
デザイナー田村佳奈子さん
—— 田村さんは幼少期から“プリンセス”への憧れがあったとお伺いしましたが、そのことがファッションへの興味につながったのでしょうか?
はい。「ディズニープリンセスらぶ&きゅーと」というディズニープリンセスに憧れる女の子のためのプリンセス情報マガジンがあるのですが、小さいころからそれを見てはプリンセスを真似していろんなドレスを着ていました。特にこの本に登場するアリエルという人魚姫がすごく好きだったんです。赤い髪のプリンセスなんですけど、彼女になりたくて赤い毛糸を買ってきて、ウィッグを自分で作ったりしていました。
—— ドレスもご自分で?
いえ、ドレスはディズニーストアなどで売っているものを買ってもらいましたが、雑誌のぬり絵コンテストに応募して、優秀作品に選ばれてとても素敵なドレスをもらったりもしました。
—— それはどこで着ていたのですか?
家です。家の中でプリンセス気分に浸るんです(笑)。ガラスの靴も履いて、廊下をプリンセス気取りでウォーキングしたり。ちょうど6歳、7歳で小学1年生くらいの時です。
—— そこからずっとプリンセスが好きで、その想いが続いているのですね。
幼稚園の時や小学校1年の時がピークで、その後は好きではあったものの、そこまで猛烈にはまっていたわけではありませんでした。大人になってから映画を見返して、大人の目線で見て改めて好きになったというか……。今の自分を作り上げたのは、このプリンセスを好きだった時の自分。映画から受けた影響がすごく大きかったなと感じています。
—— ファッションを好きになった原点ですね。
はい、原点です。

—— その後、慶應大学に進まれたようですが、そこではどのようなことを学ばれていたのですか。
商学部だったので、マーケティングです。特に消費者行動論というBtoC分野の勉強をしていました。
—— その後、一度就職されてから文化服装学院に進まれたのですね。
もともと洋服が好きだったので、大学時代もバンタンデザイン研究所のスタイリスト科に週1回のダブルスクールコースで通っていました。当時は特に洋服に限らず、自分の好きな世界観を表現して仕事にしたいなと考えていました。
—— 大学卒業後、ファッション関係ではなく家電メーカーに就職をされたようですね。
ファッションとは関係なかったですね。大学で学んだことが活かせるBtoC分野の仕事で、消費者の方に直接アンケート調査をして、それを商品に活かすという内容だったので、アパレルとは関係ないのですが、今思えば商材が違っただけでやっていることは近かったのかもしれないです。
—— その経験を活かしつつ、今度は文化服装学院に入学して服を勉強されたのですね。文化での生活はいかがでしたか。
文化服装学院時代は人生で一番充実していたと言えるくらい楽しくて、本当に好きなことはこれなんだと確信できました。大学の時は苦手な分野などあったのですが、そういうものが一切なくて毎時間の授業がすべて興味深いものでした。
—— 具体的にどのような授業がありましたか?
基本的には、作図してパターンを作って、縫製するというのがメインです。あとは立体裁断やデザインを起こすための授業、マーケティング系など色々ありました。みんなで工場実習のような形で、分業してコートを1着縫う授業や、文化祭のバザーに出店する洋服をひたすら縫う授業もありました。そういう授業を経たから、縫製技術も上がったのだと思います。2年間集中して服作りの技術を学んだので、本当に良かったです。

—— ブランドをスタートしたのはどのようなタイミングで?
家電メーカーで仕事をしていてコロナ禍に入った時に、一度人生を見つめ直す時間がありました。“やっぱり自分はもの作りをしたい”という思いがずっとあったので、最初は家で何かやってみようと思ったんです。まずはシュシュやトートバッグといった雑貨を作っていました。その頃はそれくらいしか作れなかったので、SNSで発表して販売したりしていて。そこから服作りもしてみたいと思ったのですが、当時は自分で服が作れなかったので、ネットで見つけた外注業者さんにデザイン画を送って作ってもらいました。でも、出来上がった洋服が、頭が通らないようなものだったりしたんです。おそらくプロではない方が作ったようで。“これは自分で勉強して作れるようにならないとダメだ”と思いました。もし将来、デザインだけを描いてプロにお願いするとしても、自分のデザインを言葉で正確に伝えるのはすごく難しいと感じたので、文化に通いたいと思い始めました。それが2021年くらいです。洋服を作ってはSNSで発表していたのですが、そのタイミングで阪急うめだのバイヤーさんから「ポップアップをしませんか」とお声掛けいただいたんです。
—— 目にとめていた方がいらっしゃったんですね。
それで決心がつきました。会社を辞めるタイミングの2022年3月にポップアップをやると決めて、会社を辞めてポップアップをして、同時に4月から文化服装学院に入学しました。
—— 安定した生活があった中でそれは一大決心でしたね。
そうですね。でも、なぜかその時はすごく行動力があって(笑)。
—— 服の構造をきちんと分かっているからこそデザインできる、ということは大切なことだと思うので、基礎をきちんと学ばれたことは良かったのかもしれないですね。
洋服を作れる人がデザインするのとそうではないのとでは違います。デザインだけ見て“この服、一体どこから着るんだろう?手が上がるのかな?”ということもありますよね(笑)。シルエットなども、今は自分でCADを使ってパターンを引いているのですが、文化で勉強したものをすべて活かして制作しています。

—— デザインや素材についてのこだわりを教えていただけますか?
甘いテイストの洋服は、比較的若い方向けのものが多く、年齢を重ねるとかわいい洋服が好きでも着るのが難しくなってくるのです。私はそういう方たちに向けた服作りを目指しています。なので、よりクオリティの高い生地を選んだり、手触りや肌に触れた時の感覚にこだわるようにしています。
—— 今回ファッション撮影させていただいたのは秋冬コレクションですが、シーズンごとにテーマは決められていますか?
はい、決めています。今回のシーズンのテーマは「不完全な美」です。これをテーマにしたきっかけは、近所の花壇に咲いているお花を見た時でした。満開に咲いている花もあれば、ちょっとしおれている花もあって。すべて綺麗に咲いている花だけの花壇よりも、実はちょっとしおれた花があるほう方が、時を経て咲いてきた花たちの生き様が表れている気がしました。それが私はすごく美しいと感じたんです。そこから、不完全であることの美しさを受け入れてテーマにしようと決めました。
そしてテーマに沿って自分の中でストーリーを作っています。今回は物語の中に自分の不完全さに落ち込んだり、自信を失ったりしている女の子がいます。秋冬のシーズンなので、冬の寒さ中で悲しみとともに過ごしている……というストーリーを作りました。凍える冬を超えて春が来て、自分自身が花のように美しく咲けるようになるという、希望を見出していくようなシーンを作りたいなと思いました。今回は女の子が家の中で冬から春を待つという、その情緒を表現したコレクションです。
—— ランジェリー風のアイテムがあるのは、そこからイメージされているのですね。ロマンティックな服だけれど、単なる可愛いだけではなくて、ちょっと大人っぽいアレンジや少し影が感じられたのはブランドの意図としたところなんですね。
まさにそうです。


シーズンが終わるとすべて廃棄するというデザインスケッチ
—— クリエーションをする上で、田村さんが一番大切にしているところはどんなところですか。
色々な面で大切にしていることがたくさんありますが、やはりストーリーを作っていくことが、私の中では大事なポイントかなと思っています。ストーリーを背景に置くことで、ルックの写真も映画のワンシーンを見ているような見せ方にできたらと意識しています。あとは、お客様自身が日常で着られる洋服であること、その日常の中にちょっと非日常的なデザインの要素を入れることも意識しています。
—— ストーリーを考えるところから服が完成するまでの間で、いろいろな段階があると思いますが、田村さんが一番ワクワクするのはどの部分ですか?
まず生地を考えている時が最初にくる楽しいワクワクですね。あとはやっぱり、モデルさんに着せて撮影する時です。このコレクションの総まとめを見ているような感じで、その瞬間は“作ってよかったな”と思う瞬間でもあります。
—— モデルさんが着た時に、完成した服を俯瞰で見ることができて、そこからまた違う発見や面白さを感じることができるのではないでしょうか。
本当に、それは感じますね。

卒業制作のテーマにするくらい色使いなどが好きなマリー・ローランサンの画集。今でもこのカラーパレットを参考にしている

—— ちなみに、デザインする上でミューズはいますか?
特定のミューズはいないです。毎シーズンのストーリーの中でいつも違うイメージの女の子を作り上げているんですが、その女性像そのものが、私のミューズかもしれません。
—— アリエルはいつも田村さんの心の中にいますか?
アリエルはいますね(笑)。プリンセスっぽさや、今を生きるプリンセスみたいな意識は常に持っているので。ストーリーの中の主人公の女の子のキャラクターが、プリンセスのような芯の強さや信念を持って、それを貫いて一生懸命前に突き進んでいく、というのは前提にあります。
—— 今後、ランウェイでコレクションを発表したいと思いますか?
近い将来、実現させたいです。そもそも「世界観の表現」を追求してブランドを始めたので、服に限らず、そういう空間でものを表現することにはとても興味があります。
—— 一般のお客様に買って着ていただく服とは別に、例えば舞台衣装やアーティストの衣装デザインには興味はありますか?
はい。それこそ私が中学生の時にレディー・ガガがデビューしたんですが、大好きでした。“いつかレディー・ガガの衣装制作に携わりたい”というのを英語の授業のスピーチで話したくらいなので、いつかは。
—— 是非実現させてください。デザイナーとしての信念があれば教えていただけますか。
私は服を通して、着る人に優しさや愛、そして勇気を届けたいと思っています。私がプリンセスに憧れた理由は、自分の中にある信念を大事にして、自分のことも愛してあげられるから。そういう気持ちを伝えたいといつも思っています。

—— デザイナーという枠をちょっと離れて、今後やってみたいことはありますか。趣味などでも。
犬が大好きなので犬の服とかも作りたいです。結局デザインの方向になっちゃいますね(笑)。あとは、インテリアデザインもやってみたいです。
—— これからデザイナーを目指す人たちに向けてメッセージやエールを送っていただけますか。
私はまだ卒業して間もないので、そんなに大それたことは言えないのですが、私が大事にしてきたことは“自分のこだわりを持つこと”です。自分の好きなことをすごく大事にして、諦めたり妥協したりというのを、学生の時から一切しませんでした。課題も「時間がないからこのデザインは諦めよう」ではなくて、こだわりを持って突き進めることが大事かなと思います。
photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)
Kanako Tamura
1996年東京都生まれ。慶応義塾大学 商学部在学中にバンタンデザイン研究所 スタイリスト科に通う。大学卒業後、新卒で家電メーカーに入社。退職後、2022年より自身のブランドカナコ タムラを立ち上げながら、文化服装学院 服飾研究科に入学。2024年3月に文化服装学院 技術専攻を卒業。
東京発のブランドストーリー

















