画を解説しているやつもすごくたくさんあるよね。俺は自分が作った作品だから語れるけど、他人の作品を1~2回観ただけでよくここまで分析して語れるなと感心する。
――ここ数年で一気に増えましたよね。実は僕自身は、解説系はほぼ観なくて……。
𠮷田:そうなんだ。
――はい。前提として、映画と自分の対話だけで完結するのが好きで。
岸井:私もそうかもしれません。「『スリー・ビルボード』を観た」とインスタのストーリーズに書いたら、知人が「これ面白いよ」と前置きしつつ「これがこれのメタファーで……」みたいなことが書かれた解説記事のURLをくれたことがあって、「私にとって映画はそういうことじゃない!」ってなりました。作った監督が言うならまだしも、第三者がする「徹底解説」ってなんだ?とプチパニックになりましたね。
𠮷田:『空白』で、「これはこれのメタファーだ」とみんながすごく考えてくれている部分があったんだけど、俺はそんなこと全然考えてなかったんだよ(笑)。タイトルも「考えてごらん」な感じだったからなんだけどね。
――『空白』の最初のタイトル案は『白波』でしたよね。
𠮷田:そうそう。当の本人を飛び越えてみんながすごく喜んで考えてくれて。そういった場としてネットは面白いなと思うし、みんな考察が好きなんだなと感じます。
――『神は見返りを求める』の同時代性は、いったいどう受け止められるのか気になりますね。𠮷田さん、岸井さん、今日はありがとうございました!
𠮷田・岸井:ありがとうございました!
Keisuke Yoshida ● 1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作する傍ら、塚本晋也監督の作品の照明を担当。2006年に自らの監督で『なま夏』を自主制作し、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。’08年には小説『純喫茶磯辺』を発表し、同年、自らの監督で映画化して話題を集める。近年の主な作品は、『ヒメアノ~ル』(’16年)、『犬猿』、『愛しのアイリーン』(ともに’18年)などがある。2021年公開された『BLUE/ブルー』『空白』では、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞にて監督賞を受賞し、また『空白』は、第76回毎日映画コンクール・脚本賞、第43回ヨコハマ映画祭では作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と4冠に輝いた。
Yukino Kishii ● 1992年生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー。以来、映画、ドラマ、舞台と話題作に出演し、2018年主演を務めた『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)では第39 回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を、’19年には主演を務めた『愛がなんだ』(今泉力哉監督)で第 43 回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。今年は主演映画『やがて海へと届く』(中川龍太郎監督)、『ケイコ、目を澄ませて』(三宅唱監督)、出演映画『大河への道』(中西健二監督)と公開が続く。吉田組は『銀の匙 Silver Spoon』(’14年)以来の出演。
映画『神は見返りを求める』
WEB:https://kami-mikaeri.com/
Twitter @MikaeriKami