コグノーメンデザイナー、大江マイケル仁インタビュー
分断を終わらせるための、”それぞれのファイト”を服にする。
コグノーメン ‘23-’24秋冬コレクションのファーストルック。
コレクションの根幹にあるもの
――ブランド立ち上げから3年目、2023-’24AWは7シーズン目のコレクションです。今回、初めてショーをしようと思われた理由を教えてください。
マイケル: 今回のテーマは「Fight for」。ブランドとしては、そのあと裏テーマ的に「your glory」(栄光のために闘え)と続くのですが、テーマは「for」で終わっていて「それぞれのファイト」という意味を込めています。色んな人に、生の場所・演出で服を見てもらうことで「それぞれのファイト」を感じてもらいたいと思い、ショー形式で発表しました。スケールの大きなテーマだったので、発表形式もスケールを大きく、という思いもありました。
この3年間、コロナで人々が分断されていましたよね。それに今、世界では分断という言葉が浮かぶ出来事が増えています。そんなファイトを終わらせるためにそれぞれの闘いがあるという思いで、「Fight for」というテーマを設定しました。
MA-1は、リブの部分をピースマークになるよう切り替えて。このディテールにもデザイナーの思いが込められている。
――これまでのコレクション以上にサッカーの要素を感じました。
マイケル:サッカーをスポーツテイストとして表現するのではなく、スポーツを完全に理解した上でファッションに落とし込むのが、僕の一番の強みだと思っています。(※編集部注 マイケルさんは高校1年生までサッカー選手を目指していた)
バラクラバマフラーは、身元を明かしたくないサポーターがしているアイテムを翻案したものです。老若男女のサポーターが勝利にわく様子をジャカード織やプリントにしたアイテムも作りました。
――先シーズンのラインソックスに続き、サッカー要素としては後ろ側に穴のあいたソックスがスタイリングのポイントになっていました。
マイケル:サッカーをよく見る人は気が付くと思うのですが、サッカー選手はふくらはぎの筋肉が発達しているので、ソックスの締めつけで足をつらないよう、後ろ側に自分で穴をあけちゃう選手もいるんです。タイトなニットは布帛よりも人の体を締めつけてしまうことがあるのですが、それをファッションに置き換えられないかなと思って。その下にビジネスソックスやサッカーソックスをスタイリングしてコントラストをつけ、アップデートしました。ショーに出ていたソックスは自分で破った物なので売れないのですが…。売れたらいいんですけどね。
ニットとテキスタイルのこと
――コグノーメンといえばニットです。今期も非常に多くのニットが登場していました。
マイケル:全体の1/3はニットなので、本当にたくさん作りました。バラクラバマフラーやマフラーニットのパンツなど、今回のショー会場から着想したアイコニックなニットもありますが、内面的なニットもあります。今まで、サッカーのエースナンバーである「11」を編み柄やプリントなどで分かりやすく打ち出していたのですが、今回は「11」を、ニットの糸数で表現しました。オリジナルで作った11色の糸で、少し重めのローゲージニットを編んでいます。
マイケル:このオリジナル糸に透明糸を混ぜてニットベストを作り、また、蛍光ピンクや蛍光黄色などのニットは、フラッシュをたいて写真を撮るとリフレクションするアイテムです。このキラキラする二つのニットは、勝利の光と涙から着想を得ています。
――ロゼットつきのジャケットについてはいかがですか?生地は、日本で見つけたイタリアのデッドストックのものだそうですね。
マイケル:ロゼットは、闘いの先に見える光を象徴しています。
愛知県一宮市に、機屋さんとの間を取り持ってオリジナル生地を企画してくださる方がいるのですが、その方にデッドストックの生地を使いたいとリクエストさせていただき、色々見ていく中であのウールに出合いました。イタリア製のスーツ地なのに日本でデッドストックになっていたという、もしもイタリア人に話したらくすっと笑ってしまうようなストーリーがあって面白いのと、そこにスケール感も感じて。色もきれいなんです。
――セカンドルックのノースリーブコートは手描きの文字やイラストが印象的なもので、またバックステージにあったドレスカバーにもびっしりと文字が手描きされていました。あの手描きも、サッカーの文化を落とし込んだものなのでしょうか?
マイケル:サッカーからきているものではありますね。裏にあったドレスカバーには、英語やポルトガル語、スウェーデン語などモデル全員の出身国の言葉で、ポジティブなメッセージを書きました。
裏のカバーの言葉はモデルにあてていますが、セカンドルックの手描き文字はもう少し内的なもの。ナイジェリアへの旅やブラジル留学で僕が得たものから、自分にしか書けないメッセージを入れました。あとはサッカー選手の架空のサインを書いています。そのおかげで、めちゃめちゃサインのレパートリーができました(笑)。1週間くらい前からずっと書いていて、今日のショーの前にもちょっと書き足しました。
――シャツ生地がフリンジになっているアイテムも印象的でした。
マイケル:あれは2シーズン前くらいのものなんです。ロゼットのフリンジと合うかなって。スタイリングとして取り入れました。フリンジは定番で出したいと思っています。
――ほかに力を入れた生地を教えてください。
マイケル:やはり、サポーター柄のジャカード織デニムですね。今回で3シーズン連続でジャカードデニムを作っているのですが、前はもうちょっと大胆な柄だったんです。今回は人の顔を織柄にするので、細かくて……。同じ柄をMA-1にプリントしていますが、プリントデータそのままだと細かすぎて柄をひろえないため、画質が悪くなりすぎないちょうどいい塩梅で、ピクセルを広げる微調整をしました。そのためのやりとりも大変でした。
ショーを構成した重要な要素
――スタイリングのShohei Kashimaさんとのタッグについても教えてください。
マイケル:コグノーメンでご一緒するのは今回で4回目。ブランドのアイデンティティを一瞬で理解してくれる人で、少ない言葉でも会話ができる。新しい提案をもらえてこちらの提案も話すことができる、いい関係性です。
――ショーの間の音楽はリアム・ギャラガーの「More Power」と「C’mon You Know」で、フィナーレでは、オアシスの1996年ネブワースライヴバージョンの「Some Might Say」が流れていました。オアシスの曲によく親しんでいらっしゃるのですか?
マイケル:リアムが去年リリースしたアルバム『C’mon You Know』が、僕の中の名盤で。リアムって意地悪だし子供がそのまま大きくなったような人。でもそのアルバムでは家族のことを歌っていたり、若い人を励ましたりしているんです。オアシスではノエル(・ギャラガー)が歌詞を書いていたのでポエティックなのですが、リアムが書くと歌詞がまっすぐで曲調はメロディアス。それがすげえいいな!って。今回のテーマにも合っていたので選びました。
――「Fight for」に続いて秘められたyour grolyという言葉や、「分断を終わらせるための闘い」という言葉に、メッセージ性の強さと意志を感じました。洋服を作りショーで発表するという営みが、人や世の中にどう作用することがマイケルさんの理想ですか?
マイケル:ブランド名の「コグノーメン」は「ニックネーム」という意味を持っています。ニックネームって、苗字でも名前でもない、人の特徴を指すようなものでもありますよね。そんな風に、コグノーメンの服を着ることで自分の個性を光らせることができ、さらにその人が自分の新しい一面を見つけてくれたらうれしいです。そしてそれが僕の新しい発見にもなっていくこと。僕も着る人から影響を受けるし、着る人に何かを与える。そんな対等な関係でいたいなって思っています。答えになっていますか?
――なっています。デザイナーがあるスタイルを押し付けるように見せるのではなく、服が着る人らしく――といえば簡単ですが――、その人らしさを見つけるツールであってほしいと。
マイケル:そうですね。ただ、相手に委ねすぎるのは無責任なので、ブランドとしての個性やストーリーがしっかりあった上で、それをその人のストーリーで着てもらえたらと思っています。
初めてのパリ展示会の成果と、
東京でのショーで見えたもの
――今話してくださったことは、テーマに込められた「それぞれの」という部分や多国籍なモデルのキャスティングにもつながりますね。
1月には初めてパリで展示会もされましたが、そこで得たものはなんでしたか?
マイケル:レインボーウェーブというショールームに入り、展示会を行いました。もともとレディースが強いところで、今期から「ボーダーレス」という枠組みをスタートしています。単なるユニセックスアイテムではなく、色んな方向性からボーダーレスなブランドが集められている中で、コグノーメンはコレクションを見せました。ブランドの強みであるニットウェアだけでなく、テーラードももっと作っていかないといけないと思いましたね。
レインボーウェーブに入る前の取り扱い海外店舗は1軒でしたが、今回、3~4軒ほどアジア地域以外のお店が決まりそうで、ポジティブな状況です。
――ショーをやって見えてきたことや、未来への課題はありますか?
マイケル:もっともっと服を作りたいと思いました。もっと型数を作れればって。ビジネスのバランスを考えても、型数を増やす体制を整えなくてはいけないと感じています。今はアシスタントもいなくて僕一人。今回のショーは支えてくれた皆さんの力がなければ絶対に実現できませんでした。ブランドとして少しずつ成長し、もっと服を作ってオリジナリティを究めていきたいです。目標はショーを続けていくことです。
Gene Michael Oe
日本人の父とイギリス人の母のもとに生まれ、東京で生まれ育つ。幼少期より国内外の文化に触れる経験をし、10代の頃は、世界中に姉妹校がある東京の学校で、様々な国から来た帰国子女のクラスメイトとともに過ごしていた。高校でブラジルに交換留学。多人種・多民族国家の各地を旅する。帰国後、文化服装学院に入学。2015年、同校のファッション高度専門士科を卒業。在学中よりインターンをしていた国内のデザイナーズブランドで6年間働き、デザイナーアシスタントや商品企画などを経験後、’19年8月に独立。’20-’21年秋冬より自身のブランド「コグノーメン」をスタート。ブランド名はラテン語で「愛称(ニックネーム)」を意味している。
COGNOMEN
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photographs : Norifumi Fukuda(Back Stage,B.P.B.),Emi Hoshino(show,B.P.B.)