監督のエドモンド・ヨウ監督はどんな方でしたか?一緒にお仕事をされてどんな印象を持たれましたか?
この撮影が決まってから、ちょうど監督の『Malu夢路』という作品が公開されたので、観に行ったんですが、いい意味で何とも言えない浮世離れした雰囲気と映像の美しさを感じました。だから、今回のリアルとファンタジーがミックスされたこの物語を撮ったらどうなるかというワクワク感がありましたね。監督はマレーシアの方で、優しくて穏やか、そして無邪気な少年みたいな方でした。監督はばななさんのファンで、『ムーンライト・シャドウ』を映像化して撮ることが念願だったと聞いていましたので、毎日楽しそうでしたよ。日本人の監督とはやはり考え方や撮影の流れなどが違って、演者に委ねてくれる部分も多かったです。役作りなどにおいても、もともと、監督の描いていた“さつき”はもう少しクセの強い女の子のイメージでしたが、私が想像していたイメージを細かにお話させてもらったところ、シーンによってはその両方のイメージで2回撮影してみることもありましたしね。
―現実と妄想、現在と過去などが入り混じった映像表現も印象的でしたが、撮影中に小松さんが感じたところなどはありましたか?
物語には、人間の日常的な部分が描かれるとともに、現実と妄想がゆらめくような世界観や、亡くなってしまった人と会うことができる“月影現象”という話、その現象を導く人間ではない存在の登場もあったので、ファンタジーな要素も入っています。撮影前には、その2つの対極する世界をどうやってひとつの作品として合わせるのかと思いましたが、時間軸の表現方法や現実と妄想が入り混じるような展開に監督の映像の魅力がとても生きているように思いました。また、所々にポップな要素が入っているところも印象的で、とても分かりやすい部分でいえば、“さつき”の部屋や衣装のイメージでした。やり方によっては、どこまでも重い感情のお話になってしまうところ、視覚的な明るさの演出というものがスパイスになっているように感じました。
ー特に印象に残っているのはどんなシーンですか?
先ほど出てきた「月影現象」を導く、“うらら(臼田あさ美)”とのラジオのシーンですかね。本読みの段階から気になっていたシーンです。初めて自分の辛さや悲しみを素直にぶつけられる存在に出会えて、溜めていた感情があふれるシーンです。台本に泣くという設定もありませんでしたが、さつきだったらどうするかを考えながら演じました。やっと自分の口から思いを吐き出せた瞬間だったので、顔なんて涙と鼻水でぐしゃぐしゃでした(笑)。でも、そのシーンが終わってから、(佐藤)緋美くんがすごく感動したって言ってくれて嬉しかったです。
―その佐藤緋美さんとのシーンが一番多かったように思いますが、共演はどうでしたか?
緋美くんは雰囲気自体が画になりますよね。それは映画では結構大切なことのように思います。彼の演じた“柊”という男の子は自分のことを「私」って呼んで、哀しみを紛らわせるためにセーラー服を着るという人物像。最初に小説で読んだとき、いったいこんな人物を誰が演じるんだろう?と考えていましたが、全然違和感がありませんでした。個性的な役どころだったので、大変な思いもあったと思いますが、緋美くんも粘り強くて前向きなモチベーションを保っていたし、味わい深い“柊”になっていました。
小松菜奈
1996年、東京都出身。2008年にモデルデビュー。’14年映画『渇き。』で第38回日本アカデミー賞をはじめとする各賞の新人賞を獲得し、女優として注目を浴びる。以降は『溺れるナイフ』『沈黙-サイレンス-』『来る』『さよならくちびる』『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『糸』『さくら』など多数出演。また11月12日より林遣都とW主演の映画『恋する寄生虫』が公開予定。
『ムーンライト・シャドウ』
吉本ばななのベストセラー小説「キッチン」に収録された短編小説を33年の時を経て映画化。恋人の死という突然の悲劇を受け入れることができない主人公のさつきが、死者ともう一度会えるかもしれないという不思議な現象を通して、その哀しみをどのように乗り越えて、前に進んでいけるかを描いた「さよなら」と「はじまり」のラブストーリー。
エドモンド・ヨウ監督、小松菜奈、宮沢氷魚、佐藤緋美、中原ナナ 吉倉あおい 中野誠也、臼田あさ美ほか出演。現在、全国ロードショー
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