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どこよりも早く♡映画『バービー』の衣装を
世界的衣装デザイナーが解説

2023.06.25

8月11日(金)公開の映画『バービー』は、今夏、最も注目したいファッション映画。世界一有名なファッションドールのバービーが、華やかないくつものルックに身を包み、鮮やかなピンク色に彩られた夢の世界や人間世界で大活躍――!本作は、この1年ほどのビッグトレンドである、全身ピンクルックの「バービーコア」ブームを加速させた映画でもある。
装苑ONLINEでは、待ち遠しい『バービー』の公開を前に、衣装デザインを手がけたジャクリーヌ・デュランさんに、メールでインタビューを行いました。予告編を見つつインタビュー記事を読んで、映画の公開を楽しみに待って。

お話を聞いたのは・・
ジャクリーヌ・デュランさん
Jacqueline Durran  

衣装デザイナー。初めて衣装デザインを手がけた作品は、マイク・リー監督の『人生は、時々晴れ』(2002年)。その後、ジョー・ライト監督の『プライドと偏見』(’05年)、『つぐない』(’07年)、『アンナ・カレーニナ』(2012年)、『PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜』(’15年)や、サム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』(’19年)など数々の映画の衣装を手がける。本作『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督とは『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(’19年)に続くタッグ。米国アカデミー賞最優秀衣装デザイン賞、BAFTA賞最優秀衣装デザイン賞の受賞歴を持つ世界的衣装デザイナー。

映画『バービー』
毎日が晴天で毎日が夏、ピンクに彩られすべてが完璧な夢のような世界、「バービーランド」。いつもハッピーでおしゃれが大好きな人気者のバービー(マーゴット・ロビー)は、ピュアなボーイフレンド(?)のケン(ライアン・ゴズリング)と毎夜パーティーに繰り出していく。しかしそんな毎日に突如、異変が訪れる。世界の秘密を知る変わり者のバービー(ケイト・マッキノン)の導きで、バービーは身分の持ち主を見つけるために人間世界へと旅立つが……。『レディ・バード』や『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグが監督を務め、脚本には、ガーウィグを俳優として起用した『フランシス・ハ』や『ホワイト・ノイズ』を生み出してきたノア・バームバックが参加。本当に大切なものを見つけ出すまでのファンタジー。
監督・共同脚本:グレタ・ガーウィグ
脚本:ノア・バームバック
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレンほか
2023年8月11日(金)より全国公開。
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

――まず、本作のグレタ・ガーウィグ監督と決めた、映画『バービー』の衣装のコンセプトを教えていただけますか?

ジャクリーヌ・デュラン 監督と最初の会話で出てきたコンセプトは「目的に合わせた完全コーディネート」でした。予告編にもあるように、バービーは朝起きると、その日の目的に合わせた洋服を着て、小物を揃えるんです。なぜなら、おもちゃのバービー人形も、衣装と各アイテムがセットになって販売されているから。海水浴へ出かけるバービーなら、水着に帽子にアクセサリーを揃えるでしょう? 

そういう遊び心を大事にして、子供たちがどのように人形に服を着せ、どのように遊ぶのかを意識しながらデザインしていったんです。そのぶん着替えが多くなるので大変でした(笑)。

――「バービーらしさ」を衣装で表すためにリサーチし、リファレンスしたものの代表例はなんですか?

ジャクリーヌ・デュラン まず、「バービーらしさとは何か?」から考えないといけませんでした。例えば予告編に登場したピンクのギンガムチェック柄のドレスには、様々なコンセプトが込められています。あのルックは、’60年代初頭のバービーの衣装にインスパイアされたもの。実際、私はある人から、ピンクのギンガムチェック柄のドレスを着せたバービー人形の写真を見せてもらったんです。実物は見たことがないのですがね。

「バービーの歴史」と「状況における理想形」を軸にデザインしていったということです。

そして、状況における理想形というのは、「ビーチルックで最も理想的なルックは何か?」というような問いから生まれます。
私の場合、この問いからは、南仏や’60年代初頭のブリジット・バルドーを連想します。そのようにしてギンガムチェック柄を着たブリジット・バルドーと、バービー、そしてミッドセンチュリーを掛け合わせると、ノスタルジックかつ「理想的な海のスタイル」になるんです。

バービーはある種の「完璧さ」を表現しています。ただ、近年のバービーコアのトレンドが「完璧な女性像」を表現したものかどうかは疑問。もう少し幅広いものを表現しているのではないかと思います。

――では、まさにその「バービーコア」と呼ばれるピンクづかいについて教えてください。どれだけの種類のピンク色の衣装を用意されたのでしょうか? そして、あれほど多くのピンク色をどのようにコントロールできたのでしょうか?

ジャクリーヌ・デュラン 難しい質問ね。かなりの数のピンクを用いてカメラテストをしたんですよ。それこそ壁一面にいろんなピンクを貼り付けて検討しました。そして、そのカメラテストを元に撮影監督のロドリゴ・プリエトが撮り方を検討したんです。

美術部からは、7パターンのピンク色のカラーサンプルをもらいました。衣装の色調は、そのカラーサンプルに沿ったものでなければならなかったんです。カラー番号は忘れてしまったのだけど、その中からあるピンク色を軸にしました。

ピンクと一口に言っても、青みがかっていたり赤みがかっていたり、いろいろなバリエーションがあって選択肢が多く、本当に難しい色なんです。車やドリームハウスなど、背景のあらゆる大道具にもそれぞれ別のピンクを使っているので、美術部ともしめし合わせながら衣装を考えなければいけませんでした。

――ピンクに限らず、あれだけはっきりとしたヴィヴィッドカラーやパステルカラーの服はそうそう市場に無いのでは、と思います。たくさんのカラフルな衣装はどのように用意したのでしょうか?染めを行ったり生地から作った衣装もあれば、教えてください。 

ジャクリーヌ・デュラン 予告編にも登場するビーチやドリームハウスのシーンを含め、映画の前半の衣装は、ほぼ全てイチから作っています。「バービーが着替えたら、みんなも着替える」が原則の世界なので、大勢のキャストが数多くの衣装を着ることになるんです。色もある程度統一された色調になるとわかっていたので、テキスタイルアーティストと話し合いながら、色の組み合わせを何パターンも考案し、色がかち合わずに、しかもしっかり見分けもつく3色の組み合わせを考えました。

全色調の組み合わせのうち、半分はピンクが含まれる3色のセットです。そして、テキスタイル部門がその3色セットを元に生地を織りました。それは’60年代のテキスタイルにインスパイアされたものになっています。

予告にも登場しているビーチのシーンでは、ケンたちはセットアップ、バービーたちは洋服を着ています。基本的に、ほぼすべての衣装の生地を作り、染めも行っていますが、有りものを使う際は、この映画のテイストに合う、モードストリートのデザイナーの服をくまなく探しました。バービーが着るギンガムチェックのドレスは例外で、イタリアから取り寄せたものです。衣装の点数が最終的にいくつになったかは、ちょっと把握できないほどなんです。

何より大変だったのは、準備期間が11週間しかなかったこと。短期間であれほどたくさんの衣装を用意するのは、本当に大変でした。色の選択から、デザインの決定、生地作り、パターン裁断、衣装作り、衣装合わせと、全ての工程を11週間内に間に合わせなければならなかったのですから……。撮影中も、ビーチのシーンからパーティのシーンへ、そしてまた別のシーンへ――と場所を転々としていたので、それも大変でした。これほど労力のかかる仕事は初めてかもしれません。さらっと作っているように見えたら嬉しいんですけどね!

――『つぐない』『アンナ・カレーニナ』『美女と野獣』でともに仕事をしてきたプロダクションデザイナーのサラ・グリーンウッドさんや、セットデコレーターのケイティ・スペンサーさんとは今回どのようにともに仕事を進め、あの完璧なバービーの世界を構築したのでしょう?

ジャクリーヌ・デュラン サラ・グリーンウッドともケイティ・スペンサーとも数多く作品を一緒に手掛けてきました。彼女たちとは、とてもウマが合うんです。映画では、部門を横断してコーディネーションが上手くいかないと良い仕上がりにはならないので、チームワークが大事。
例えば、ドリームハウスのシーンの撮影はなかなか大変で、初めてあの袋小路を見たときに、すべてがあまりにもピンクだから圧倒されて、「いったいどのように衣装を合わせようかしら?」と戸惑いました。これをとらえた撮影監督のロドリゴが素晴らしい技量を発揮してくれましたね。

いずれにしても、サラはとても賢い人なのでコラボレーションがしやすいんです。彼女とは、いつも細かいところまで徹底的に話し合います。そのプロセスを欠かすことはできません。

――衣装のフォルムやデザインからは’50年代を、カラーからは’60年代を感じます。ジャクリーンさんにとってこの時代のファッションが象徴しているものを教えてください。

ジャクリーヌ・デュラン まず時代の話をすると、バービーが誕生したのは1959年なので、’50年代以前の時代は、衣装にいっさい取り入れていないんです。そして、最初に答えたように、それぞれのシーンにおける「理想パターン」をベースにデザインを決めています。

浜辺にいるバービーたちが服を着ているあたりの衣装は、たしかに’50年代風です。ただ、この作品は’50年代にとどまるわけではありません。ローラースケートを履いたバービーが登場するシーンは’90年代ですし、ウェスタン風の格好をしたバービーが登場するシーンは、’80年代中盤から’90年代風。

そうすることで、バービーの歴史の様々な時代を表現しようとしたんです。実は、バービー人形のレプリカをそのまま用いているシーンもあれば、人形にインスパイアされた衣装を仕立てているシーンもあります。ピンクのウェスタン風の衣装は実際にあったわけではないのですが、ウェスタンルックのバービーは実際に販売されていたんですよ。

まとめると、映画全体として<20世紀後半の理想郷>をベースにしつつ、バービーが生きたあらゆる時代を選びました。「ローラーブレードをするバービーなら、どの時代のバービーがいいだろう?」という具合にまず考えて、それなら’90年代に販売されていた、Hot Skatin’ Barbie人形をベースにしよう、といった順番で仕事を進めていたのです。

映画『バービー』
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