ある種の生々しさの提示をやってみたい。
――今回の展覧会でもそうですが、甫木元さんの創作の原点には、父親が遺したホームビデオの存在が大きいですよね。映画『はだかのゆめ』では父亡き後の母の生活を主軸にしていたのでその存在がほぼ消えていましたが、小説「はだかのゆめ」では逆に、父亡きあとの息子の日常に、簡単には咀嚼できないゴツゴツとした、強烈な残り香りを放つ人として出てきます。今回の展覧会では、甫木元さんの生まれる前の、父の撮った自分の知らない時代の夫婦の映像の記録を使っているという点でも、父親の眼差しを再確認する作業であったと思います。
甫木元:自分が大学に入り、創作を始めた時期に父は死んだのですが、これが、もっと色々作りだしていたら、そのうち、批評をされはじめ、反発していたかもしれない。そういう批評も受けないうちに別れたし、父は舞台の演出家でしたが、家の中で仕事の話を全くしない人であったので、僕にとって平日はずっと家に居て、土日だけいなくなる謎の人だった。同級生からも、もう、何やってる人なのと(笑)。
晩年、病院の送り迎えを自分がやるようになって、ようやく会話を経て、何をしているのかを知る感じでしたが、亡くなった後、父のミュージカルに関わってくれていた人たちから、今の自分と同じようなことに興味を持っていたことを聞きました。第五福竜丸についての題目を考えていたようで、高知の水爆実験の被曝体験者の記録映像を撮った自分としては、自然と寄っちゃってる部分もあるのかもしれない。
今回の展示会では、父と母の2人だけの関係性を映した映像を使っていますが、その後の家族となったときの父と母の空気とは違う。母親を撮った後に、窓の外の雪の風景があって、その後、部屋の壁のカレンダーに寄りが入って、なにをしようとしていたのかはわかりませんが、いわゆる編集点が見えて面白い。
――ミュージシャンとしては’22年のメジャーデビュー以来、Bialystocksとして破竹の勢いで活躍されていますが、今回の展覧会では音楽はどういう構成になっていますか?
甫木元:美術館での展示のいいところは、映画と違って見ている側の時間を拘束しないことで、時間と空間を行ったり来たりできること。絵画だと作品1点1点の時間軸があって、見る側が面白いなと思って立ち止まる瞬間がありますが、今回は、違った素材の写真を上下に組み合わせてひとつのフレームにして見せることで、異質な要素をつなげて見ている人に多くを想起させたいと。ある種の生々しさの提示をやってみたいと考えたので、あえて無音での構成としています。
甫木元空〈窓外〉より 2023 年
ARTIST FOCUS #04
甫木元空 窓外 1991-2021
Sora Hokimoto inter face 1991-2021
2017年に、祖父と母が住む高知県四万十町に移住した甫木元空による、母を看取った21年までの家族との日常を素材とした写真、映像と、生前の父と母が甫木元の誕生以前の91年から撮り続けていたホームビデオを組み合わせた家族の記憶と記録を巡る展覧会。甫木元は「窓外」における「窓」という言葉に「こちらとあちら」、「この世とあの世」を隔てる境界のイメージを重ね、「窓の外」に旅立った故人の面影を編み直す。映画監督、ミュージシャン、小説家として各分野から注目される甫木元空の新たなクリエイションを感じる試み。
期間中の’24年1月20日(土)、21 日(日)には「爆音映画祭 IN 高知県立美術館」を開催。ライブ用機材を使って、極上の音響と音量で、「爆音で観るならこれ!」という名作や甫木元推薦の映画などが上映。
21日には甫木元によるトークイベントも実施予定。’24年2月3日には担当学芸員によるギャラリートーク(要観覧券)も開催される。
期間:2023年12月16日(土)~2024年2月18日(日)
会場:高知県立美術館
高知県高知市高須353-2
時間:9:00〜17:00(入場は16:30まで)
料金:一般 ¥370、大学生 ¥260、高校生以下無料
詳細はhttps://moak.jp/event/exhibitions/artistfocus_04.html
Sora Hokimoto 1992年埼玉県生まれ、高知県在住。多摩美術大学映像演劇学科卒業。主な監督映画に2016年の『はるねこ』、’22年の『はだかのゆめ』がある。’19年に菊池剛とともにバンド「Bialystocks」を結成。’23年には小説家としてもデビューし、新潮社より『はだかのゆめ』を刊行した。主な著作に、『その次の季節 高知県被曝者の肖像』(this and that、’22年)、『はだかのゆめ』(新潮社、’23年)がある。
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