ファッションとアート
いいえ、ファッションもアートです。
「外見の向こう側、ファッションが現代アート美術館に招かれたとき」

2024.02.29

Ulrike Ottinger   Kevin Germanier

パリの中心に位置するポンピドゥー・センター、館内には国立現代アート美術館があり、フランスが誇るコレクションが所蔵されています。現在、その5階では、ファッションとアートの関係性に焦点を当てた展覧会「外見の向こう側、ファッションが現代アート美術館に招かれたとき(La traversée des apparences, quand la mode s’invite au national d’art moderne)」を開催しています。現代アートの作品と様々な意味合いで共鳴し合う17人のファッションデザイナーの作品が対話するように展示されているのです。

キュレーターはフランスのジャーナリストで、作家のローレンス・ベナイム。彼女は20世紀から21世紀へのファッションの変遷を見つめ続けてきた人物。彼女の試みは、単にファッションと現代アートの色や形の類似性を紹介することではなく、それぞれの相互作用、繋がり、内面的な関係性を作品同士の対話で追求することです。

では、いくつかの作品をローレンスの解説で観て行きましょう。

Kazuo Shiraga    Yohji Yamamoto 

白髪一雄は自らの足を使いキャンパスに絵を描く抽象画家。彼にとって絵を描くことは、色との肉体的な闘いです。一方、山本耀司は 「包み込むような 」強い黒を使って、傷だらけの表現をしています。1981年、パリの初めてのショーでモデルは裸足で歩き、生地は使い古されているように見えました。コレクションの中には、赤いバッスルを特徴するアンドロジナスな黒のフロックコートがあり、それは白髪の絵画の反映のように思えたのです。

Yves Saint Laurent         Henri Matisse

サンローランは「女性の最も美しい服は、その裸体だ」と言い、ファッションをあらゆるタブーから解放し続けました。そして、1969年に裸のモデルから型を取った装飾具のドレスからアートとの対話を始めたのです。マティスは簡略化した身体を色彩や光で、その感情を引き出すことを試みています。サンローランとマティスの対話のテーマは「動きと自由」。模写ではなく、光の影響や効果でテーマを表現するレッスンのようです。

Thebe Magugu    Ernst Ludwig Kirchner

1世紀以上の隔たりがある2つの作品。2019年、南アフリカ出身のテベはアフリカ大陸出身者で初めてLVMH賞を受賞しました。彼は「光を見つけるために自分自身を深く掘り下げることが急務だと理解した」と語りました。1933年、ナチス政権下に、退廃芸術と烙印をおされたドイツ出身の画家エルンスト。彼は日常の記憶を描いています。女性が美化された母の姿でも、鏡に向かう孤独な姿でも、時代や文化を超えて共通のテーマ(女性)に、二人はアプローチしているのです。

      Francis Picabia Comme des Garçons
             (Rei Kawakubo)

「色彩の洪水、音の洪水、情報の洪水……。私はモノクロームの静けさの中で呼吸する必要があったのです」と、川久保玲はこの時のコレクションについて語っています。彼女が定番としている黒はコレクションの中心的要素であり、細部にわたり基盤となっているのです。反抗芸術運動 NYダダイズム創設者の一人であるピカビアが描いた「Udnie(若い女性、ダンス)」。その絵の音楽のトランスの中から(川久保の)XLの服を着た踊り手が飛び出してくるようです。

Iris van Herpen                     Marc Chagall

アムステルダムのアトリエでイリスはドレスをカットしながら、新しい身体、その飛び立つ姿をイメージします。ドレスはオーガンジーの羽根で覆わられていて、イリスが呼ぶ「躍動感のあるシルエット」は、シャガールが妻ベラと自身を描いた「エッフェル塔の新郎新婦」を思い出させます。この絵には彼の故郷のヴイテブニクの街並、鶏とバイオリン、そしてパリ、彼の愛するものが描かれているのです。過去から現在への変化と進化、現実と理想や夢。両者には、幸福と脆弱性の二重の表現があるのです。

Gabrielle Chanel                                         Christian Schad

作家のステファン・ツヴァイクは、1920年代のジャズのリズムと様々な変装で満ちたこの時代を「何百人もの女装の男性と男装の女性、彼らは警察に見守られながら踊っていた。」と書き残しています。その時代のベルリンはアートとパーティーの首都であり、夜の社交上ではスモーキングとランジェリードレスの間で平和と繁栄の幻想が広がっていました。1927年にドイツの画家、作家、詩人であったクリスチャン・シャドが描いたのは伯爵と夫人、夜遊び仲間のベルリン女装男子。同時代のシャネルのドレスはシャンパンの夜を想像させます。

Giorgi De Chirico                                                                 Martin Margiela

マルタン・マルジェラは匿名の白いレーベルのイメージの中で、自分自身のアイデンティティを築きました。彼は「他の人が考案した服が好きなんです。」と言います。裏地や集めた服で遊びながら、製造過程(仮縫い、未完成、バスチェに変換されたストックマンなど)を前面に押し出し、「アーティザナル」ラインでインサイドアウトやトロンプルイユのテクニックを披露。その先導者としての地位を確立しました。
詩人のソッフィチは「夢の執筆」で、キリコの光と影の使い方を「夢や幻想の世界を想起させる」と書いています。マルジェラとキリコの作品は共に、伝統的な概念、規則に挑戦し、革新的な手法やアイディアを取り入れています。現実、非現実の境界をぼかし、視覚的な奇妙さや不思議さを表現しているのです。

Martial Raysse                                          Alber Elbaz

ランバンのアーティスティック・ディレクター(2001年〜2015年)だったエルバスは、母、妻、姉妹、全ての女性に敬意を示すために「身体に逆らわず、身体と協力すること」を制作の目標としていました。マルシャル・レイスの1964年の作品は「シワに負けない女性(年齢や外見の変化に関わらず、自信を持ち、自分自身を受け入れることができる女性)の魅力を表しています。エルバスは女性の体型や個性を尊重し、称賛し、マルシャル・レイスは女性に対する社会的なプレッシャーに抵抗し、自己表現の自由を支持しています。二人は共に多様性や個性を尊重し、それぞれの自己表現を称賛しているのです。

Ellsworth Kelly                                                                Christian Dior

1947年2月12日、クリスチャン・ディオールが初めてのオートクチュール ・コレクションをパリで発表しました。その時のモデルの一つが、このバージャケットです。会話をするのは、1951年に「何も表現していない」と言われたアメリカ人の画家エルズワース・ケリーの作品。二つの作品は共に線の美しさや、その意味の深さに焦点を当て、それらを通じて視覚的なメッセージや感情を伝えようとしています。

Issey Miyake                                              Hans Hartung

三宅一生の作品は先進技術によって生み出された軽やかなボリュームで、素朴で、詩的な美しさを呼び起こします。未来を原始の夜へと連れ戻し、永遠へと回帰します。すべての記憶は広島に原子爆弾が落とされたときに7歳の子供だった三宅の恐怖の瞬間に凝縮されるのです。三宅の苦悩に、戦争で片足を失くしたハンス・ハルトゥングの描いた黒い手のひらが共鳴します。そして、ハンスが幼い頃に雷を描いていたことを思い出すと、更に二つの関係性に驚かされるのです。

ファッションはアートなのか?
そんな旧態依然とした問いかけへの答えを目的とせず、ファッションは芸術的表現であり、一時的なトレンド以上のものであることを確認する展覧会です。

2024年4月22日まで
フランス国立近代美術館、ポンピドゥ・センター、5階
(Musée National d’Art Moderne, Centre Pompidou)
開館時間:11時〜21時(火曜休館日:火曜)
入場料:15ユーロ

Photos et Text:濱 千恵子(Chieko HAMA)

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