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 2019年3月、「inside you EP」を携え、センセーショナルなデビューを果たしたシンガーソングライターのmilet。クラシックからエレクトロニカやロックに魅せられていったという音楽遍歴や海外生活の経験、大学での映像専攻といった断片的な情報と陰影に富んだ音楽性がミステリアスな雰囲気を醸し出していた彼女は、その後、一年足らずの短い期間を5作のEPに収録の多彩な21曲で濃密に塗り上げながら駆け抜けていった。
 
 「音色やジャンル、方向性に関して、自分のなかで悩んでいた時期があったんです。そして、あまりに方向性が定まらないので、定めようとしなくていいかなって。どんな方向性であれ、メロディや歌詞からにじみ出る私らしさがあるはずだから、自分を信じて、好きにやろう、と。そう考えるようになったことで、それ以前とは違って、みんなにその世界観を理解してもらえる「us」のような曲が生まれましたし、この先も方向性が定まらないんじゃなくて、色んな曲を作ることが出来るというポジティブなニュアンスで自分の音楽性を捉えていこう、と」
 
 そして、満を持して完成させたデビューアルバム『eyes』は、5作のEP収録の10曲と新録曲8曲が織りなす壮大な世界が広がる。その情感の豊かさが際立った楽曲の数々は、各曲のプロデューサーと何気ない日常会話を交わしながら、設定したテーマを即興的に膨らませたもの。つまり、この作品の広がりは彼女の想像力の広がりそのものだ。
 
 「例えば、「Parachute」は『今日のテーマは”パラシュート”か”エアバッグ”かな』という話から生まれた曲ですし、「Prover」は一人でピアノを弾きながら、ボイスメモに残していたデモを発展させたり、曲によってはホントに何も考えず、思い付くままに作ったものもあって、自分でも理解出来ないというか、曲の成り立ちが面白くて。ある日は、スタジオでプロデューサーさんと1時間くらいたわいもない井戸端会議をしているうちに、会話が途切れる瞬間があって、『じゃあ、曲を作ろう』と一斉に立ち上がるっていう。そういう雑な切り替えがあるから気分も切り替わるし、雑談の雰囲気が自然と曲作りに繋がり、反映されていくのが本当に楽しくて、改めて考えてみても、私の曲作りでは、その場のコミュニケーションが大事でしたね」
 
 ONE OK ROCKのToruがプロデュースを手がけた「Somebody」や「The Love We’ve Made」、MAN WITH THE MISSIONのKamikaze BoyとBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之と共に生み出した「Grab the air」をはじめ、ロックのパッションやダンスミュージックの躍動感、バラードに凝縮されたエモーション、シンフォニックポップから広がるファンタジーなど、その多面的な音楽世界を陰影に富んだ歌声とその奥底に流れる強い意志が見事にまとめ上げている。
 
 「私自身、暗い、ネガティブな人間だとは思ってはないけれど、曲を作ると気づいたらマイナー調のものが多いというだけ。もちろん、気分が落ちるときは人並みに落ちますけど、私の曲のダークな部分、それは心の闇ではなく、自分の冷静さの表れだと思っていて、そこにわずかな希望やポジティブな思いが実っているという、そんなイメージですね。私に限らず、みんな色んな側面を持っていて、抱えているものを敢えて見せない人もいるし、私の場合はそれをさらけ出すことにしただけ。ただ、感情をさらけ出すことで、私が音楽に救われたように、同じような気持ちの人にとって救いになるんじゃないかなって」

text:Yu Onoda


MV「milet 1st full album『eyes』クロスフェード(6.3 on sale)」

milet●思春期をカナダで過ごし、現在は東京在住のシンガーソングライター。2018年より本格的に音楽活動をはじめ、2019年3月6日にToru(ONE OK ROCK)のプロデュースによる「inside you」でデビュー。深みへ誘うスモーキーな歌声と即興的なソングライティングから生まれるオーガニックなメロディ、英語を交えた歌詞世界を軸とした楽曲の奥行きと広がりが高く評価されている。www.milet.jp/


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milet
『eyes』Sony Music Labels
¥2,900+税

デビューから1年3か月。怒濤の作品制作、リリースを行いながら目覚ましい成長を遂げてきた新世代の才能がその成果を余すところなく注ぎ込んだファーストアルバム。聴き手の視点によって様相を変える多面的な18曲を収録している。milet.lnk.to/eyes