喜劇より難しいものはないと思っていました。
――賀来さんご自身が俳優業の中で「これは自分の強みだ」と自覚した瞬間はありましたか?
賀来:僕は映像の仕事がない時期に、ずっと舞台でコメディをやっていました。正直、同世代の俳優は誰もコメディに興味を持っていなかったと思います。当時は「自分しかやっていないな」という意識が自分を支えていました。その経験が『今日から俺は!』で初めて役に立ちました。自分は間違っていなかったと自信が付きましたし、「やっておいてよかった!」と心から思いました。
Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」より
――今回、賀来さんが演じた晴は寡黙な主人公ですが、ある種コメディのスキルを制限するチャレンジでもあったのではないでしょうか。
賀来:僕の中で喜劇より難しいものはないと思っていましたが、今回の「引く」芝居は難しかったですね。晴は自分自身の欲求というよりも「可憐(吉岡里帆)を守らなくちゃいけない」といったように、周囲に引っ張られて行動するタイプ。だったら今回はセリフも少なくして、とことん引いてみようと考えていました。いままでにやったことのない役柄だったので、そうした意味では大変でしたが、そのぶんやりがいはありました。
――ただ、芝居自体をデフォルメして笑わせるものではなく、自販機のドリンク交換で忍者のスキルを使うところなど、シーン全体で笑わせるコメディの要素はありますよね。
賀来:そうなんです。今回は「おかしさ」の方の笑いで、滑稽だったり情けなかったり奇妙である状態そのものの笑いを追求しました。
――個々の表現について、Netflixだからできたという描写はありましたか?
賀来:クリエイティブの部分で自由度はあったと思います。ただ、僕の中では「攻める」という意識よりも「子どもにも観てほしい」方が重要でした。先ほど「元々家族モノを作りたかった」とお話ししましたが、それに加えて子どもと一緒に忍者村に遊びに行ったときに子どもも大人も、そして国内外の人々が楽しんでいる光景を見て「この忍者という日本のコンテンツをもっと生かした作品を作りたい」と感じたことが、本作の着想源のひとつなんです。そのため、子どもも楽しめるレートにするのは僕の中では絶対条件でした。ラブシーンなどもそうですが、「これ以上血の量が増えるとレートが変わって何歳以下は見られなくなる」というルールがあるため、そこは守りながら作っていきました。
家族を盗み見ている感覚になれるような作品に出来ないかと。
――ちなみに、賀来さんが家族モノに惹かれていた理由も伺えますでしょうか。
賀来:自分自身に子どもが生まれて、今は4人で生活しているのですが、数年前までは1人で暮らしていたわけです。その変化が僕の中ではすごく大きくて。また、子どもとは血がつながっていますが妻は当然ながら元々他人で、そんな僕らが「じゃあ今日から家族です」とチームになることって改めて考えると凄いことだな……と。家族と一緒に過ごしていると、いいことも悪いことも含めて毎日様々な感情に出合います。ものすごく楽しいときもあればムカついちゃったり悲しいときだってありますし、「ここまでドラマ性のあるものはやはり家族だな」という考えに、実体験を通してたどり着きました。
そのうえで自分ならどう作品を作るかと考えたときに、どこかにいそうな家族を描きたいと考えました。そして、そんな家族を盗み見ている感覚になれるような作品に出来ないかと。家族の会話って他人は見られないものですし、セリフを聞かせる会話劇というよりも「家族自体を見ている」をテーマにしていました。
――もうひとつ伺いたいのは、エンタメとシリアスのバランスです。第1話でも本気度が伝わるショッキングなシーン(殺人現場等)が見られますが、ビジュアル的なインパクトと全方位的なエンタメ感はどのように整えていきましたか?
賀来:ビジュアル面でいうと、まず撮影部と照明部が絶対的な画を作ってくれるのは間違いなくわかっていて、そこにデイヴのいわゆる日本的とは異なる独自の視点が加わればインパクトが出せるのでは、と期待をしていました。
そして物語面でいうと、配信の連続ドラマとしては毎話クリフハンガー(物語の最後に続きを観たくさせるような“引き”の仕掛けを作ること)が必要になるため、常に意識はしていました。連続視聴したくなる“引き”と、伏線や謎がちょっとずつ明かされていく気持ちよさが、エンタメ感につながっているのかもしれません。そうしたカギやヒントは必ずしも派手なものである必要はなく構成上の話ではありますが、どこに配置するかは一番難しかったポイントかもしれません。
――初めて本作を拝見した際、「キッチンの調味料が妙に多いな」と感じたのですが、後から「あれも伏線だったの!?」とわかって非常に楽しかったです。
賀来:ありがとうございます。そこに気づいていただけたのは初めてです(笑)。
Kento Kaku 1989年7月3日生まれ。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。2021年には第45回エランドール賞 新人賞、第29回橋田賞新人賞を受賞。主な出演作品は、映画『斉木楠雄のΨ難』(’17)、『今日から俺は!!劇場版』(’20)、ドラマ『ごくせん』(’09)、『今日から俺は!!』(’18)など。公開中の映画『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』ではゲスト声優を務める。映画、ドラマ、舞台、声優、ラジオなど様々な分野で活躍。主演・原案・共同プロデューサーを担うNetflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』が2月15日より全世界独占配信開始。
Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」
歴史の節目に幾度となく存在してきた”忍び”が今もなお、この日本社会で秘密裏に任務を請け負っていたとしたらー。本作は現代の日本を舞台に、過去のとある任務をきっかけに忍びであることを捨てた最後の忍び一家・俵(タワラ)家が、国家を揺るがす史上最大の危機と対峙していく完全オリジナルストーリー。2月15日よりNetflixにて世界独占配信開始。
主演:賀来賢人
出演:江口洋介、木村多江、高良健吾、蒔田彩珠、宮本信子、山田孝之
原案:賀来賢人、村尾嘉昭、今井隆文
監督:デイヴ・ボイル