刷新ではなく更新、シルエットは細身へ。2026–27年秋冬パリ・メンズ総括

2026–27年秋冬パリ・メンズファッションウィークは、現代における男性の多様な在り方に確かに応えていた。

それぞれのストーリー

デザイナー交代が相次ぐ昨今、ブランドストーリーを深く掘り下げるコレクションが増えているのは自然な流れだろう。産業構造の巨大化により安定志向は強まり、急進的な変革よりも「ブランドらしさ」が重視される傾向にある。創業デザイナーでさえ原点に立ち返る姿勢は象徴的であり、行われているのは刷新ではなく、過去を踏まえた更新なのだ。不確実な時代を背景に、作り手は自身とブランドのアイデンティティを重ね合わせ、そこへ今の空気をいかに織り込むかが問われている。

2シーズン目の飛躍

そんな中、最も冒険的な試みを見せたブランドのひとつが、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)によるディオール(DIOR)である。メンズにおける2シーズン目となった今季は、持ち前のキュレーション的手法をより鮮明に打ち出し、大きな話題を呼んだ。伝説的なクチュリエのポール・ポワレとディオールのヘリテージを交差させ、ノーブルな18世紀風つけ襟から岡山産のデニムまで、時代やカテゴリーを横断する大胆なアプローチが際立っていた。

同じく2シーズン目を迎えたジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)のドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)も、多くの関心を集めたブランドだ。クロスナーが描いたのは、先シーズンからの流れを汲むストーリー。前回、卒業の祝杯をあげた若者たちが新たな世界へ旅立つ姿である。豊富に登場したのは、スクールユニフォームを発展させたシルエット。カントリー調ニットやレトロな花柄をアクセントに、豊かな色彩とみずみずしい活力に満ちたコレクションとなった。

脚光を浴びたラストコレクション

一方で、舞台を去る者もいた。ひときわ脚光を浴びたエルメス(HERMÈS)のヴェロニク・ニシャニアン(Véronique Nichanian)もそのひとり。退任・就任のニュースが絶えないファッション界にあって、メンズ部門を37年にわたり率いてきたニシャニアンは71歳。主要メゾンのなかでも最長の在任期間を誇り、安定の舵取りのもと、究極にラグジュアリーなメンズのワードローブを作り上げてきた。見えない部分へのこだわりと実用性への配慮、さらには新素材への挑戦を積み重ねてきたデザイナーである。最後のコレクションはそれらの集大成と呼ぶにふさわしい、みごとなものだった。

また、ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)も、相澤陽介が手がける最後のコレクションを発表した。今年はブランド設立から20年の節目。アウトドアウェアとファッションの融合をテーマに、コレクション制作を続けてきた相澤は「次の山の頂へ挑戦したい」という思いから退任を決意したという。

実力あるニューカマーも

公式カレンダーの初登場組では、ミラノ・ファッションウィークから移行したマリアーノ(MAGLIANO)、オフスケジュール(非公式日程)から格上げとなったシュタイン(SSSTEIN)に注目したい。

ルカ・マリアーノ(Luca Magliano)によるマリアーノは、イタリア・ボローニャに拠点を置くブランド。2023年にLVMHプライズでカール・ラガーフェルド賞を受賞した経歴を持つ。今シーズンは、郊外の生活や個人的な記憶から着想を得て、日常の衣服を詩的に再構成。シルエットにゆがみなどを与えることで、整いすぎない新たなラグジュアリーを提案する。

浅川喜一朗が手がけるシュタインは、Fashion Prize of Tokyo 2025での受賞を機に、パリでショーを開催。3回目となった今回、公式カレンダー入りを果たした。リラックス感のあるミニマルなデザインに加え、徹底してこだわった素材とディテールが持ち味だ。今年はLVMHプライズのセミファイナリストに選出され、国際的な評価を高めている。

存在感を増す日本人デザイナー

パリの公式カレンダーでは、日本人デザイナーの活躍も見逃せない。今シーズンの参加ブランドは66。前回に比べて4ブランド減少したものの、日本人が率いるブランドは17へと増加し、全体のおよそ4分の1を占める。その顔ぶれには、コム デ ギャルソン(COMME DES GARÇONS)やヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)といった不動の大御所もいれば、前出のシュタインのようなニューカマーもいる。

さらに、オフスケジュールでは、Fashion Prize of Tokyo 2026の受賞者で初ショーを行ったヨーク(YOKE)、久々にパリ復帰したビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)が、それぞれ独自性のあるクリエイションを披露。今後の展開が期待される。

また最終日には、東京都主催のファッションコンクール受賞者13組による合同ショー「Tokyo New Designers Fashion Show in Paris」が開催された。会場となったのは、パリ・ファッションウィークの拠点的存在であるパレ・ド・トーキョー。ディレクションをアンリアレイジ(ANREALAGE)の森永邦彦が担い、自身のブランドで協働するプロフェッショナルとともに、次世代デザイナーがリアルな現場を体験できる環境を整えた。

「パリは憧れの場所だったが、今回の経験を通して、そのステージに立ちたいと本気で思った。必ずまた戻ってくる」。若いデザイナーたちの力強い言葉が、未来への希望を感じさせた。

では、今シーズンの動向を見ていこう。多様なスタイルが共存する時代、トレンドの輪郭はますます薄まっているが、それでも確かな潮流は読み取れる。

なかでもボリュームには明確な変化が見られた。数シーズン続いたオーバーサイズは落ち着きを取り戻し、全体はむしろ細身へと傾いている。ペンシルコートやスキニーパンツの復活も印象的だった。

メンズのワードローブに欠かせないテーラードジャケットは、意外性のあるプロポーションの遊びにより、斬新なシルエットへと変化。テールジャケットやタキシードといった礼装を再解釈したピースも新鮮だった。

対照的に、ベーシックなアイテムもそろっていた。その分、素材へのこだわりは深く、多くのブランドが作り込んだマテリアルで他者との差別化を図っている。レザーアイテムの充実も特徴的で、ブルゾンやジャケットにとどまらず、ロングコートやセットアップへと幅広く展開された。

カラーパレットは、ブラック、グレー、ブラウンを中心とする落ち着いたトーンを基調に、豊かな色が差し込まれ、装いに高揚感を添えた。とりわけ目立っていたのは、鮮やかなレッド。主役級のアイテムを彩るものから、アクセントとして部分的に使われるものまで、様々な表情を見せている。特に茶系とのコンビネーションは、今季のムードの欠かせない配色だった。

モチーフではチェックが豊富に登場し、とりわけクラシックなタータンなどが目を引いた。控えめでありながら印象を左右するネクタイも存在感を示している。シャツの中に滑り込ませたり、ラフに結んだりと、着こなしの幅を広げるアクセサリーとして、効果的に取り入れられていた。

Text : B.P.B. Paris

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