俳優の奥平大兼さんが、初めてのテーラードジャケット作りを行う過程に完全密着した連載の3回目。今回は、前回に続いて縫製作業を行っていきます。ジャケットを形作る大切な工程の数々、奥平さんはどう乗り越える?
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / hair & makeup : Akihito Hayami / cooperation : BUNKA Fashion College
【表地】
脇の縫製
この日最初に行ったのは、表の前身頃と脇の身頃を縫い合わせる作業。しつけ通りに慎重に、布を程よく送りながら縫うのがポイント。
両脇とも縫い終えたらアイロンをかけて、縫い代を割ります。まんじゅうを使って、立体的にするのがプロのコツ!
縫い代を割るところまできれいにできました!
背中心の縫製
次は、表地の背中心を縫い合わせます。
縫製し終えたら、ここでもアイロンで縫い代を割ります。服作りは途中のアイロン作業が美しい仕上がりのかなめ。この後も、アイロン作業がたくさん出てくるんです……。
センターベントまで縫い代を割ったら、見返しと持ち出し(あき部分に作る、裁ち出しや重ね合わせの下になる部分)に止めミシンをかけ、さらにアイロンで布を整えます。
センターベントの額縁仕立て
センターベントの角を「額縁仕立て」にします。額縁仕立てとは、生地の端を額縁のように45度で折り込む布の始末の方法。まずは三つ折りの内側の仕上がり線、外側の折り線ともにあらかじめアイロンをかけて折り目をつけておきます。
次に外側の折り線で、写真のように縦横の線を合わせて三角形に折り、さらにその三角形の直角部分を縫います。余分な縫い代を落としたら、完成。
肩の縫製
肩の部分を縫製。奥平さん、順調にミシンの針を進めていきます。
袖以外の身頃が縫い終わりました!「ここまで形になると嬉しいなあ」と、奥平さん。
裏衿をつける
衿ぐり線の角に切り込みを入れて開き、衿つけ止まり→切り込み位置→サイドネックポイント→後ろ中心の順に合い印を合わせて、縫い代の裁ち端をそろえてしつけをし、ミシンをかけます。
衿は縫製が難しいポイント。縫い上がりをしっかりチェックします。
きれいに縫えていて、一安心。後ろ衿ぐりのつれる箇所にいくつか切り込みを入れて、再び縫い代をアイロンで割りました。
袖を作る
表袖の縫製
袖となる表布のパーツをアイロンでくせ取りした後、外袖と内袖の内側の線を縫います。
アイロンで縫い代を割り、さらにアイロンで袖口と「あきみせ」(後述)を折ります。
縫い代を割る時は、写真上のように縫ったところを水で濡らした指先で開きながらアイロンの先で押さえるのですが、度々出てくるこの工程に奥平さんはもうすっかり慣れた様子でした。
さらに外側も縫製します。
縫製ができたら、再びアイロンで縫い代を割ります。アイロンをしたところは、粗熱を取りながら進めるのもきれいに仕上げるコツ。
奥平さんのオリジナルジャケットの袖口は「あきみせ」の仕様。これは、飾りボタンがつけられた、あかない装飾的な袖のこと(対して、実際にあきを作ってボタン留めにしたものは、「本あき」といいます)。このあきみせの部分の内袖縫い代に切り込みを入れて、外袖側に倒すと写真上のようなきれいな袖口になります。
裏側から袖口にもアイロンをかけて折り返します。
袖ができました!
裏袖の縫製
裏地の内袖と外袖を出来上がりでしつけをし、0.2〜0.3cm縫い代側で縫い合わせます。
縫製後、縫い代を出来上がり線から外袖側に折ります。
袖つけの準備
しつけ糸1本どりで、出来上がりから0.3cmと0.7cm縫い代側で袖山に「ぐし縫い」をします。ぐし縫いとは、針先だけを動かし、ごく細かい針目(0.1~0.2cm)で縫う方法。奥平さん、初めてのぐし縫いに挑戦です!
集中して、コツコツと・・・。
ぐし縫い完成!小さなステッチの跡がかわいらしい。
2本のぐし縫いができたら糸端を軽く引っ張り、縫い代のいせ分量をアイロンで押さえます。
袖つけ
先ほど、ぐし縫いをして仕上げた表地の袖と、表地の身頃のアームホールを縫い合わせて袖つけをします。カーブの難しい縫製箇所のため、生地の方向を変えながら慎重に針を進めます。ここも難関!
きれいに縫えているかどうか、チェック。
両方の袖とも、一回でつけることができました!
「ジャケットになってる!やった〜!」
【裏地】
身頃の縫製
ついに裏地の縫製へ!まずは後ろ中心から。裏布は伸びにくいものが多く、表布と同じように縫うと着た時に表地となじまず動きにくくなってしまうため、しつけは出来上がり線に行い、仕上げミシンは0.2〜0.3cmほど縫い代側にかけます。
【表地+裏地】
見返しと裏前身頃を縫い合わせる
ダーツを入れた裏前身頃の端と、見返しを縫い合わせます。縫い終えたら、縫い代を裏地側にアイロンで倒します。
脇、肩の縫製
見返しと縫い合わせた裏身頃を、脇→肩の順に縫製。肩の部分は立体的に仕上げたいので、袖山の立体を意識しながら(いせ込みながら)縫製するのがコツ。
縫製を終えたら、裏地の縫い代をアイロンで内側に倒します。
裏地の縫製が終わりました!
裏地に表上衿をつける
ここまで縫製した裏地に、表の上衿を縫い合わせます。
裏地に表上衿がつきました!本日の工程は、ここまで。今日の作業をすべて終えて、「ジャケットのありがたみがわかりますね!」と奥平さん。
今日の縫製を終えて、奥平さんにインタビュー!
――今日は難しい工程ばかりで、試練の連続でしたね。
奥平さん:そうですね……。全部大変だった記憶しかないです。ただ、一つひとつの難しい工程を終えるたびに、だんだん形になっていくのが面白くて、モチベーションはずっと高いままでした。「うわっ、ジャケットになってきてる!」っていう。
――身頃ができてきたり、衿が見えてきたり。
奥平さん:はい!特に袖がついたときは「ジャケットすぎ!」って思って、あの時は嬉しかったですね。
――特に難しかった工程はありますか?
奥平さん:裏地を縫うのは事前に聞いていた通り大変でしたけど、実際にやってみて思いがけず大変だったのは、アイロンがけです。回数は多いですし、当たり前ですが適当にはできない。やるならちゃんと、きれいにやりたいと思っていました。どの部分にアイロンをかけるかによってその方法も違って、難しかったです。
それって、服作りはいかに細かな工程の連続で、それが大事かということですよね。ジャケットを作るのにこんなにアイロンをかけるなんて、今日作るまでは思ってもみなかったですし、やってみて初めて大変さがわかるってこういうことか!と思いました。
事前に「大変だよ」と聞いていた裏地を縫うのは、難しかったけど楽しかったです。ぐし縫いの時も、最初はすごく難しかったですけど、無心でできる工程で落ち着きました。縫う作業は楽しかったなっていう印象のほうが大きいです。
――「縫うとリラックスして落ち着く」は、前回から変わらない部分ですね。意外とこういう作業が好きかもと思った工程はありますか?
奥平さん:地味な作業が好きなんだなと思いました。好きなことの地味な作業は無限にできるんだなあって。
――それはやっぱり、資質があって向いているということだと思います。
奥平さん:そうだったら嬉しいです。ちゃんと服を作るのが今回初めてで、その楽しさを知ることができた、ものづくりの楽しさを知れた……あ、まだ出来上がってはいないのですが(笑)、それでも、イチからものを作る楽しさを今日もちゃんと実感できて、本当にいい体験をさせていただいています。
――その経験を経て、これから洋服の見方は変わりそうですか?
奥平さん:ジャケットは、やっぱり他の服よりも細部を見るようになりました。まだそれほど自分ですべてできるわけではないですけど、これだけいろんな人の力を借りて、苦労して作っているのを経てからジャケットを見ると、「これは誰がどう作ったんだろう?」ということが気になりますし、機能や仕様もジャケットそれぞれで違うので、これからも勉強し続けたいと思うようになりました。
――奥平さんは、自分がおしゃれをしたいファッション好きというよりは、服を鑑賞したり、あるいは造形や歴史を勉強したいという好奇心を持ったファッション好きなのかなと思いますが、いかがですか?
奥平さん:本当にそうですね。もともと中学1年生で服を好きになったのも、ファッションショーがきっかけでした。特に(アレキサンダー・)マックィーンが好きで、服ありきのショーを見るのが好き、というのがファッションの入り口。そこから自分も着てみたいなと思うようになったのですが、今でも美術館や展示会で服を見るのが好きですし、友達に似合う服を見つけてそれを着てもらうのも好きです。その延長線上に、自分も作ってみたいという興味がありました。
そう考えると、本当にお洋服ってすごいですよね。もちろん着るものなのですが、見る楽しさも作る楽しさもあって、いろんな楽しみ方がある。僕が今はまだ気づいていないだけで、まだまだほかの楽しみ方もあると思います。お洋服を好きになれてよかったです。
――次回、オリジナルジャケットはいよいよ完成です。
奥平さん:もう完成するのかぁ(感慨深い様子で)。
パターンを引いていた頃が、ちょっと懐かしいくらいです。それから布を選びに行って、ま四角の布がこんな立体になるなんて……。ジャケットは構造的にかなり立体なので、余計に、平面の布からこの形になったんだっていう感動が大きいような気がします。出来上がったジャケットは、我が子のように感じるんでしょうかね。次も楽しみです!
NEXT…
vol.4はいよいよ最終仕上げ!奥平さんのオリジナルジャケットはどんなふうに出来上がる?後には引けないドキドキの工程も……。次回もお楽しみに!
Daiken Okudaira
2003年生まれ、東京都出身。演技未経験ながら初めて臨んだオーディションでメインキャストに抜擢され、映画『MOTHER マザー』(’20年)で俳優デビュー。同作で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の新人賞を受賞。映画出演作に『マイスモールランド』『ヴィレッジ』『君は放課後インソムニア』など。’23年放送のテレビドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」での星崎透役も大きな話題となった。2023年、第15回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。Disney+の完全オリジナル大作「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」(配信中)でW主演、Netflix映画『パレード』(2024年2月29日配信開始)に出演、映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(’24年3月8日公開)でW主演、NHKドラマ「ケの日のケケケ」(NHK、3月26日放送)に出演。今、最も活躍が期待されている俳優。
Instagram:@okudairadaiken_official
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