『杉咲花の撮休』全3回対談連載
VOL.3 杉咲 花 × 三宅 唱 
物語と現実の境界線

2023.03.08

WOWOWの人気企画「撮休」シリーズ。人気俳優が突然訪れた撮休=オフ日に何をする?という設定で、各クリエイターが“当て書き(※役者を想定してキャラクターを書き下ろすこと)”したパラレルワールド的な物語が展開する。

その第4弾となるのが、WOWOWで放送・配信中の『杉咲花の撮休』。今泉力哉、松居大悟、三宅唱の3監督が自身の書き下ろし×脚本家とのコラボ作の2本を撮り上げ、計6本の物語が作られた。装苑オンラインでは、杉咲花と各監督の対談を全3回でお届けしている。

最終回となる第3弾は、杉咲さん×三宅監督。観る人を驚かせる仕掛けが施された第5話「従姉妹」、30歳の杉咲さんが登場する第6話「五年前の話」は、2本で1本の作品となっている。回想シーンやモノクロ演出等々、アイデア満載の両作品の舞台裏を語っていただいた。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Miwako Tanaka / hair & make up : Mai Ozawa (mod’s hair,maincut)  Ai Miyamoto (yosine.,interviewcut) / interview & text : SYO

連続ドラマW-30「杉咲花の撮休」
多忙な毎日を送る人気俳優、杉咲花さん。彼女はドラマや映画の撮影期間に突然訪れた休日、通称“撮休”をどのように過ごすのか?知られざる杉咲さんのオフの姿をクリエイターたちが妄想を膨らませて描き、杉咲さん自身が演じる。全6話の物語を、松居大悟さん、今泉力哉さん、三宅唱さんといった現代日本映画を面白くする3名の監督が手がけた。

WOWOWプライムにて毎週金曜 午後11時30分より放送中 [全6話]
WOWOWオンデマンドにて全6話配信中【無料トライアル実施中】

出演:杉咲花
上白石萌歌、松浦祐也
若葉竜也、芹澤興人、中田青渚、岡部たかし、塚本晋也
泉澤祐希、菊池亜希子
ロン・モンロウ、光石研
坂東龍汰、芋生悠、足立智充 / 橋本愛
松尾諭 ※話数順
監督:松居大悟、今泉力哉、三宅唱
脚本:松居大悟、燃え殻、今泉力哉、向井康介、和田清人・三宅唱

まるで透明な多面体を一人ひとりが渡されて、それをどんな持ち方で、どんな角度で見たとしても、目に映るその色一つひとつがその人にとっての答えだよねと言われているよう。杉咲 花

――装苑の『杉咲花の撮休』特集では、これまで杉咲さんの松居大悟監督評、今泉力哉監督評を伺ってきました。三宅唱監督についてはいかがですか?

三宅:なんでもどうぞ。

杉咲:隣にいらっしゃるので緊張しますね(笑)。今回ご一緒して強く感じたのは、余白でした。三宅監督の作品には、受け手に託してくれる隙間がある気がするんです。台本のト書きにもそう感じられる部分があって。例えばマンションの内見に行くシーンには「壁に前の住人の画鋲が残っているのを見つけ、触ってみる。無機質な空間だが、誰かがそこで生活していたのだ。」と書かれていました。それを読んだとき、読んだ人が何を感じてそこに立つのかは委ねられているんだ、という信頼を感じてうれしくなりました。
 なんというか、ポンって透明な多面体を一人ひとりが渡されて、それをどんな持ち方で、どんな角度で見たとしても、目に映るその色一つひとつがその人にとっての答えだよねと言われているような。複雑であっても、きっとポジティブなところに到達できるのではないかという予感がして、すごくワクワクしたんです。

三宅:監督と俳優は事前に何回も会えるわけではなく、場合によっては衣装合わせくらいでしか会えないものです。そういった中で台本は手紙のように機能する――要するに、読んでもらってどう準備してもらうかにかかっているんですよね。だからこそせっかくなら「現場はどうなるんだろう?」と想像するのが楽しみになるような本にしたいなと心がけています。

 いま「準備」といいましたが、事前に準備できない部分もありますから、単に想像してもらえるだけでもいいんです。台本を読んだ役者さんが「やってみないとわからないよね」と思ってくれたら嬉しいですね。

 先程杉咲さんが言ってくれた部分に関して、単に「壁の傷跡を見る」と書いても一応、台本として機能はしているわけです。でもそこで色々と感じてほしい。何をどう感じるかは一緒に作れたら面白いから、その一歩目のきっかけとして書きました。

三宅 唱監督作、第5話「従姉妹」(上)、第6話「五年前の話」(下)より

杉咲:第5話「従姉妹」の台本の最後には「静かな部屋に、木のざわめきだけが聞こえる。」と書かれていました。それこそ現場に行かないとわからないですし、その音にアンテナを張りたくなる。「何が起こるんだろう」と想像を掻き立てられて、「行間を読み解きたい」という気持ちにもなりました。和田清人さんとの脚本づくりはどのように進められたんですか?

三宅:大まかにいうと、僕がコンセプトや物語、和田さんがセリフという分け方ができるけど、明確に役割分担をしたというよりもたくさんおしゃべりしながら作っていきました。

 人と人との会話では相手の言葉だけでなく、言葉以外のものも作用すると思うんです。今であれば寒いからそれが影響するし、ここは天井が高くて静かだから緊張もするし……(笑)。それが芝居になると、どうしても相手の反応だけを見てしゃべりがちです。でも実際は、目の前にいる相手以外にも色々と感じ話しているよね、というのがベースにある。だから、そのスイッチを開いておいてほしいということを、本作に限らずいつも僕は求めています。

 杉咲さんはそれを楽しんでくれたと思いますし、僕も本番で「何が起きるんだろう」とワクワクできたので、現場は楽しかったです。

「簡単に杉咲花という人物を解釈せずにいってみよう」という企画だったのかもしれません。 三宅 唱

――三宅監督が先ほど話されていたコンセプトについて、今回はどのようなものを考えていたのか伺いたいです。

三宅:以前監督した『神木隆之介の撮休』とは違うことをしたいと思い、1話完結じゃなくて2話で1本分くらいのものにしたいと提案しました。あとは、1日で終わる物語を書くんじゃなくて、1日を撮ることにしようとも考えました。
 現実では、1日のうち午前と午後で起きる出来事の間には何の脈絡もなく、ましてや伏線なんてなくそれぞれが積み重なっていると思うんです。僕も、今日の午前中は全く違う仕事をしていて、いまこうしてお話ししている時間とは何の因果関係もない。そんな風に出来事をごろんと並べるだけで物語にならないか、という話をしていました。

 そして、回想シーンですね。一応「撮休」シリーズには、ある1日を撮るという決まりがありますが、日々を過ごすなかで過去を思い出す時間もあるだろう、それならやってもいいんじゃないかと。長く続いているシリーズでもあるので、1日の話という縛りからではなく、視覚的なところから考えて新しさを作ろうと思いました。「50年後の杉咲花の撮休」というアイデアもありましたよね。その孫を杉咲さんに演じてもらおう、といったような。

杉咲:ありましたね。三宅さんは、事前に色々なアイデアを共有してくださいました。

三宅:今回「お忙しいと思いますが、事前にお会いしたいです」と相談して、ネタをいくつか持って杉咲さんにお話ししにいきました。「こういうことを考えているんです」に対してどんな反応をしてくれるのかがわかる、その機会を持てたのはラッキーでした。

 昨日あらためてドラマを見返してみたんだけど、休みの1日の話だと思ったら絶対にありえないことが平気な顔して起きるから、変な作品でしたね(笑)。でも「何を見ているんだろう」というところに達したいというのは、最初からうっすら考えていたことではあります。

 言葉を選ばずに言ってしまうと、このシリーズは「俳優が撮休をどう過ごしているのかを見てみたい」という欲望で支えられていると思うんです。同時に、本当の撮休ではないということもわかっていて、それも込みで皆さんが楽しんでいる。本当の撮休をどう過ごしているかなんて本来わからないものですし、役者さんには様々な顔があるもの。だったら「実はこうですよ」とか「こんな一面もあるんですよ」を見せるのではなく、むしろそうした解釈を拒むような、ただの存在が立ち上がらないかと考えていました。僕にとって今回は「簡単に杉咲花という人物を解釈せずにいってみよう」という企画だったのかもしれません。そのお陰で、観たことのない杉咲さんが撮れたようには感じています。

 俳優には、そもそも見せている顔が役なのか、ご本人なのかが曖昧なところがありますよね。もちろん、演じるご本人からすれば、どれも自分なので捉え方はまた違うと思いますが、僕にとって俳優というのは、不思議で謎めいた存在。その存在のままでいてほしかったんです。

――三宅監督の“俳優”に対するイメージを伺いましたが、杉咲さんの“監督”に対するイメージはいかがですか? 同じように謎めいているものなのでしょうか。

杉咲:難しいですね、うーん……(考え込む)。
 無条件に信頼がある、というか持っていたい、という気持ちがあると思います。三宅組で印象的だったのが、三宅さんが現場でたくさんお話をされていたことでした。ここまで現場で監督と話したことはなかったな、と感じるほどで、それは俳優に対してだけではなく、スタッフさんとのコミュニケーションでもそうだったんだろうなと。そこにいる皆さんの視線が、自然と三宅さんに向いている現場でした。

三宅:おしゃべり野郎ですね(笑)。でも全く関係ない話はしていなかったと思います。短い撮影期間ですから一緒に考えたいし、話しているうちに新しいアイデアが出てくるかもしれないと思って。そういう意識的な部分もありましたが、僕自身、普段みんなとそこまで喋るわけではないから、単に杉咲さんとは話していて面白かったんです。

杉咲:さっきまで一緒に話していた三宅さんがいつのまにかいなくなっていて、気づいたら物語が始まっている――ということもあり、現実と物語の線引きがフラットな、不思議で心地よい空間でした。

三宅:忍者みたいな(笑)。でも忍者がおしゃべりって変だな……喋らなさそうだもんね。

杉咲:気さくな忍者(笑)。

三宅:いいね! それでいこう(笑)。

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