竹内美彩が手がけるPHOTOCOPIEU(フォトコピュー)が、「渋谷ヒカリエホールA」にて、インスタレーション形式で2024-’25年秋冬コレクションを発表。
これまで、大きなイベントを行うことはなく、一着一着の服作りに集中してきたというフォトコピュー。大勢の目に触れる場となる「Rakuten Fashion Week TOKYO」参加にあたり、改めてブランドとして本当に届けたいメッセージを見つめ直す機会となったそう。
デザイナーの竹内さんは「きれいに繕ったものよりも日々の生活の中に潜む隠された美を好みます。着用者の内面に関して想いに耽ける時間を取ることが、服のストーリーをより伝える術になるのではないか。」とコメント。
このインスタレーションでは、1時間半もの間、照明を落としたホール内で28ルックがスポットライトで照らされていた。頭部を金色の布で覆い、植木鉢や小さなノート、コーヒー、タバコなど、あらゆる日用品を持ったマネキンには、それぞれに架空の人物の名がつけられていた。さらにマネキンには、「ティルダは画家だが、普段はUver eatsを運んでいる。胎内記憶を覚えている。」「ガラはいつも人と電話している。彼女の職業は誰も知らない。」など、人物像をイメージさせる短いテキストが添えられている。
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大衆のための服であり、労働を共にすることでその人自身に馴染んでいく様が美しい「ワークウェア」を観察し、それをドレスに落とし込むことからスタートしたフォトコピューの服には、「泥臭く働く人」へ向けつつもクリーンな素材使いとシルエット作りのテクニックがある。
シルク素材にステッチを多様して服にタフさを与えたり、ドレス用の生地であるシルクウールでワークパンツを作るなど、女性の身体的な特徴を美しく見せる素材や技法を用いながら、あくまでも日々、働く人へ捧げられた服。それは、間近で目を凝らして見てわかる細かな部分で表現されている。
今シーズン、竹内さんにインスピレーションを与えたのは、北欧デザインの巨匠、ALVA AALTO(アルヴァ・アアルト)の伝記映画『アアルト』。映画内で見た、生涯をかけてアルヴァの活躍を支えた妻、アイノの存在に心を動かされたことから「見過ごされがちなものへの愛」を投影した。
見過ごされがちな瞬間のひとつである「散らかったアトリエに美しい光が差している様子」を思わず撮ったという写真は、ゴブラン織にしてワンピースやロングスカート、ジャケットの生地に使用。パソコンのバッテリーやリボンが映り込んだ「何でもない日常の一瞬」を作品として閉じ込めた。
表情豊かなギャザーがドレッシーな気分を盛り上げてくれる真紅のドレスや、胸下の短いドローコードがポイントとなるワンショルダーワンピース、斜めに配されたファスナーでスリットを調整することができるスカート、ヴィンテージのレースをイメージして毛糸でパイル編みした赤色のニット、細かなラメ糸を編み込んだ白色のニットトップも印象的。
ブランドの原点でありシグネチャーアイテムのシルククレープのアイテムは、それぞれステッチがポイントに。黒色のブラウスとスカートはゴールドの直線的なステッチ、白色のワンピースは赤の曲線ステッチが入り、それぞれに硬軟の異なる印象を与えている。これらのドレスはいずれも、ゆったりとしたアームホールが優雅な布の動きを生み出していた。ドレスは、竹内さんがかつて自分や周りの友人に合うように丈やディテールやフォルムを微調整していたといい、そうしてできたものにはその友人の名前をつけていたそう。それが今回、マネキンにつけられた名前やパーソナリティのテキストへと派生した。
日々の暮らしや営みの中で、見過ごされてきたものを可視化したい、大衆的な服からのインスピレーションをハイエンドな生地や手法で表現したり、ありそうでないバランスを作り上げることに興味を感じるという竹内さん。
そんな想いで紡がれたフォトコピューの洋服を纏ったマネキンを通して、地球のどこかに存在するかもしれない人へと思いを馳せつつ、まだ見ぬ彼らと対峙するというユニークな体験を多くの人に提供した。
PHisashi Iesaka (Officeroom Inc.)