ITS 2023/24、受賞者たちの思考回路。

2024.03.29

ITS 2023/24 グランプリの佐藤百華さんのポートフォリオより。Photo : ©B.P.B. Paris

ITSコンテストは、ファッションを取り巻く新進クリエイターを支援するプラットフォーム。2002年に北イタリアのトリエステで発足し、デムナ(バレンシアガ)、マチュー・ブレイジー(ボッテガ・ヴェネタ)、ニコラス・デ・フェリーチェ(クレージュ)など、数々のデザイナーを輩出してきた。

最新の2023/24年版では、新たな試みとしてITSレジデンシー・アワード(ITS Residency Award)を導入。これは、65か国782人の応募の中から選出した16人のファイナリストに贈られたもので、業界の専門家たちとの交流やワークショップを盛り込んだ5日間のプログラムがトリエステで提供された。

本編のコンテストでは、数々のスポンサーシップのもと14のプライズが授与され、注目のグランプリ(ITS Arcademy Award)は、日本人デザイナーの佐藤百華さんがみごと獲得。

Photos : Courtesy of Momoka Sato

佐藤さんは「Utopia on The Mountain Top(山頂郷)」をテーマに、他界した自身の祖母へオマージュを捧げた作品を製作。白を基調に、四十九日(しじゅうくにち)の旅路を楽しく過ごせるようにと、7着の死装束をデザインした。祖母が描いた墨絵の修道院も着想源になり、修道女たちの手仕事に由来するレースを豊富に使用。花のモチーフもふんだんに取り入れ、クラフトの温もりの中にロマンティシズムを感じさせるコレクションとなった。

木箱の中にアイデアソースを凝縮。ポートフォリオも手作り感満載。Photo : ©B.P.B. Paris

デザイナーの祖母は茶道の先生だったそうで、彼女が嗜んでいた日本の伝統文化からもイメージを広げている。
Photo : Courtesy of Momoka Sato

佐藤百華(さとう・ももか)さん。2017年に文化服装学院を卒業し、企業デザイナーを経て、イギリスへ留学。帰国後、アパレルの仕事をしながら2023年に友人と共にブランド「ユークロニア(EUCHRONIA)」を設立。@euchronia_official

東京から参加したもう一人の日本人、澁木智宏さんも高い評価を得て、3つのプライズを受賞。

Photo : Courtesy of Tomohiro Shibuki

北海道出身の澁木さんは、自身の創作活動のコンセプトである「Smooth Harmony of a Series(なだらかなひと続きの調和)」から発展させ、雪で覆われたようなコレクションを制作。街も人も一様に白く包み込む雪景色が、孤独感を一体感に変え、安心感をもたらすという現象が表現された。他者との差別化に意義を見いだすファッションにおいて調和を作ることへの試みでもあり、パッケージラベルなどの素材を白いフェルトでカバーすることで、個々の主張を曖昧にしている。記憶の奥にある情景を呼び起こすポエジーに満ちた作品である。

澁木智宏さんのポートフォリオより。下の写真は素材のベースに使用した食品などのラベル。主張の強いこれらにフェルトをニードルパンチすることで、調和を生んでいる。Photo : ©B.P.B. Paris

澁木智宏(しぶき・ともひろ)さん。2012年に武蔵野美術大学を卒業、2022年よりここのがっこうで受講。美術品の創作・展示を行う傍らフリーランスのデザイナーとしても活動。@tomohiro_shibuki

審査員特別賞(ITS Jury Special Award)に輝いた二人のデザイナーも、個性が際立つクリエイションを見せていた。

一人目は、ファッション部門で選出された中国出身のジュ・バオさん。インスピレーション源は、SF映画『アナイアレイション -全滅領域-(Annihilation)』とその原作であるジェフ・ヴァンダーミアの小説。人類の文明が分子レベルで自然と絡み合ったときに何が起こるかを想像し、変容する生物を模倣したキメラ(異なる遺伝子型の細胞が共存している状態の一個体)をコレクションに投影。デニムの姿を持つ革新的なニットウェアを作り出している。

Photo : Courtesy of Ju Bao

ジュ・バオさんのポートフォリオより。コレクションはアールヌーボー様式からも着想を得ている。一見デニムのニットウェアは触ると驚くほど柔らか。現代性に富むデザインで、編み地のグラデーションも秀逸。Photo : ©B.P.B. Paris

ジュ・バオ(Ju Bao)さん。2023年にパリのIFM(Institut Français de la Mode)のニットウェアデザイン科を修了。現在は、ミラノにあるディオールのニット部門でデザイナーを務める。@_riamond_

二人目は、ジュエリー部門で選出されたイギリス人のリチャード・ファーベイさん。ジュエリー製造におけるCAD(コンピュータ支援設計)の普及に疑問を投げかけたファーベイさんは、デザイナーと職人の役割やそれぞれのスキルの重要性について研究。調査中にロンドンの宝飾街で出会った一人の職人がコレクションのミューズとなり、人と機械の関係の象徴としてデザインの中に登場する。風刺のタッチを効かせつつ、CADと伝統的な手作業の間の溝を埋めるユニークなクリエイションが好評価された。

右下の写真はミューズとなった職人。Photo : Courtesy of Richard Farbey

リチャード・ファーベイ(Richard Farbey)さん。2019年からジュエリーデザイナーとして活動し、2023年にセントラル・セント・マーチンズのジュエリーデザイン科を修了。@richardfarbey

ITSのオフィシャルサイトでは、各ファイナリストのポートフォリオを動画で紹介。創造性豊かな彼らの思考プロセスをぜひチェックしてみて!

Text : B.P.B. Paris

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