フランスの地方には、意外と知られていないステキなミュージアムがいっぱい。その土地に根づいた伝統工芸、アート、モードと共に、町の魅力も発見してみて。
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ルネッサンス様式のクロ・リュセ城。ユネスコの世界遺産にも登録されている。
フランス中部に位置するアンボワーズはロワール古城巡りで人気の観光地。ロワール川を見渡す高台には国王たちが暮らしたアンボワーズ城がそびえ、そこから少し離れた場所に今回ご紹介するクロ・リュセ城(Château du Clos Lucé)があります。
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アンボワーズ城から見たロワール川の風景。
クロ・リュセ城はレオナルド・ダ・ヴィンチが晩年を過ごした城。イタリアにいた彼を呼び寄せたのは22歳の若き王、フランソワ1世でした。当時64歳だったレオナルドは召使いと弟子を連れ、ロバの背に揺られながらアルプス山脈を越えてやって来たと伝えられています。その時に「モナ・リザ」「洗礼者聖ヨハネ」「聖母子と聖アンナ」の3枚の高名な絵画もフランスに持ち込まれました。
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城の入り口。
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エントランスのスタッフは、レオナルドが暮らした時代の衣装でお出迎え。
未完成の傑作、荒野の聖ヒエロニムス
レオナルド・ダ・ヴィンチは言わずと知れたイタリア・ルネサンスの巨匠ですが、意外にも現存する彼の絵画は十数点しかありません。多くの作品が真贋を問われているからです。そんな中、レオナルド未完の傑作「荒野の聖ヒエロニムス(Léonard de Vinci, Saint Jérôme dans le désert)」がヴァチカン美術館から特別に貸し出され、クロ・リュセ城で展示されています。
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「荒野の聖ヒエロニムス(Léonard de Vinci, Saint Jérôme dans le désert)」ヴァチカン美術館蔵(Musées du Vatican)。聖ヒエロニムスは4世紀の聖職者で学者。聖書をギリシャ語やヘブライ語からラテン語に翻訳した人物で、史料によると374年から約5年間、修行のために砂漠に滞在したという。通常この聖人は、枢機卿の衣服に身を包み、髭を生やして聖書を傍に置く教父として描かれているが、レオナルドはその特性を取り除き、砂漠で懺悔する姿を選んだ。
「荒野の聖ヒエロニムス」はレオナルドの作品の中でも真偽が争われたことがない希少な作品のひとつ。何よりも興味深いのは絵の大部分が未完成であるがゆえに制作における各段階の技法が見られることなのです。ドローイングと絵画の狭間にあるこの絵は、制作年や依頼主が不明。なぜ完成しなかったのかなど、多くの謎に包まれています。
技法分析によると、この絵はクルミ材の支持体を使ったテンペラ画。レオナルドは、石膏、接着剤、白鉛からなる下地の上に、まず聖人の体やライオンなどを筆で描いたそう。左上の風景の部分では、指や手のひらを使って顔料を広げ、ぼかしを効かせています。ここにはレオナルドの指紋があることも判明しました。
現在ヴァチカン美術館が所蔵しますが、所在がわからなくなっていた時期もあり、発見された時には一部が切り抜かれた状態で別々の場所に置いてありました。それを見つけたのはナポレオンの叔父ジョセフ・フェッシュ枢機卿です。伝承によるとひとつは骨董品店のサイドボードの扉として使われていて、もうひとつは靴修理店の踏み台の天板として使われていたといいます。
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髭のないやせ細った顔の聖ヒエロニムは、聖書を持たず、代わりに懺悔で胸を打つ石を手にしている。視線の先にあるのは素描された教会のような建物。側にいるライオンは、棘が刺さって傷ついていたところを彼に助けられ、一緒に過ごすようになったと伝えられている。絵をよく見ると、聖人の頭部の辺りに切り取られた時の四角い跡が。
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展示場には聖ヒエロニムにまつわる絵や資料の展示も。
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写真上・中:レオナルドと聖ヒエロニムに関する古い書物。下:レオナルドの遺産の一部を相続した弟子のサライの資産目録。その中には聖ヒエロニムスの絵も含まれていたが、レオナルドによるものなのかは解明されていない。
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写真上:ヴァチカン美術館館長の解説や絵画の修復の様子など収められたドキュメンタリーも上映。下:レオナルド(左)とフランソワ1世の胸像。
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城の庭園内にある展示場。
展覧会「レオナルド・ダ・ヴィンチによる聖ヒエロニムス。未完成の傑作(Le Saint Jérôme de Léonard de Vinci. Un chef-d’œuvre inachevé)」は9月20日まで。
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