枝優花がまなざす、ドラマ「コールミー・バイ・ノーネーム」の工藤美桜と尾碕真花。シューティング&鼎談。

2025.01.09

名前を呼ばれることは、自分自身の存在を理解して他者とつながる行為

尾碕:そうですね。でも無理矢理「剥がされる」というのではなくて、気づいたら裸だった、みたいな。

工藤:うんうんうん。

尾碕:普通にしゃべってただけなのにいつのまにか服着ていない、みたいな状態にされているので、気負わずお芝居に入れます。

工藤:私は、本読みの段階から全てバレていたので……。その時「あっ!怖いかも!」って思ったんですけど、撮影期間の折り返しくらいの時、ある場面で、思ったことをまっすぐに伝えてくださったんです。伝えてくださった感覚がその時の私にはなかったし、できるような自信もなくて。でも、そんなふうにまっすぐ気持ちを伝えてくださる方にはなかなか出会わなかったので、気づかせていただけて「ああ幸せ!」って思いました。

:タイトルです。この仕事をしていると、自分とは何者なのか?ということに向き合わざるを得なくて、何のために生きてるんだろうとか、何に喜びを感じて生きているのかとか……それがわからなくなってしまったり、自分と作品が曖昧になってきてどこに立っているか見失ってしまうので、自分で自分を把握している必要があって。

それが2023年くらいに「人は何のために生きていて、どこで喜びを感じるのか」という問いに一度自分の中で答えが出て、それは「自分を認識してもらった時だ」と思ったんです。その最たる行為が名前を呼んでもらうことだって思ったんですよ。その場にいるのに名前を呼んでもらえなかったり存在を無視されたら、それだけで心もとなくなるし、反対に名前を覚えててくれただけで嬉しくなったりするじゃないですか。『千と千尋の神隠し』で気付かされたのですが……(笑)。

名前を呼ばれることって、自分自身の存在を理解して他者とつながる行為なんだ、と思った頃、この原作小説に出会って、私やりたいかもと思ったんですよね。いろんな事情があって本当の名前を捨てて生きている子が、名前を見つけてほしいと願う話なので。

どこかでみんな、本当の自分を見つけてほしいと思って生きてるところがあると思うんです。それで今、自分の人生で本質的なところに向き合うべきだと思いました。これまで、漫画原作の中に自分の接点を見つけながら作品を撮ることもたくさんしてきましたが、今、この核となる部分を「やるかぁ」という感じで(笑)。そしてやったら見事に辛かった。

工藤:そうだったんですね。

:二人には「ここが弱いところだよ」とか「自信持って」とか散々言っていましたけど、それが見えるということは、自分にも同じ要素があるということなんです。

例えばみんなが必死になっている現場の中で、誰かが機嫌悪そうにしていると不安になってきて「私のせいだったんじゃないか」と、必要以上に自分を責めて家で反省会するとか一生やってて。そんなのほっとけばいいのにね。今回の現場中も、OKかNGか迷っちゃう時があって、でも現場はめちゃめちゃ切羽詰まってる。モニターの横にいた照明技師の一平さんに「これ私、多分ちょっとレールを引き直さないとOK出せない感じだ…」とつぶやいたら「いいんだよ、言っておいで。俺も一緒に行ってあげるから」と言ってくださって。それで「レールを引き直していただきたくて……」とか言ったら、みんな優しいから「よーし引き直そう!」みたいな。昔、若い頃に、最初の判断でミスってもう一度やり直しさせるのは監督としてダメだってめちゃくちゃ怒られてきたから、すごく自分を押さえ込んじゃう。そういう、誰の機嫌も悪くしない、誰にも迷惑かけない自分でいたい、みたいなのをぶっ壊したくてしょうがなかった。

撮影3日目に電話で話した上浦侑奈プロデューサーからは「あなたは人のことを考えすぎだから、やりたいことをやってください。みんなあなたのために集まってるのにあなたは人のことを考えている。いい加減、主人公になってください」と言われて。それができないから辛いんだよ〜〜!とも思ったんですけど。そこが私の相当大きな課題なんです。まだ課題が見つかっただけで解決はしていないので、大変だあ!っていう感じ。ただ、こういう外側のショックがないと自分の弱さはなかなか出てこないものなので、よかったかなって思っています。

尾碕:ゆったり間を持つようにセリフを言っていました。あとは……枝さんが作ってくださる映像って本当に美しいんですよね。一平さんの照明もきれい。そんな皆さんの力で出来上がった映像に映るのは結局私なので、その私がブサイクだとダメだなと思って。

:!ブサイクって。言葉!

尾碕:いやあ、これで私がブサイクだとチグハグになっちゃうと思ったんですよね。それで、ビジュアルも意識したかもしれません。顔、痩せなきゃなとか思っていました。視線の位置も意識しました。今まで自分が出た作品を見て「全然こんな気持ちで演じてなかったのに映像で見返したらなんでこんなに下向いてたんだろう!?」とか「こんなに上を見てたら不自然に感じちゃうな」って思ったことがあったんです。感情が入っていても、目線がちょっと高いだけで違う伝わり方をしてしまう。過去のそういう反省を生かしながら撮影していました。

工藤:私は、あんまり考えすぎるとダメなタイプで。

:うんうん。

工藤:枝監督にもそう言っていただきましたよね。カメラの前で、多少は「こうしよう」とかは考えますけど、基本は考えすぎずにやっていました。でも確かに、視線や目の動きはちょっと意識したかもしれません。

:しばらくドラマをやってきた中で、2024年の頭頃に、もうドラマは限界かもと思ってしまって。自分を消費してる、と。ただ、「コールミー・バイ・ノーネーム」は自分を変えるために向き合った作品なので、2025年以降は自分と向き合うような映画に力を入れたいです。もう修行は終わりかなという感じです。

:自分が本当に向き合いたい作品にいく前に、直感的に、その前に片付けておかなければいけない人間的な課題があると思っていたのが、ここで炙り出されました。その課題を殺さないと多分これから先、私は見たい景色も見られない、戦えないという感覚があったので。今は苦しいのですが、いつかは向き合うべきものだったし、今はよかった!と思っています。


Mio Kudo 
「仮面ライダーゴースト」で俳優デビュー。「魔進戦隊キラメイジャー」でヒロインのキラメイピンクを演じ話題に。その後は「TOKYO MER」シリーズ、ドラマ「院内警察」「マウンテンドクター」、映画『赤羽骨子のボディガード』『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』など話題作に出演し、注目を集める。

Ichika Osaki
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」やNHK連続テレビ小説「虎に翼」、Netflixシリーズ「恋愛バトルロワイヤル」などの話題作に出演。確かな演技力と鮮烈な存在感が印象的な若手実力派。

Yuuka Eda
映画監督/写真家。2017年初長編作品『少女邂逅』を監督。主演に穂志もえかとモトーラ世理奈を迎えて劇場公開し、高い評価を得る。香港国際映画祭、上海国際映画祭正式招待、バルセロナアジア映画祭にて最優秀監督賞を受賞。2019年、日本映画批評家大賞の新人監督賞受賞。また写真家として、様々なアーティスト写真や広告を担当している。「みなと商事コインランドリー」「神木隆之介の撮休」「あのコの夢を見たんです。」「クールドジ男子」「ワンルームエンジェル」「墜落JKと廃人教師 Lesson2」などのドラマも手がけている。『装苑』本誌でコラム「主人公になれない私たちへ」を連載中。

「コールミー・バイ・ノーネーム」
世次愛は、ゴミ捨て場に捨てられていた美しい女性、古橋琴葉と出会う。友人になりたいという愛の申し出を断ったかわりに琴葉が提案したのは、自分の「本当の名前」を当てるまで恋人でいること。そして本名を当てたら友人になるという奇妙な賭けだった。その賭けに乗った愛は、恋人としてぎこちなく琴葉と関係を深めていくが、次第に彼女の名前に隠された過去が牙を剥くようになる。不器用な思いと切なさがほとばしる、新世代のガールズラブストーリー。
2025年1月9日(木)MBSドラマフィル枠で放送開始
MBS(毎日放送)毎週木曜 深夜1:29〜
原作:斜線堂有紀「コールミー・バイ・ノーネーム」(星海社FICTIONS)
出演:工藤美桜 尾碕真花 / 中井友望 三原羽衣 / さとう珠緒 / 橋本涼
監督:枝優花
脚本:松ケ迫美貴
音楽:原田智英
WEB : https://www.mbs.jp/callmebynoname/

1 2

RELATED POST

アイナ・ジ・エンド インタビュー。『劇場版モノノ怪 唐傘』で感じた「生身の人生観」...
幾田りらさんが初登場で表紙を飾る『装苑』9月号の特集は「ANALOGUE and DIGITAL~クリ...
ファッションにも必須!デジタル用語を知って損ナシ
KAKANとpelicanがコラボレーションしたポップアップイベントが開催!
NEW COMER期待のニュークリエイターファイルKAKAN