作品に入る前のほうが大変で、結構悶々とします
――舞台、映画と広がった『娼年』(’16年、’18年)では、身体的なアプローチも印象的でした。いまお話されたような部分は、以前から標榜しているスタイルなのでしょうか。
いえ、『空白』で初めて取り入れたかもしれません。もちろん身体面でのアプローチはこれまでも行ってきましたが、主に考え方の部分ですね。萎縮であったり、目を合わせられないけれど、「このお父さん(添田充)の言うことを受け止めなきゃいけない」とは思っている。でもなかなかそうはできない……という立ち姿・居方は、これまでにはなかったように思います。
映画『空白』より
――なるほど! 体と心がそぐわない状態ですね。
はい、そうです。これは現場で古田さんが引き出してくれた部分も大きかったですね。台本上で強い言葉が書かれていますが、実際に聞くのと読むのでは全く違うなと改めて感じました。古田さんが喋ることで、僕も”反応”としていまお話ししたような状態が生まれてきますし、古田さんに引っ張っていただいた感覚はあります。
――本作で演じられた青柳は、「スーパーの店長」という点ではドラマ「あのときキスしておけば」(’21年)の桃地のぞむと同じなのに、全く異なって見えて驚かされました。『孤狼の血 LEVEL2』(’21年)では髪型やひげもご自身で提案されたと聞きましたが、ビジュアル面において、今回はどうやって役を作っていったのでしょう。
今回は寺島さん演じる麻子と絡むシーンもあるので、ちょっと性的なにおいも感じられるような、そういう空気になるかもしれないという雰囲気を髪形などで醸し出したいなと思っていました。その辺りを吉田監督が面白がってくださって、ビジュアルを作っていきましたね。
映画『空白』より。寺島しのぶさん演じる麻子(中央)と松坂さん(右)
――そうした”見た目”のアプローチは、松坂さんから提案されることが多いのでしょうか。
そうですね。作品に入る前に監督やスタッフの皆さんとディスカッションをして、僕から提案するだけじゃなく、監督やカメラマンさんから「こういう風に撮りたい」という話を聞いて、「じゃあこういうことですか」「そうそう」といったような会話の中で、役が生まれてくる部分もありますね。
――松坂さんは特に近年、ディープな役どころが続いていますが、「役が抜けない」みたいなことはあるのでしょうか。
全然ないです(笑)。現場が終わったら「お疲れ様でしたー‼(満面の笑顔)」という感じですね。
――そうなんですね! 強烈な演技を毎回披露されているので、意外です。
どちらかというと、作品に入る前のほうが大変で、結構悶々としますね。たとえばいまは李相日監督の『流浪の月』(’22年公開予定)の現場に入る前の準備をしているので、まさに悶々としている期間です(笑)。
――なるほど(笑)! 『流浪の月』も非常に楽しみなのですが、松坂さんは映画はもちろんのこと、ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」や「あのときキスしておけば」(ともに’21年)など、新しい感覚であったり価値観を内包しつつ、社会との接点がしっかりある力作に次々と出演されていて、毎回「次は何を見せてくれるんだろう」とワクワクしています。ご自身も、「いままでにないもの」に惹かれるのでしょうか。
そう言っていただけて、嬉しいです。ありがとうございます。
自分の中で選択する幅は結構広くて、自分自身を高めるためだったり、いまの世間に対して作品が伝えたいメッセージを届けるためのパイプ役を務めることに意義を感じたり、台本を読んで純粋に面白くて「これをやりたい!」と思う本能的な部分もあるんですよね。色々な要素が組み合わさって、作品に参加している感じがあります。
『空白』では、いまの世の中にはきっとこういう面が強くあると感じましたし、それをちゃんと伝えたいと思いました。僕は役者だから、自分の言葉ではなくて作品でメッセージを伝えたいですし、それもあって「ぜひやりたい」と思いました。