東京・江東区のインテリアショップ&ギャラリー「stoop」で、サイ・トゥオンブリーやドナルド・ジャット、マックス・ビル、メンフィスなどの1960年代〜2000年代の展覧会ポスターやインビテーションなどを約30点、展示・販売する展覧会が開催中だ。
サイ・トゥオンブリーのポスター。
これらのポスターは、コレクターの鈴木洋平さんが17〜18年かけて集めてきたもの。好きで収集してきたものだが、貴重なポスターを独り占めするよりも、鑑賞してもらったり大切にしてくれる方に譲ることができればと考えるようになったことから、2020年頃から定期的に展示・販売の機会を設けている。今回、stoopではポスターにあわせた家具がスタイリングされ、インテリアとしてヴィンテージポスターを楽しむ提案がされている。
stoopの家具とポスターのスタイリングが楽しい。
ヴィンテージポスターは、「エフェメラ」(長期の保存を前提としない印刷物)の一種。コレクションを目的に作られていないため、展覧会の会期を終えたら廃棄されてしまうことが多く、再販予定もない。そのため、現存する枚数自体が少なく、近年ではその価値が見直されて価格が高騰しつつある。ヴィンテージポスターの魅力を、「その儚さと、時間を経過したノスタルジーをまとっているように感じられるところです」と語る鈴木さん。破れやヤケ、折れ跡も、時の経過とともに付加された価値ととらえているという。
サイ・トゥオンブリーのポスター。
‘Nine Discourses on Commodus’ by Cy Twombly for Leo Castelli Gallery , 1964
サイ・トゥオンブリーのポスター。こちらは、未額装のもの。
‘Untitled(Rome)’ by Cy Twombly for Galleria La Tartaruga , 1968
鈴木さんのポスターコレクション遍歴は、今回の展示でメインになっているサイ・トゥオンブリーから。アートが好きで、トゥオンブリーの作品にも惹かれる中、ある時、海外の雑誌で展覧会ポスターの存在を知る。「原画を買うことはできないけれどポスターなら」と購入したのがコレクションの始まりとなり、一枚、また一枚と買い集めてきた。イタリア・ローマのガゴシアンギャラリーで開催されたトゥオンブリーの個展『Three Notes fromSalalah』のオリジナルポスターを探していたところ、ローマで偶然コレクターと知り合い、その人から一度にまとめて目当てのポスターを買い取ったこともある。出会いがコレクションを形作ってきた。
右が『Three Notes fromSalalah』のオリジナルポスター。トゥオンブリーが展覧会のために描き、展覧会の入り口に飾られていた作品をスキャンしてポスターにしたものだ。濾し紙のミミ(端)も裁断せずに使用していて、紙自体も貴重。原画の汚れもそのままスキャンされている。
若い人が初めて買うアートとして楽しめるのもポスターの特徴で、以前、20代の女性がジャッドのポスターを購入していったこともあったという。今回展示されているポスターには、アクリルや木材など、それぞれのポスターにふさわしい素材を鈴木さんが選んで額装も行っている。
「額装し、インテリアの一部として提案することで、ポスターを生まれ変わらせることができたらと思っています。そのため、stoopさんのように素敵なお店で見せられるのはとても嬉しいです。異なるポスター同士や、インテリアとポスターなどの組み合わせの妙で、日常的に楽しめるのも良さの一つ。案外、どんな家具にも合わせられる汎用性の高さも魅力です。とはいえただの紙。しょせんはポスターとも思っていますから、あまり大仰な額装はしません」(鈴木さん)。
ドナルド・ジャッドのポスター。
どのポスターも、最大限にビジュアルを活かした潔いデザインが目を引く。トゥオンブリーのように、作家自身がポスターのデザインに携わっていたケースも少なくない。「展覧会の告知が目的のものですが、高い熱量で作られていたことがわかりますよね。情報過多の現代に見ると新鮮なデザインですし、その余白が、皆さんに今、好まれる理由なのかもしれません」。
ヴィンテージポスターの一部をご紹介!
サイ・トゥオンブリー
‘Untitled(Rome)’ Sculpture by Cy Twombly for Gallery Lucio Amelio , 1979
イタリアの「Gallery Lucio Amelio」で開催された展覧会のためのオリジナルポスター。ポスター下部には、サイ・トゥオンブリーの直筆サインが描かれている。stoopでは、ポスターに掲載されている彫刻と同系色の家具のスタイリングとともに鑑賞することができる。
リチャード・アヴェドン
中央 ‘Untitled’ by Richard Avedon for Minneapolis Institute of Arts , 1970
ファッション写真でも数々の優れた作品を残した写真家、リチャード・アヴェドンの大規模展覧会のためのポスター。アイゼン・ハワー大統領と俳優のハンフリー・ボガートのポートレートを組み合わせて一枚のポスターに大胆にレイアウト。「アレックス・カッツの人物画の構成に近い、ユニークで優れたデザインだと思います」と鈴木さん。
メンフィス
左側 ‘Untitled’ by Memphis = Nathalie du Pasquier for Musée des Arts décoratifs , 1983
イタリアのデザイナー集団、メンフィスの創設者の一人であるナタリー・ドゥ・パスキエによるメンフィスのポスターは、同時代のイタリアの家具とスタイリングされている。
マックス・ビル
‘Composition’ by Max Bill for Galleria del Cavallino , 1970
「バウハウス最後の巨匠」と呼ばれる稀代のマルチクリエイター、マックス・ビルのポスター。優れたポスターが多い作家の一人で、自邸にもポスターが飾られている写真が残っている。ポスター制作に自ら関わっていたのではないかと思われる。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / text : SO-EN
「Focus on CY TWOMBLY VINTAGE POSTER」
期間:開催中〜2024年5月6日(月・祝)
場所:「stoop」
東京都江東区白河2-5-10
時間: 12:00〜19:00 入場無料、会期中無休
TEL:03-4285-4128
WEB : https://stoop.jp/
Instagram : @gallery_stoop