【もっと知りたい!フランスの田舎のミュージアム ③】
優雅なレースにうっとり/ シャンティイ編(前半)

フランスの地方には、意外と知られていないステキなミュージアムがいっぱい。
その土地に根づいた伝統工芸、アート、モードと共に、町の魅力も発見してみて。

「シャンティイレース博物館」より。

Musée de la Dentelle de Chantilly  –  Chantilly
シャンティイレース博物館 – シャンティイ

ルネサンス時代から現代まで、ワードローブに華やかな彩りを与えてきたレース。王侯貴族の間で広まり “富と権威の象徴”とされていたレースは、ヨーロッパの各地で作られ発展してきましたが、特に繊細で気品があるといわれているのがフランスのシャンティイレースです。

「シャンティイレース博物館」。レンガ造り瀟洒な館はナポレオン3世時代の外務大臣のために建てられた。

シャンティイレースの発祥の地は、パリ北部オワーズ県のシャンティイ。今回ご紹介するのは、この地方特有の手作りレースの歴史を伝える「シャンティイレース博物館(Musée de la Dentelle de Chantilly)」です。

手織りのシャンティイレースを展示する部屋。

ヨーロッパでレースが作られるようになったのは16世紀。フランドル地方*とイタリアのヴェネツィアで発明されたボビンレースとニードルレースが、フランスに渡ったとされています。

*オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域。

その時代、手作業で作られていたレースはとても高価で、入手できたのはお金のある特権階級の人だけ。男性の身だしなみにも欠かせず、貴族たちがレースを付けずに宮廷にあがることはありえなかったそうです。中には、全財産をレースにつぎ込む貴族もいたのだとか。

貴族たちはこぞってより美しいレースをまとい豊かさを誇示しましたが、当時のフランスのレース技術は劣っていたため、その購入先はフランドルかヴェネツィア。ルイ14世の統治下では、莫大な資金が国外に流れることを嫌った財務総監コルベールが、外国産のレースの使用を禁じましたが、密輸する者は後を絶ちませんでした。

ヨーロッパの様々な地方で作られた昔のレースの展示。中央の襟はフランドルのポワン・ド・ガーズ。

そこで、コルベールは国内におけるレース産業の向上を画策し、1665年にフランス各地に「王立レース製作所」を設置することに。フランドルとヴェネツィアから熟練女工たちを高待遇で招き入れ、フランスのレース職人に技術を習得させたのです。

シャンティイにおけるレース製造のはじまりは、それから約30年後。名門貴族であるコンデ公アンリ3世の妻アンヌ・ド・バヴィエールが、領地で暮らす貧しい人々のためにレース作りの学校を設立。手に職をつけた女性たちが、農夫や石切工として働く男たちと家計を支えたのでした。こうしてレース職人が育つと、独占的な生産管理と流通を徹底した商人によって産業が拡大。1825年には町とその周辺に1,025人の職人がいたほどで、シャンティイはレースの一大産地として名声をあげたのです。

コンデ公妃、アンヌ・ド・バヴィエールの肖像画。(Musée National des Châteaux de Versailleset de Trianon蔵)

当初、ここで作られていたのは “ブロンド”という艶のある絹のボビンレース。絹そのものの生成り色、ぎっしりと埋められたリッチな模様が特徴で、やがて同じ手法を用いた黒いレース“ブロンド・ノワール”の生産が始まります。その後、流行と共に徐々に改良が進められ、19世紀にはより軽やかで繊細なシャンティイレースが作られるようになりました。細く撚った絹糸を使い光沢が抑えられたこのレースには、洗練された花や水玉のモチーフが施され、エレガントな雰囲気を纏っています。

左はルイ=フィリップ時代(1830〜1848年)に作られた“ブロンド”のストール。右はより軽やかになったナポレオン3世時代(1852〜1870年)のシャンティイレース。

シャンティイレースを好んだのは、時のモードを牽引したナポレオン3世の皇后ウジェニー・ド・モンティジョです。化学染料が発明されたこの頃、鮮やかな色のクリノリンドレスが流行り、それらを引き立てたのは白ではなく黒のレースでした。

絵画『侍女に囲まれたウジェニー皇后』(1855年、Musée Château de Compiègne蔵)から当時の様子がうかがえる。

ウジェニー皇后が所有していたシャンティイレースのコーナー。ボナパルト家の子孫から寄託された長細い垂れ布付きショールカラーや付け襟などが展示される。

NEXT1800年代から現代までの優雅なシャンティイレースと、
レース作りの道具を一挙ご紹介!

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