『ブルーバック あの海を見ていた』ミア・ワシコウスカインタビュー。
オーストラリアに帰郷した世界的俳優が語る、映画への想いと環境問題への視点

©︎ Arenamedia Pty Ltd, photography by David Dare Parker

ティム・バートン、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュ、パク・チャヌク、デヴィッド・クローネンバーグ、ギレルモ・デル・トロ――。名だたる映画監督と組んできたミア・ワシコウスカさん。彼女はいま、ハリウッドから故郷のオーストラリアに活動拠点を移し、第2の俳優人生を送っている。

その彼女が、母子の絆と環境保護の大切さを描いた映画『ブルーバック あの海を見ていた』に出演。2023年12月29日より劇場公開を迎える。環境活動家の母ドラ(ラダ・ミッチェル)が脳卒中で倒れたとの報せを受け、実家に戻ってきた海洋生物学者のアビー(ミア・ワシコウスカ)。言葉を発することができなくなった母の世話を行いながら、彼女の心には二人で過ごした日々が蘇ってくる――。

美しい海を切り取った映像に心奪われるが、それらが「守らなければ消えてしまう」ものというメッセージを真摯に訴える本作。単独インタビューに応じてくれたミアさんに、環境保護と自身のライフスタイルについて、教えていただいた。

interview & text : SYO

Mia Wasikowska as Abby, Blueback – Photograph by David Dare Parker

『ブルーバック あの海を見ていた』
若き海洋生物学者で世界の海を旅するアビー(ミア・ワシコウスカ)は、母のドラ(ラダ・ミッチェル)が倒れたとの知らせを受け、西オーストラリアに帰郷する。美しい海を一望できる実家でドラを世話するアビーは、8歳の誕生日に巨大な青い魚“ブルーバック”と出会ったことや、環境活動家だったドラから海の素晴らしさを教わったことなど、この家で過ごした得難い日々に想いを馳せていく。
監督・脚本:ロバート・コノリー
原作・脚本協力:『ブルーバック』ティム・ウィントン(小竹由美子訳/さ・え・ら書房刊)
出演:ミア・ワシコウスカ、ラダ・ミッチェル、イルサ・フォグ、アリエル・ドノヒュー、リズ・アレクサンダー、エリック・バナ
2023年12月29日(金)より、東京・恵比寿の「YEBISU GARDEN CINEMA」、「シネスイッチ銀座」ほかにて全国順次公開。
©︎2022 ARENAMEDIA PTY LTD, SCREENWEST (AUSTRALIA) LTD AND SCREEN AUSTRALIA

『ブルーバック あの海を見ていた』メイキング。©︎ Arenamedia Pty Ltd, photography by David Dare Parker

人間は、感情が先に立ってその後の行動が変わっていくものです。

――世界規模で環境異変が起こっているいま、本作を異国の美しい物語としてだけ享受することはできず、切実な現実問題として受け止めました。ミアさんが本作の出演を決めた理由には、環境問題に対する意識もあったのでしょうか。

ミア・ワシコウスカ(以下、ミア):元々、私の家族は環境への意識が高く、自分もその影響を受けています。そして、姪と甥がオーストラリア沿岸のコミュニティに住んでいて、脚本を読んだときに環境への意識を喚起する素晴らしい物語だと感じると同時に、姪と甥も絶対に気に入ってくれるはずだと思いました。そして私も、この映画を通して小さな形であったとしても次世代を勇気づけることに貢献できるのではないかと感じ、出演を決めました。

――映画というメディア自体が持つ、可能性や意義についてはどのように感じていらっしゃいますか?

ミア:映画のストーリーテリングの力は、やはり感情的にインパクトを与えられることだと思います。人間は、感情が先に立ってその後の行動が変わっていくものです。物語があることで感情的な衝動が呼び起こされ、行動に変化が訪れる――何かを変えられる映画には、そういった特徴があるように思います。

映画『ブルーバック あの海を見ていた』より

――個人的にミアさんの作品選びが好きなのですが、いまお話しいただいたように“濃い”“強い”物語が多いようにも感じます。感情的にインパクトを受ける企画かどうかが、出演を検討される際の基準のひとつなのでしょうか。

ミア:そうですね。作品の選び方は年を追うごとに変わってきていますが、やはり私自身もそうですし、きっと観て下さる方にも感情的にインパクトを与えられるであろう作品には、参加したいと思う傾向があります。個人的にも大切にしているものです。

そのうえでいまは、昔と比べてもっとリラックスして映画づくりに取り組んでいます。本作を手掛けたロバート・コノリー監督は元々友人で信頼感もありましたし、映画の一環でシャチを見学するツアーに連れ出してくれました。毎日シャチを見られる場所は世界に2か所しかないそうなのですが、そうした素晴らしい体験をこの作品を通してできたことも嬉しかったです。そして、先ほどお話ししたようなメッセージを次世代に伝えられる意義。これももちろん決め手ではありました。

映画『ブルーバック あの海を見ていた』より

――『ブルーバック あの海を見ていた』では、母娘の関係が物語上のポイントになります。先ほど、ご家族の環境への意識についてのお話がありましたが、ミアさんご自身はご家族からどんな学びを得てきましたか?

ミア:私の両親はアビーの母とは異なりますが、自然に感謝することを教えてくれました。自然とのつながりや、自然が自分たちの人生に与えてくれる豊かさや驚きですね。私にとってそれはすごく響くもので、自分の行動がどんな影響を環境に与えてしまうのか、ちゃんと考えなければならないと強く思っています。

『ブルーバック あの海を見ていた』メイキング。©︎ Arenamedia Pty Ltd, photography by David Dare Parker

グローバルな活動に身を置いていると、リサイクル等の責任感を忘れがちになってしまいます。

――SDGsの意識は、世界的に高まっていますよね。オーストラリアは環境保護先進国でもありますが、ミアさんご自身は本作に出演して意識の変化等々はございましたか?

ミア:私は循環型経済(サーキュラーエコノミー。環境に配慮した廃棄物を減らす製品開発・サービス)に深い関心があり、昔からそうした考えを実践している日本を素晴らしいと感じています。サステイナブルな文化を教育している方もいらっしゃると伺っています。

私自身は、バルクショップ(量り売りスタイルの店舗。容器等を消費者が持参し、必要な分だけ買うことで資源の無駄やゴミの排出を抑える)を利用する機会が増えました。例えば油を買うにしろ、自分の家から容器を持っていくことを大事にしています。

ただ、こういった活動を行うには時間があることが重要だとも感じます。いまの私に時間の余裕があるため出来ている部分も多いでしょうし、もちろん実現するのが難しい方もいらっしゃると思います。

――ミアさんが、地元であるオーストラリアに拠点を移されたことも大きかったのですね。

ミア:私はこれまでずっと撮影で各国を転々としてきました。基本的にはホテル生活ですし、そうなるとやはりリサイクルもままならず、生活に無駄が多いなと常々感じていました。もちろん最近の撮影現場は随分とエコフレンドリーになってはきていますが、業界的にはまだまだ無駄が多いと感じます。

そうした中で生活スタイルを変えたことで自分自身もリラックスでき、頭の中にも余裕ができたことで日々の行動パターンにも変化が訪れました。車にはいつもエコバッグや容器が積まれていますし、そうした状況にも慣れてきたように思います。また、こうした行動は、ローカルコミュニティ(地域社会)にいるからこそできるものだとも感じます。自分の生活においても「地域に根差す」意識は高まってきていますね。やっぱり、グローバルな活動に身を置いていると、リサイクル等の責任感を忘れがちになってしまいますから。

――ものづくりと自分の生活のバランス、環境への意識――。ミアさんのキャリアデザインは、10~20代のクリエイターにも学ぶべきところが多いと感じます。下世代に向けて、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

ミア:まずは、自分に好奇心を持つことだと思います。自分の衝動をちゃんと感じて、直感を信じること。衝動も直感も自分の根っこ、つまり原点から生まれるものですから。自分の個性や芯が前提としてあり、そこに栄養を与えることで、プラスの影響を周囲に与えられるものだと思います。だからこそ、どんな分野でもいいので自分が情熱を持てるものに熱中してほしいですし、その自分を信じてあげて下さい。

――最後に、ミアさんご自身の未来についてお聞かせください。監督業にも興味があるというお話を伺いましたが、今後のものづくりに対してどんなビジョンを描いていますか?

ミア:おっしゃる通り、自分の興味は演技から脚本を書いたり監督をしたりすることに移っていますが、実際に行動を移すのはもう少し後になると思います。俳優業は定期的に仕事が入ってくるものですが、脚本業や監督業はもっと時間をかけなければならないものです。出資者を募るにもものすごく時間がかかりますしね。

そして私自身は、いまのこのスローなライフスタイルをとても気に入っています。来年には海の近くに引っ越して、庭を作ったり地域の活性化に役立つような生活をしたいですし、パーマカルチャー(オーストラリア発祥の概念。人と自然の持続可能な共存を目指す生活デザイン)な生活をもっと追求したいと思っています。

Mia Wasikowska 
1989年生まれ、オーストラリア・キャンベラ出身。15歳で女優としてのキャリアをスタートさせ、『Suburban Mayhem』(2006年)でスクリーンデビューを果たし、AFI賞新人女優賞にノミネートされた。その後、『テネシー、わが最愛の地』(‘09年/WOWOWにて放映)でインディペンデント・スピリット賞最優秀助演女優賞にノミネートされるほか、『アメリア 永遠の翼』(‘09年)などのハリウッド作品に出演。ティム・バートン監督作『アリス・イン・ワンダーランド』(‘10年)ではアリス役に抜擢され、世界的に一躍注目の存在となる。2010年以降、ガス・ヴァン・サント監督作『永遠の僕たち』(‘11年)、デヴィッド・クローネンバーグ監督作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(‘14年)、ギレルモ・デル・トロ監督作『クリムゾン・ピーク』(‘15年)などの話題作への出演が続き、現在はハリウッドからオーストラリアへ拠点を移し活動している。ティム・ウィントン原作、ロバート・コノリー製作のオムニバス映画『The Turning』(‘13年)の一篇、短編映画『Long, Clear View』にて脚本・監督デビューも果たす。最近の出演作に『ピアッシング』(‘18年)、『ブラックバード 家族が家族であるうちに』(‘19年)、『ベルイマン島にて』(‘21年)、ジェシカ・ハウスナー監督作『Club Zero』(‘23年)など。

『ブルーバック あの海を見ていた』
WEB:https://blueback.espace-sarou.com/index.html