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田名網敬一×瀬戸璃子 対談。
田名網敬一の初となる大規模回顧展「田名網敬一 記憶の冒険」が開催。

日本人アーティスト 田名網敬一さんの大規模回顧展が8月7日から11月11日まで、国立新美術館にて開催される。60年以上に及ぶ活動を「記憶」というテーマであらためてひもとかれるこの回顧展を前に、エッセイや絵画を描くなど文化・芸術への造詣が深い、俳優の瀬戸璃子さんが田名網敬一さんのアトリエにおうかがいし、貴重な対談を行いました。

photographs: Norifumi Fukuda(B.P.B)/ hair & makeup: kika / text: Ryohei Nakajima

『装苑』2024年7月号掲載

「POPな色の洪水、鮮烈な記憶のモチーフ。作品のパワーに圧倒されます」―瀬戸璃子

 アトリエを訪れると、色彩豊かな作品の数々が出迎えてくれる。田名網敬一さんの極彩色の世界。瀬戸さんは、その迫力に目を丸くして尋ねる。

瀬戸璃子(以下、瀬戸) いくつか資料を拝見し、田名網さんは記憶をすごく大切にされている印象があります。私も日常生活が流れてしまわないよう、メモを取るようにしているのですが、どのように日常の記憶をつなぎとめているのでしょうか。

田名網敬一(以下、田名網) 僕は20代の頃から、気になる写真や絵、言葉などに出会うと、切り抜いてスクラップブックに貼り続けているんです。そうすると散逸しない。何百冊とあると思いますが、日記みたいなものなので、すぐにその時のことを思い出せます。映画のシーンでも漫画でもなんでもいいんです。具体的に絵を残しています。

 国立新美術館で8月7日から開催される「田名網敬一 記憶の冒険」でも、スクラップブックを展示予定だが、そこには作品とリンクするインスピレーション、アイデアが詰まっている。

瀬戸 視覚的な引き出しがここに詰まっているんですね。私はお芝居をする仕事をしていますが、目の情報を残しておくという考えがなく、気持ちを大切にしようとメモを残していました。映画やふと目にした景色などを絵で残すことは、感情を思い出すことにもつながるんですね。

 目で見たものを記憶として蓄積し、創造のアイデアソースへ。田名網さんの一貫した創作姿勢だ。

田名網 過去を切り捨てたらもったいないですよ。夢もそう。その人の人生観を変えるほどの夢というのも、結構人間は見ているはずです。夢も大切な記憶ですよね。

瀬戸 鮮やかな色彩表現を展開する田名網さんが見る夢には色がついていますか?

田名網 モノクロもありますが、ほとんどカラーです。色彩感覚は大概の場合、幼年期に形成されるそうです。僕は子どもの頃に目黒の幼稚園に通っていて、母が迎えに来るまで、すぐそばの雅叙園で遊んでいたんです。絢爛とした世界ですよ。そこで毎日触れていたのが、その色彩体験。もう一つは、祖父が日本橋髙島屋の裏手にある問屋街で、洋服地の卸問屋を営んでいたんです。そこに遊びに行くと、商品のステータスを表すスーツの裏につけるタグなんかがロール状で置かれていて、すごく豪華に絵が描かれていた。それで遊んだことも、あとにつながる色彩体験の一つですね。

 服地問屋に遊びに行くと、お祖母さんが髙島屋の食堂によく連れていってくれたそうだ。

田名網 当時の髙島屋のお子さまランチはすごく豪華で、料理でジオラマのように山や谷が作られていて、万国旗が飾られ、ものすごく細かく丁寧にできていた。すぐには食べないで、しばらく見て楽しんでいました。そういうことも記憶に残っているから、美術の方面に進んでいくきっかけの一つになったかもしれませんね。

 過去の作品がファッションブランドとのコラボレーションで登場したり、新たに依頼を受けてデザインを手がけたり、アートの制作とデザインを明確に区別することなく、自身のスタイルを持ちながら表現し続けている。

田名網 僕が過去にこだわるといっても、過去の蓄積だけで物は作れません。時代の空気に無意識に反応して見たものが、自分の幼年時代の記憶とシャッフルされて、新しいエネルギーや創造が生まれてくるのだと思います。

瀬戸 8月から始まる個展では、時代順に、表現の変化を鑑賞できるのも貴重ですし、今日お会いしてお話を伺えたので、田名網さんの言葉と作品とを連携して見られるのがすごく楽しみです。

田名網 ペインティングだけではなく、巨大なスクリーンでの映像上映や、山本耀司さんとの仕事、展覧会に合わせてデザインしたオリジナルのバービーなど、いろいろな形で展示をします。若い皆さんにも楽しんでいただけるはずです。

瀬戸璃子着用
ブラウス¥39,600、パンツ¥41,800、ブレスレット¥11,000 ユウショウコバヤシ

「田名網敬一 記憶の冒険」
会期:2024年8月7日(水)〜11月11日(月)
場所:国立新美術館 企画展示室1E
   東京都港区六本木7-22-2
時間:10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
火曜休
観覧料:一般¥2,000、大学生¥1,400、
高校生¥1,000、中学生以下無料
WEB:https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/

田名網敬一さんの初となる大規模回顧展では、60年以上に及ぶ活動を「記憶」というテーマであらためてひもとく。1957年、学生時代に日宣美展で特選を受賞し、在学中からデザイナーとしてのキャリアをスタート。
’66年に初めて作品集『田名網敬一の肖像』を出版し、「イメージディレクター」を名乗りメディアを限定しない表現を展開した。’75年には日本版「PLAYBOY」の初代アートディレクターに就任し、並行して実験映像の制作を行うなど、精力的に表現の幅を広げていく。2000年代に入っても大型の画面に様々なモチーフをコラージュする手法を発展させていった。初期の作品に始まり、’80年代に生死をさまよう中で見た幻覚をきっかけとする「常盤松」シリーズや、コロナ禍でピカソの模写を続けた「ピカソ母子像の悦楽」シリーズなど、時代ごとのアート表現をたどると同時に、ファッションブランドとのコラボレーションも紹介する圧巻の展示が実現する。

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