話題の展覧会が開催中!蜷川実花×末安弘明(KIDILLデザイナー)対談。20年ぶりの再会でコラボレーションを果たした二人の、AI時代の創作論

「ガワ」はいくらでも、どうにでもなる時代。

――空間作りという点では、末安さんのパリ・ファッションウィークでの発表もいつもユニークです。

末安:毎回、会場がギリギリに決まるのでドキドキするんですけどね。結局、会場が決まらなければショー演出も、インビテーションすらもつくれないので……。関わっていただいてる方々は大変だと思います。1月のショー会場も、今、まだ探しているところ。

蜷川:1月ってもうすぐじゃん!でも、海外で仕事をさせてもらうと色々強くなりますよね。びっくりするようなことがいっぱい起きるから。

末安:そう。いちいち心が折れてる暇がない(笑)。折れてる時間があるくらいなら、もっと考えてアイディアをひねり出せ!っていう姿勢なんです。「やるしかない!」って。

蜷川:わかります。私はテンパることがないんですけど、それはテンパってもどうにもならないくらい追い詰められてることが多いからっていう(笑)。「やるしかない」っていうのは本当そのとおり。
私もいつもそうなのですが、100%思い描いたようにできることなんかほぼないわけで、いろんなどうにもならないことの連続の中で、どうクオリティを担保するか、常に戦ってる。だから私は「現場対応力」がものすごくついたのですが、その経験値は、大人になって得てよかったことかな。
そういえば、服づくりやデザインは独学なんですよね?

末安:はい。僕は服飾の学校に行っていなくて。

蜷川:私も独学なんですよね。グラフィックはやっていたのですが、写真は一切習っていなくて、アシスタントにもついていないしスタジオマンもしたことがない。映画もそうです。写真も映画も、本を読みながら一人で勉強していました。

末安:僕も、パターンってどうやって引くんだろう?って文化の教科書を一人で広げるところから始めました。

蜷川:それも、なんか「なるほどな」と思って。独学って効率は悪いかもしれないけれど、こうでなければならないみたいな先入観がないのが強みになる。流行に寄りすぎないっていうさっきの話も本当にそうだと思うのですが、己の道を信じて、進むようなところが良さになりやすい。

『蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠』より

――世界の舞台でも活躍されているそんなお二人が、海外に向けて発信する上で留意していることや、大事にしていることがあれば教えていただけますか?

蜷川:私は、人と違っていて良いということを本当に大事にしています。曲がりなりにも長く続けていると、大きな仕事やチャレンジをしなければいけない局面がきます。そういう時に、そもそも自分がやりたかったこととズレていっちゃうことがある。映画を撮るなら、数100時間という打ち合わせを重ねたり、ものすごい数の人が関わる。その中で、人の意見を聞く時は聞くけど、ちゃんと自分がいいと思うことを信じ抜けるように努力しようと思っているんです。

自分を信じて突き進めばいいよって耳障り良く言うのは簡単ですが、他の人達も、みんな自分の生活がある中で関わってますからね。通常の勝ちパターンと違うことをする時って、どこかアホにならなきゃできないところもあるのですが、それを信じる難しさと、信じる大切さの両方がある。

それを考えると、結局はオリジナリティがないとどうにもならないと思うんです。いいものはいっぱいあるし、いろんなことがやり尽くされているといえばやり尽くされている中で、器用に小さくまとまっていても仕方ない。まだ私も道なかばという意識ですが、世界の舞台に立つなら、オリジナリティは大事なことだと自分に言い聞かせています。

――「核」がなければどうしようもないという。

蜷川:そうです。AIが発達して「ガワ」はいくらでもどうにでもなる時代に、表現したいことが何かとか、なぜこれをやらなきゃいけないんだっけ?ということは、より重要になってくる。

末安:僕も全く同じです。服にも個性がないと熱狂みたいなものは生み出せないし、自分が好きなアートもバンドも写真家も、みんな「圧倒的な何か」があるんです。それがないものには惹きつけられない。

そして、何かをつくりたいなら意識したほうがいいなと思うのは、好きなことを追求する姿勢。SNSで、それこそ世界中の表現が簡単に見られる時代ですが、表層的なことだけであって、本質的に見えていない大切な部分はわからないじゃないですか。自分は現場に行って体感したことを大切にしたいし、そういった積み重ねが全部、糧になっています。
「ガワ」はいくらでもすぐに見れちゃうけど、やっぱり核の部分はそうはいかない。そして、ものをつくるって、その核の部分をつくる側になるということなんです。それには良いものをたくさん知っていないとできないんですよね。

蜷川:カメラマンとして私が仕事を始めた頃は、ポジの撮影だったの。それがネガになりデジタルになって、もう誰でも撮れるわなんて言ってる間に、携帯で本当にみんなが写真を撮るようになって。そうなると、もうじゃあ何を撮りたいかとか、何を表現したいか、 何を残したいかみたいなことだけになってくるんです。今後、よりそうなっていくんじゃないかな。昔だったら「ポジでちゃんと撮れます」っていうだけである程度需要があったと思うんだけど、もうそういう世界線ではないから。 

そういえば、すごいなと思ったことがあって!長男は今、16歳なのですが、キディルのパンツを見て「まじこれ欲しい」って大騒ぎしてたんです。私も大好きだけど、子供世代の10代の子も惹きつけるのってすごい!って体感しちゃった。

末安:うわ〜、ありがたい話です!

蜷川:今日は話せてやっぱり楽しかった。ありがとう!

『蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠』

写真家・映画監督の蜷川実花がクリエイティブチーム・EiMとして挑む、自身のキャリア史上最大規模の展覧会。すべて本展のために制作した映像インスタレーション、写真、立体展示で構成された11作品を展示し、圧倒的な没入体験を鑑賞者に促す。11月のチケット発売後には、たった1日で予定枚数の前売り券が完売し、現在も多くの来場者で賑わう話題の展示。キディルをはじめとする気鋭のブランドとの「本気の」コラボレーションのアパレルアイテムをはじめ、アジア人で初めてフレンチミシュラン3つ星シェフの小林圭が手がけたスイーツも見逃せない。

期間:開催中〜2024年2月25日(日)
※2024年1月1日(月・祝)、2日(火)は休館。
場所:虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F TOKYO NODE GALLERY A/B/C
観覧料:一般 平日 ¥2,500、土日祝 ¥2,800、大学生・高校生 平日¥2,000、土日祝 ¥2,200、中学生・小学生 平日 ¥800、土日祝 ¥1,000
WEB:https://tokyonode.jp/sp/eim/


Hiroaki Sueyasu 2014年にKIDILLをスタート。’17年にTOKYO新人デザイナーファッション大賞プロ部門で受賞し、’21年1月にはパリ・メンズファッションウィークの公式カレンダーに迎えられるが、コロナ禍によりオンラインで参加。同年、TOKYO FASHION AWARDを獲得し、’23年春夏よりパリでコレクションを発表する。

Mika Ninagawa  写真家、映画監督。写真を中心として、映画、映像、空間インスタレーションも多く手がける。木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。2010年、Rizzoli N.Y.から写真集を出版。『ヘルタースケルター』(’12年)、『Diner ダイナー』はじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ「FOLLOWERS」を監督。最新写真集に『花、瞬く光』(河出書房新社)。
WEB:https://mikaninagawa.com/

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