丸山敬太インタビュー
次の世代の人たちのために
今、僕ができること、そしてやるべきこと

2022.01.18

「KEITA MARUYAMA」のデザイナー丸山敬太さんが手掛けたエンターテイメントショーが昨年12月16日東京・六本⽊EX THEATER ROPPONGIにて開催されました。テーマは「春はあけぼの、夏は夜、秋は⼣暮れ、冬はつとめて・・・ITʼS SHOW TIME」。⽇本の伝統⽂化の継承にフォーカスさせながらファッションを提案した新しい形のショーとなりました。この一大イベントを終えた敬太さんの、ファッションに対する今の気持ちをここで。

アンジェラ、田辺あゆみ、りょう、冨永愛、渡辺真起子、市川実和子、SAWAなど、レジェンドモデルたちがステージに勢ぞろい。

普通のファッションショーをやっても、意味がない。これは今望まれていることではないなと。

——リアルなショーは久しぶりですね
5年ぶりになります。ヒカリエでやったのが最後ですね。今回のショーはいわゆる新作の服を見せるだけのショーではなく、さまざまな伝統文化とともにファッションを見せていくエンターテイメントショーでした。

——どのくらい前から企画したのですか?
漠然とやりたいと考えはじめたのは2年ぐらい前。会社を新しく変えるタイミングだったので節目ということもあって。新作発表のショーとも考えましたがコロナ禍になり、この厳しい中でやるべきことをあらためて考えてみました。実際に動き始めたのは昨年の9月頭ぐらい。クラウドファンディングでやるということも同時に考えていました。文化庁のアート支援に助成金の申請をしたのですが、助成金が降りるか降りないかで内容も変わってくるので、会場も決めれないでいたんです。いつものショーとは全く段取りが違うんですよ。

——敬太さんの人と人との大切なつながりを見せていただいたようでした
今回は一般の方にも見ていただきました。みなさん感想をSNSでダイレクトに伝えてくれるんです。嬉しいですね。

——冨永愛さんのピンクのオープニングのドレスがとても印象的でした
あれは、桜と柳の刺繍が施してあって、日本刺繍なんです。伝統技術として本来は着物にあしらうものです。紅会といって千葉の東金にある工房で3代目の方がやられていて。とても素晴らしいものですが、時代とともに需要が減りつつある状況。何らかの形でスポットライトを当て続けることが大切ですね。

日本刺繍を施したドレスをまとう冨永愛

——海外と比べると、日本は伝統工芸をうまく守られていないような気もしますが
とても残念なことですが、文化を継承するということが止まってしまっています。今回文化庁の協力を得ていますが、たぶんファッションショーだけでは許可されなかったと思うんです。ファッションが文化として捉えられていないところがまだ日本はありますよね。文化レベルの高い国民だし、すばらしい文化がたくさんあるにもかかわらず、国をあげてサポートするとか富裕層がサポートするということがなくなってきているように感じるんです。
伝統的な技術を駆使して服を仕上げ、スポットライトを浴びさせることはできても、本当に必要なのはそこから。それをどう継承させるかということです。ファッションは今とても厳しい中にあります、きちんとパターンをひいて、生地を作って、まともに服を作れている人がどれぐらいいるのだろうか。服なんてなんでもいいと思っている今の風潮が残念ですね。

——歌舞伎、太鼓を取りいれたのはそのようなところから?
歌舞伎の世界は若くて期待できるフレッシュな人たちがいて、きちんと継承できています。これはとてもすばらしいことですね。ブレイクダンスのチームも、歌舞伎を演じてくれた尾上右近くんと同世代なのですが、舞台で演じる上での彼らの情熱とか、根底にあるものは同じだと感じました。何かを表現していくなかで脈々と日本人が内に秘めているものを伝えていく。伝統文化から派生して新しいものが次々と生まれているんです。それを知らない若者がまだまだ多い。そこを繋ぐことに少しでも力になれたらと思いました。繋いでいくには第三者の力が必要になります。いい意味で偏ったものの見方が必要なんですね。そこがクリエーターの仕事だと思っています。

尾上右近による⼀夜限りの「娘道成寺」のショートバージョンが披露された

“⻤太⿎座”による和太⿎

捨てられてしまう着物をアップサイクルした服を着⽤したダンスユニット“ULTIMATE BBOYZ”

ファッションはとても不思議な一面を持っていて、音楽、エンタメ、食などあらよるものを繋げることが出来る興味深いカルチャーだと思っています。僕はクリエーターとしてそれをやるべきだと思いました。
デザイナーとして服を作ることはファッションのカテゴリーでとても重要なことだけど、何が望まれているのかをきちんと把握して自分なりに解釈し、今の気分をどう表現するか。それを形にするのがファッションデザイナーだと思っています。
繋がるとか、シェアするとか、交換するとかが今は大切なキーワードになっていますよね。マーケティングでのビジネスの時代を経て、そこにやっとみんなが気づき始めたんですね。

今回のイベントもクラウドファンディングを使ったのは、ビジネスでやっていることではないからです。そういうことも含めて若い世代に伝わったらいいなと思いました。そしていい形で伝えることができたのではと実感しています。

——次の世代に伝えたい気持ちはあるものの、どう伝えたらいいのかわからない人もいるのでは?
例えば、子供たちが親にご飯を作ってもらってそれをいただく。それって、日常にあることで、これも継承ですよね。みんな知らない間に多かれ少なかれやっているんですよ。僕はこの仕事をしている中で出来ることをやっているだけ。
僕たちの世代はいい時代を経験してきているんです。いろんなものが生まれて、いろんな素晴らしいものを生で見てきた世代。とても豊かでした。お金があるということではなくて。何もないところから生まれてきたというエネルギーとそれを受け止める感覚。それを体験してきている僕たちが、次の世代に伝えていくのは義務だなと。
日本のファッションの創成期を作られた髙田賢三さんや山本寛斎さんが亡くなって感じたのは、その方たちから与えられたものは計り知れないなと。心の中では恩を返す気持ちもありました。

2022年春夏のコレクションより。軽やかでロマンティックな印象のアイテムがステージをより華やかにさせて。

昔から変わらないねって言われるのは嫌だったけど、今は誉め言葉だと思っています

この数年間コロナ禍のせいでやりたいことも出来ず、ちょっとつまらなかった。ショーにでている人もそれは感じていたみたい。若い人たちには、その継承するということを形にしてバリエーションで見せてあげることが必要なんだと思いました。
あのショーに出ている若いモデルさんたちも、リハーサルから本番までの数時間ですごく変わったんです。先輩たちの素晴らしさを見て、同じステージに立つ経験をしたらきちんと吸収するんですよね。
今回のイベントは10代〜60代までの演者がいて、違う世代のスピリットが一つになることが素敵でした。それがやりたいことでしたね。服を作っているときもそういうフィロソフィーで常にやっています。この時期にできて良かったと思っています。もちろん次もやりますよ。

ハートのドレスに身を包んだ野宮真貴。グランドフィナーレで披露されたのは「東京は夜の七時」の新バージョンと「スウィート・ソウル・レヴュー」

——次の構想はありますか?
具体的にはまだですが、もっと愛情をもってやるということが大切なんだと感じています。愛のこもっているものの美しさを表現できたら。それがテーマかな。

——コロナ禍にあった2年のなかで、敬太さんが築き上げたことになるのでしょうか
コロナは想定外。世界中の人たちが同じ災難にあってそれに対して戦うというのは、僕の人生の中で初めての出来事。ネットやSNSがあったおかけで生まれたこともたくさんあって、ポジティブに考えられることもあったから、逆にあのようなイベントもできました。

——立ち止まって考えることも大切なのでしょうか
一概にそうとも言えないけれど、どんなに最悪な状況でも、良いことを見つけることが出来るということがわかりましたね。人は進化するんですね。

——そんな状況下でもファッションに携わりたい、デザイナーになりたいという人はいると思いますが、そんな若い世代の人たちにアドバイスを
本気で向き合えということですかね。僕もこの仕事に就いてもう27年。いい時も悪い時もあったけれど、それを越えてきているからこそあのような時間がご褒美でもらえたのだと思います。
デビューコレクションに出てくれたモデルさんたちが、30年近くたって今またモデルとデザイナーとして表現の場で一緒の時間を過ごせたんです。奇跡ですよね。彼女たちが舞台に立った時、それだけで圧巻でした。個性って見た目だけではないんだなって思いました。結局内面から醸し出されるものなんです。彼女たちがモデルを経てそれぞれの人生を経験し、進化してきた。一人の女性としてあのステージに立ったんですね。若いモデルさんたちは、彼女たちのその生き方自体を見せつけられて感銘を受けたのだと思います。
昔、山口小夜子さんにショーにでてもらった時、今回出てくれたレジェンドモデルさんたちが、一緒にステージに立たせてもらってとても感謝していると言ってくれました。
若い人は横で繋がりたがりますが、もちろんそういうバイブスとか大事にするべきことなのですが、縦で繋がることも必要。思ったこと以上に広がることはたくさんあるんです。

“秋は夕暮れ・・・”登場したのはKEITA MARUYAMAのアーカイブコレクション

デビュー当初のインタビューで言っていたんですけど、
「僕は、美術館に収める服を作るよりも、古着屋さんに買われてまた着られ続けたり、母から娘に譲られたりするような服をつくりたい」と。今回来ていただいたお客様の中にも当時の服を着てくれていたり、娘さんが譲られて着ていたりしていました。

——心が折れそうな若者も多いようですが
それはもう折れちゃえばいい(笑)。でもそんなに簡単に折れないから。人間案外強いから。折れちゃうのは折れるべくして折れていることだから、それはポジティブに受け止めたほうがいいです。なぜこうなっているのかって考えること。違うところに向かっているから折れる。そこで起動修正が必要になるんです。でも素直な若い人達はいっぱいいるから楽しみですよね。成功ってお金や名声だけではない。こつこつくじけないでやり続けることに意味があるんです。自分が何をしたかったのか。そしてそれが達成出来ているのか確認することが大切。それが本来の成功です。だから“まじめにやれよ”って。

photograph:Josui Yasuda(B.P.B)

丸山敬太(まるやま けいた)

1965年東京・原宿⽣まれ。1987年に⽂化服装学院を卒業後、BIGIグループの「キャトルセゾン」に⼊社、「アツキ・オオニシ」の企画デザイナーを務める。1990年独⽴後、コスチュームを中⼼に、フリーデザイナーとして、DREAMS COME TRUEをはじめ、多くのミュージシャンやタレントのステージ⾐装やTVやCMでのデザインを⼿掛ける。1994年ブランド「KEITA MARUYAMA TOKYO PARIS」を立ち上げ、‘94 ’-95秋冬東京コレクションに初参加。1996年、第14回毎⽇ファッション⼤賞新⼈賞、資⽣堂奨励賞を受賞、東京・⻘⼭に旗艦店をオープン。1997年、パリコレクション参加。2014年ブランドデビュー20周年を迎える。2020年にはK.M Design Studio を設立。近年は、自身のブランド活動だけに留まらず、ファストファッションから制服やブランドプロデュースに加え、ファッションの枠を超えて、“食”や“住”への活動の場を積極的に広げている。また、2.5次元と呼ばれるゲームやアニメーションへのデザイン提供や、舞台美術、盆踊りのプロデュースなど、ファッションの可能性を常に多角的な視線で捉えている。
ブランドHP:http://www.keitamaruyama.com/
KEITA MARUYAMAオンラインストア:https://www.keitamaruyama.com/store