「FOL SHOP」店内より
周りの人を開いて波を起こしていく。
――渡辺さんはどういうところに面白さを感じて、今回お店も一緒にやろうと思われたのでしょうか?
渡辺 蓮くんからこういう話をずっと聞いていましたし、あとは経済的に必要という面も大きくて。私や蓮くんは、「映画を作って楽しかったらそれでいいじゃん!」みたいな感じなんですよ。そうしたら、それに影響を受けた大学生の子達が就活を辞めて「蓮くんについていきます」みたいになって。それはいいけど、現実問題、生活どうするんだっていう問題意識を持ってくれたのがオーナーの高橋(達之真)くんなんです。「蓮が映画を撮っていない間も食べていける働き先がいるだろう」と、高橋くんが立ち上がってくれたという経緯があるので、私は関係ないですって言えないというね(笑)。
写真右から、オーナーの高橋さん、渡辺さん、須藤さん。
渡辺 そうした現実はありつつも、すごく素敵だなと思ったことがあります。私も蓮くんも、映画を作るときに、役者さんが一番魅力的に見える角度はどこかとか、どんなキャラクターを演じてもらったら役者さんの良さが最も引き出されるかということを考えるのが好きなんです。映ってくれる人が一番魅力的に見えて欲しいという思いがあって、それが蓮くんの衣装への興味にもつながっていると思うんですね。
そしてオーナーの高橋くんは、これまで別の古着屋を10年やってきた中で、「この人の魅力が引き立つのはどんな服かな」という視点でお客さんに服を選んできていたそうです。それを聞いた時、ああ、私たちが映画でやろうとしていることと、この人が古着でやろうとしていることは一緒なんだなと思いました。
ということは、そんな場が与えられることによって、より自分の魅力に気づく人が出てきたり、ポテンシャルを発見できるようなことが起こるんだろうなと感じて、本当にワクワクしたんです。それがすごく今、社会に必要なことだと思っています。解放されて欲しいなって。
須藤 この活動の目標は、スピリットを多くの人と共有すること。「楽しい」と感じることの中に、なんの強制力もないけどゆるい連帯意識みたいなものがじわじわ広がっていくというのが、今、僕が興奮して面白いと思えることです。
そういうふうに、あまり攻撃的ではないけれど、社会を変えていく熱気ある文化運動のような名前のないものに「FOL」という名前を仮につけて、”声”をどんどん上げられるようにしたい。ただ、その声というのは、過分に正義を訴えたり不満を漏らすものではなく、自分のやりたいことはこれなんだ、と、新しい現実を作っていく形で発露していくことが、僕は一番、社会を面白くすることにつながると思っています。
変化の波は自分一人では起こせないかもしれない。けれど周りの人を開くことで波を起こしていくというのが渡辺あやのスピリット。僕はすごくそのスピリットに共鳴していて、僕の世代でそれをやっていこうと思っているんです。
「FOL SHOP」店内より
――渡辺さんが持っていらっしゃる創作の核や大切にされているものを須藤さんが感じ取って、表現される場がここになっているんですね。
須藤 そうです。あやさんに最初にお会いしたとき、「そうすればいいんだ」ということの連続だったんですよね。まっすぐ、ただ自分が感じている社会問題を訴えるのではなく、楽しいとかかっこいいとか、いろんな形でスピリットが染みていく装置にこの店がなればいいな、と。それは受け取ると元気になるものなので。
渡辺 私たちは『ワンダーウォール』で出会っていて、それはある問題を扱ったものでした。その時は問題意識を理解し、共有してくれる人を増やそうとして一生懸命やっていたのですが、「このほうが正しいはずでしょ」という思想のように伝わると、なにか限界があるということに、ある時、二人して気がついたんです。これでは何も変わらないねって。そこからいろいろやり方を模索して、ここにたどり着きました。
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