私が心がけているのは「ライフセンタードデザイン」、命や人生を中心に置いたデザインです。
――ペドロさんやご家族と良い関係性が続いているのですね。そして新しい素材のお話も教えていただきましたが、ファッションデザインについてよく言われるのは、「もう新しさは生まれず、そこにあるのはリバイバルとミックスのみ」という言説です。少し前まで、私もそれについてただ同感するのみだったのですが、今作で納得のいく素材からデザインを生み出すエイミーさんの姿を拝見して、ファッションの新しさとはもはや表層にあるのではなく、その思想や過程にあるのではないか?と感じるようになりました。エイミーさんはどう感じられていますか?新たに作る価値のあるファッションは何でしょうか?
エイミー・パウニー:私たちは学校でデザインを学びます。その後、仕事を始めると、誰かにデザインしたものを「こうして作ってください」と頼んだり、あるいは人によっては自らサプライヤーを見つけたりするでしょう。ですが、私は全くそれとは逆のやり方をしなければいけないと考えました。つまり、最初にデザインがあるのではなく、ある繊維や供給者を見つけてから、それに合わせてデザインをする方法をとるということです。制限はクリエイティブの邪魔になるという人もいますが、私は、リミットがあるからこそクリエイティビティを発揮できると思っています。最近、私が心がけているのは「ライフセンタードデザイン」、命や人生を中心に置いたデザインです。それは、自然でオーガニックな繊維を使うということだけでなく、ビジネスやその構造、それを支える哲学やサプライチェーン全てをデザインし、その全てにおいて「ライフセンタード」なアプローチを取らなければいけないと考えているということです。それは、世界と世界の人々と調和を持つものでなければいけないんです。
現代において、デザイナーは何か一つのものだけをデザインするのではなく、システムやビジネス全体をデザインしなければいけない局面にきています。一つのものしか見ていなければ、それに対する責任しか持たないし全体像が見えない。そうやって仕事をすることでチェーンが壊れてしまうのです。今シーズンのドレスはこんなデザインにします、というような考え方ではなく、全ての側面を見てアプローチすること。それが現代のデザインなのではないかと思っています。
映画『ファッション・リイマジン』より
――とっても重要なお話をありがとうございます。そんな新しいアプローチができるようになるため、ファッションデザイナーを目指す若い世代は何を学ぶべきでしょうか?
エイミー・パウニー:さっき言ったようなプロセスを全て学べなかったとしても、自分がデザインしているものについては、100%そのサイクルを知らなければいけないと思うんです。使った素材がどこから来て、どう作られているのか? 例えば作ったコットンドレスの綿がどこから来ているのかを知らないのは、もうダメでしょう。何をデザインしているのか、どうしてデザインするのか、どうやってデザインをするのか。それをしっかり理解することが、ライフセンタードデザインのアプローチですし、それはサステナビリティのアプローチにおいても重要です。
デザイナーとして、私たちは服を埋立地に送りたいわけではないですよね? それなら裁断やフィッティング、クオリティや耐久性が充分であるかを考えながら作らなければならないでしょう。あとは、誰がその服を着るのかということも重要ね。過去の数字を見ながら、消費者が求めているものは何かを分析することも必要だと思っています。なぜこんな風に言うかというと、学生時代、私もそのように教わったからです。学生の頃は、Vogueが好みそうなものは何か、業界が好きそうなものは何かを考えてデザインしていました。当時は、ファッションの世界が新しさやワクワク、クリエイティビティをひたすら追求する世界だったのでそれだけで良かったのですが――こんな地球環境では、単にそれだけを追い求めていてはいけないですね。ファッションのワクワクや楽しさといった側面を追い求めるのはもちろんですが、同時に、自分がデザインするもののライフスパン――どういうふうに消費者が手に取り、その品物は何年着られて最終的にどうなるのか――ということを知識として持たないと、このサイクルはひび割れていくばかりだと思います。
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