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アカデミー受賞歴を持つ衣装デザイナー、ナイラ・ディクソンに独占インタビュー。
ファンタジーを衣装で表現するには?

2023.05.16
(L-R): Alexander Molony as Peter Pan, Ever Anderson as Wendy, Joshua Pickering as John Darling and Jacobi Jupe as Michael Darling in Disney’s live-action PETER PAN & WENDY, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Disney. © 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

世界中で愛されている「ピーター・パン」を新たに実写映画化した『ピーター・パン&ウェンディ』がディズニープラスで現在、独占配信中だ。大人になりたくない少女ウェンディが、永遠の少年ピーター・パンとともにネバーランドで繰り広げるおなじみの冒険と成長譚を、映画『グリーン・ナイト』などのデヴィッド・ロウリー監督が現代的に翻案している。

この作品の衣装を手掛けたのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ラスト サムライ』などの衣装を手がけ、2004年に米国アカデミー賞衣装デザイン賞を獲得したナイラ・ディクソン(Nglila Dickson)だ。今回、「装苑ONLINE」では、ナイラ・ディクソンさんに独占インタビューを敢行。ファンタジーの世界を衣装で表現することについて、書面インタビューでうかがった。

―― ‘90年代から活躍されているディクソンさんの長いキャリアの中で、今回『ピーター・パン&ウェンディ』の仕事のオファーを引き受けた理由を教えてください。

ナイラ・ディクソン「ピーター・パンは象徴的な作品。このような古典的な物語に新しい命を吹き込む仕事に携わることができて、とても嬉しいです。今回のオファーを引き受けた一番の理由は、デヴィッド・ロウリーです!」

――冒頭の子供部屋の場面は、衣装から壁紙まで様々なグリーンの色味に彩られていてとても綺麗でした。この場面の色彩のトーンはどのように決めたのでしょうか?特に重要だった他部門との連携についても教えてください。

ナイラ・ディクソン「プロダクション・デザイナーのジェイド・ヒーリー(Jade Healy)とは、多くの時間を共にしました。  彼女のオフィスは私たちのオフィスの隣に位置していたので、セットの方向性について継続的に情報を得ることができ、非常に助かりました。また、装飾中のセットも一緒に歩いて見ながら話すことができたので、私のデザインに大いに役立てることができました。  素晴らしい共同作業の経験でしたね」

――ウェンディの美しいガウン(写真上)について教えてください。ウェンディの動きによって、赤い裏地が度々見えるのも素敵でした。

ナイラ・ディクソン「今回のウェンディの衣装は、伝統的なナイトウェアから脱却し、より現代的で力強いキャラクターを目指したいと考えていました。

 そこで私は、彼女が父親の古いガウンを着ている、というアイディアを考えました。彼女が父親のものに愛着を持っているというその設定によって、子供用の部屋着であるブルマーの上に、力強いシルエットを作ることができたのです。監督のデヴィッドがこのガウンを見たとき、強く、個性的で、彼が想像するウェンディそのものだと感じたようです。当初、あのガウンをずっと着用させるつもりはありませんでしたが、結果的にウェンディは多くの場面であのガウンを着ることになりました。

 赤い裏地に関して、ありがとうございます。あの赤のアクセントが走るたびに見えたり消えたりするデザインが私は大好きでした」

(L-R): Ever Anderson as Wendy in Disney’s live-action PETER PAN & WENDY, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Disney. © 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

――ティンカーベルの夢いっぱいのドレスの素材や装飾はなんでしょうか?

ナイラ・ディクソン「ピーターとティンカー・ベルのコスチュームは、ひとつの場所からひとつの世界へ、互いに共鳴しあうものでありたいとデヴィッドは考えました。  まるでネバーランドの大地からやってきたような、妖精の魔法をまぶしたような……。
 この衣装の研究開発には、長い時間がかかりました。いろいろな技法を試しましたが、最終的に、フェルト地にシルクや金のメッシュ加工の生地を織り交ぜたものや、様々なペイント技法に落ち着きました。これらの技術を得意とするバンクーバーの職人、ジェシカ・デ・ハールとは緊密に連携していました。制作期間はコロナ禍だったので、さらに厄介でしたね。ティンカー・ベルを演じたヤラ・シャヒディとは事前に直接会えず、Zoomでやり取りしました」

ヤラ・シャヒディが演じるティンカー・ベル

アレクサンダー・モロニー演じるピーター・パンの衣装にも緻密なテキスタイルワークが見て取れる。

――タイガー・リリーのベルトのビーズワークは、Indigenous Nouveau(※カナダの先住民族、メティスの伝統的なビーズワークやキルトワークを伝承するプラットフォーム)のカイジャ・ハイトランドが手がけ、また、ポーチやアクセサリーのビーズワークには、北アメリカの先住民族のクリー族の要素を取り入れたそうですね。タイガー・リリーの衣装(写真下)を考えるにあたり、リサーチした物事を教えてください。

ナイラ・ディクソン「質問していただいたことは、タイガー・リリーのオーセンティックな品質を手に入れるという点で、私たちにとって大きな意味を持つことでした。私たちは多くのリサーチをした結果、伝統的なアーティストであり先住民族の芸術コンサルタントでもある、MJ ベルコート・モーゼスに多くのことを相談し、教えてもらいました。彼女は、ファンタジーの世界の衣装であってもタイガー・リリーのコスチューム全体をできるだけリアルに表現することが必要だと考え、羽根を使った装飾技法を指導してくれました。 それはとても光栄なことでした」 

――フック船長といえば赤いガウンコートが象徴的ですが、最初に着ているのはネイビーブルーのもので、ベストが赤色です。ネイビーブルーのコート(前半)と、象徴的な赤いコート(後半)という構成になった理由を教えていただけますか?
また、18世紀風のミリタリーコートはアンティークのものですか?あるいは制作して汚しをかけたものでしょうか?

ナイラ・ディクソン「フックのガウンコートは、伝統的なネイビーブルーのものと、物語の定番である赤の2種類のデザインを用意しました。 デヴィッドはこの二つのコートを見てすぐに、フックの感情表現の一部にコートを用いることを思い立ちました。フックが劇中で、悪の頂点に立つとコートは赤くなります。それは、キャラクターの転換点を表す演出として見事なものでした。

 そして、質問のコートはアンティークではありません!私が一緒に仕事をさせてもらった輝かしい衣装職人たちの努力の賜物で出来上がった一着です。まずフロントベストを2枚作ってもらい、ほとんど洗濯をせず、実際に海で生活していた人の服のサンプルも見せてもらって、ブレークダウンチームにエイジングしてもらいました。あまりに素晴らしい出来栄えで、そのうちの1枚を持ち帰り、額に入れて自宅の壁に飾っているほどです。
 ワークルーム(衣装アトリエ)では、青いコートと赤いコートをそれぞれ7枚ずつ作りました。スタントマン用、水作業で服が傷んだ時の替え、そして予備のために、それほどの衣装が必要だったのです。膨大な作業量でしたが、見事に成功しました。 今作品の衣装チームをとても誇りに思います」

ジュード・ロウ演じるフック船長。まるでアンティークのようなミリタリーコートは、アトリエですべて制作し、エイジングが施された。

――フック船長をジュード・ロウが演じていて魅力的でした。衣装で彼の役者としての魅力をどのように引き出すことを心がけていましたか?ジュードとのやりとりで印象的だったことを教えてください。

ナイラ・ディクソン「ジュードは格別な俳優で、非常に協力的です。早い段階で、彼が自身のヘアメイクに対する考えを話してくれたので、キャラクターの衣装を構築するのにとても役に立ちました。時差の関係上、ジュードがロンドンで遅めの午後に、バンクーバーにいる私は午前3時にzoomで、最初のフィッティングまで何度もやり取りすることになりました。これは気の遠くなるような話です。実際に自分自身でプレゼンすることができない衣装を見せるなんて。

 ただ、そのフィッティングで魅力的だったのは、俳優のジュード・ロウがフック船長というキャラクターになっていくところを見られたことです。彼はそのプロセスをとても楽しんでいました。最後に見つけたぴったりの帽子をかぶせたことで、ジュード・ロウは、完璧に愉快で邪悪なフック船長になりました。それはまるでビルの上棟式のようでした」

―― 「ピーター・パン&ウェンディ」は架空の世界の物語ですが、タイガー・リリーやロスト・ボーイズの衣装も現実との接点があるものでした。フィクションの中にも、リアリティへの視点があることはディクソンさんの仕事にとって重要なことですか?

ナイラ・ディクソン「現実との接点はいつも重要ですね。ネバーランドにいるロスト・ボーイズの子どもキャスト全員にも強いバックストーリーを作り、それを衣装で表現しました。ロスト・ボーイズのコスチュームに込めた背景は、彼らは海賊から物資を調達したり盗んだりしているというものです。そして、ネバーランドで拾った糸や貝殻なども用いてブレスレットやネックレスを作り身につけているでしょう。子どもたちにとっては楽しく身につけているものも、海賊にとっては迷惑なもの、というアイディアのもとで様々な衣装を作ったのです」


Ngila Dickson ●1958年生まれ、ニュージーランド・ダニーデン出身。衣装デザイナー。リチャード・テイラーとともに手がけた『ロード・オブ・ザ・リング: 王の帰還』で2004年、米国アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞。また、この年は同時に『ラスト サムライ』(2003年)も米国アカデミー賞の衣装デザイン賞にノミネートされている。『ロード・オブ・ザ・リング: 二つの塔』(2002年)、『ロード・オブ・ザ・リング: フェローシップ・オブ・ザ・リング』(2001年)、『ドラキュラZERO』(2014年)などの衣装を担当。

『ピーター・パン&ウェンディ』
監督:デヴィッド・ロウリー
脚本:デヴィッド・ロウリー、トビー・ハルブルックス
出演:ピーター・パン:アレクサンダー・モロニー/山崎 智史
ウェンディ:エヴァー・アンダーソン/東郷 姫奈
フック船長:ジュード・ロウ/森川 智之
ティンカー・ベル:ヤラ・シャヒディ
メアリー:モリー・パーカー/坂本 真綾
ディズニープラスで独占配信中。
© 2023 Disney Enterprises, Inc.
WEB : https://disneyplus.disney.co.jp/program/peter-pan-wendy

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