ニットを中心としたクリエーションを展開するブランドpillings。デザイナーは村上亮太さん。前回の秋冬のデコラティブでボリュームアップしたニットから打って変わってハイゲージのタイプが多く登場した。
ミニマルなフォルムでありながら、デザイナー村上さんがこだわったのは服とボディの間にあらわれるゆとり。時には肌を透かし、時には布が揺れ、そして布はふんわり膨らむ。それは、風に揺れるレースのカーテンからインスピレーションを受けたと言う。“内側と外側の曖昧な境界線を引くレースのカーテン。光を通し風で揺らぐ。そんな情景を描きつつ今シーズンのコレクションを展開した。
オープニングに登場したのは優しいヌードカラーのワントーンコーディネートで見せたルック。ハイゲージニットのレイヤーは、上のニットには袖を通さず着たりすることでノンシャランなイメージに。歩くたびに袖が揺れ、インスピレーションとなったレースのカーテンを彷彿させる。あえてつけた縦横のたたみじわがデザインの一つとなって存在し、優しい色のシンプルなスタイルにシャープなアクセントとなっている。
ヌードカラーからベージュ、クリームイエロー、ドラジェピンク、ピスタチオグリーンへとカラーパレットも変化する。日常スタイルの延長にあるニットは、今回はほとんどが自動機によるニット。秋冬のざっくりしたローゲージニットと違った風合いが特徴にもなっている。
コレクションの中で多く使用されていた透け感のあるシャイニーなナイロンの布帛。タックやドレープを寄せることで、ボディに近い部分に空間ができ、一層の軽やかさを演出していた。
ショーの後半に登場したフレアーのワンピースとトップス。レース生地に樹脂加工を施した素材で、揺れるフレアーを固めてフォルムを作ったもの。軽やかさを表現したアイテムのなかで、柔らかさと硬さという対極にあるものを融合させている。
今回pillingsがコレクション会場に選んだのは、科学技術館にある装飾のないホール。時を経ることで放つ床の光沢、グレイッシュな壁、窓から差し込む穏やかな光。無機質過ぎないぬくもりを感じる空間。それらが春夏コレクションのカラーに反映されている。
言語化できないような閑かな感情を貴重なものに感じる。
携帯電話の華やかな液晶画面ではなく
アトリエの窓から見る、毎日変わり映えのない風景から何かを感じたいと思った。
夏になるとレースカーテン越しの生ぬるい不快な風と、窓からの景色を思いだす。
小さい頃からどこか窓に恐怖心を持っていた。
外からの目が怖かったのかもしれない。
オブラートのように内と外の曖昧な境界線を引くレースカーテンに守られているようだった。
遮光カーテンを引かないでいたのは、外との関係も断ちたくなくなかったからだと思う。