【速報】第98回装苑賞公開審査会
受賞者決定

2024.06.18

去る、6月18日(火)、第98回 装苑賞 公開審査会が開催されました。

戦後いち早く、デザインの重要性と、新人デザイナーの才能の芽を育てることの必要性を感じた先達の知恵から、『装苑』創刊20周年を記念して1956年に創設された「装苑賞」は、98回で97名の装苑賞受賞者を世に輩出してきました。

審査員はファッションデザイナーのコシノジュンコ(JUNKO KOSHINO)、廣川玉枝(SOMARTA)、三原康裕(Maison MIHARA YASUHIRO)、森永邦彦(ANREALAGE)、熊切秀典(beautiful people)、宮前義之(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)、坂部三樹郎(MIKIOSAKABE)、田中文江(FUMIE TANAKA)の計8名。

一次審査のポートフォリオ審査で32組の候補者を選出。その後、対談形式の2次審査を経て半数に絞られた16組が、ランウェイにて各3体のミニコレクションを発表しました。

装苑賞の栄誉に輝いたのは、大阪文化服装学院 ファッション・クリエイター学科三年次在学中の岩野蓮祐(いわの れんゆう)さん。テーマは「Somewhere, not here」。女性たちが自転車に乗ることで当時の抑圧的な環境から抜け出し、ひと時の自由を謳歌した19世紀のイギリスの歴史に着目した作品を制作。バリケードテープと廃棄された自転車チューブを用いたテキスタイル作りにより、それぞれが持つ力強さを表現した。その素材やシルエットの新しさが審査員から高い評価を受けた。

装苑賞佳作1位に選ばれたのは、名古屋ファッション専門学校 テクニカルクリエーション科三年次在学中の吉川明良(よしかわ あきら)さん。薬物を使用し倒れ込む動画から着想し、幻覚症状で見える光を表した服を制作。素材には、アクリル、ウール、モヘアの11色の毛糸を使用し、錯乱状態で見えるであろう、歪んだ景色を柄に落とし込んだ。

佳作2位は、北海道文化服装専門学校 ファッション研究科卒業の山根紫那(やまね しいな)さん。農業を営む両親と自分自身をテーマに、トラクターのタイヤをモチーフにした3体をデザインし、農業とファッションの融合を表現。廃棄寸前のデニムを畑の土で染色し、迫力のあるダイナミックな作品に昇華した。

NEW ENERGY特別賞に選ばれたのは、フリーランスの中尾詩夏(なかお しいか)さん。「粒子の服」をテーマにテグス1本1本に液体ゴムをつけた粒を何層にも重ね合わせ立体的に表現し、神秘的で曖昧な美しさを感じる作品に仕上げた。

また、PR01.特別賞を受賞したのは、東北師範大学 美術学院 服飾デザイン専攻三年次在学中のモウ・ギンさん。樹脂でできたひもを手編みして形成し、袖部分は糸でつないだ粒状のレジンをプラスチックのフレームで吊るすことで、不規則に張られたクモの巣につく雨粒の透き通った美しさを表現した。

受賞作品

装苑賞
岩野蓮祐「Somewhere, not here」

装苑賞
受賞者:岩野蓮祐(いわの れんゆう)
テーマ:「Somewhere, not here(さむうぇあ, のっとひあ)」
コンセプト:女性たちが自転車に乗ることで当時の抑圧的な環境から抜け出し、ひと時の自由を謳歌したという19世紀イギリスの歴史に着目し、サイクリングカルチャーが現代でも解放の象徴になると考え、今回の作品を制作。バリケードテープとチューブを用いたテキスタイル作りにより、コンセプトに合った仕上がりになりました。

プロフィール:1999年生まれ、鹿児島県出身。2022年、大阪文化服装学院 ファッション・クリエイター学科入学。現在、同学校 三年次在学中。

装苑賞佳作1位
吉川明良「幻覚」

装苑賞佳作1位
受賞者:吉川明良(よしかわ あきら)
テーマ:「幻覚(げんかく)」
コンセプト:第97回装苑賞を受賞した上村英太郎さんの作品に影響を受け、「幻覚」をテーマに、幻覚症状で見える光を表した服を制作。薬物を使用し倒れ込む人の動画を見て、彼にはいったいどんな光景が見えていたのかと考え、幻覚のうねるようなイメージを11色の毛糸を使って再現しました。毛糸の厚みと重さにより、縫製が大変でした。

プロフィール:2003年生まれ、愛知県出身。2022年、名古屋ファッション専門学校 テクニカルクリエーション科入学。現在、同学校 三年次在学中。

装苑賞佳作2位
山根紫那「YAMANE」

装苑賞佳作2位
受賞者: 山根紫那(やまね しいな)
テーマ: 「YAMANE(やまね)」
コンセプト:農家の娘として農業の素晴らしさを伝えたいと思い、今回の制作に取り組みました。父・母・私をテーマに、トラクターのタイヤがモチーフの3体をデザイン。デニムを畑の土で染色し、土くささを感じる生地に仕上げました。農業というクリエイションをファッションに落とし込むことで生まれる、新たなものを作り上げたいです。

プロフィール:2002年生まれ、北海道出身。2023年、北海道文化服装専門学校 ファッション研究科入学。2024年、同学校卒業。現在、フリーランスで活動中。

PR01.特別賞
モウ・ギン 「雨上がりの蜘蛛の巣」

PR01.特別賞
受賞者: モウ・ギン
テーマ:「雨上がりの蜘蛛の巣(あめあがりのくものす)」
コンセプト:雨上がりのクモの巣に雨粒がついた様子からインスパイアされ、今回の作品を制作しました。身頃は樹脂でできたひもを手編みして形成し、袖は糸でつないだ粒状のレジンをプラスチックのフレームにつるすことで、不規則に張られたクモの巣につく雨粒の、透き通った美しさを表現できる仕上がりになったと感じています。

プロフィール:2002年、中国生まれ。2021年、東北師範大学 美術学院 服飾デザイン専攻入学。現在、同大学三年次在学中。

NEW ENERGY特別賞
受賞者:中尾詩夏(なかお しいか)
テーマ: 「粒子の服(りゅうしのふく)」
コンセプト:3Dスキャンアプリで身の回りのものを撮影した際、今までは形を変えることのできない固体に見えていたものが、もろくあいまいな、ただの粒子の集まりのような不確実なものに見えたことから、「粒子の服」をテーマに制作。テグスに液体ゴムを点状に置いて粒子を表現し、点の重なりによる奥行きを意識して取り組みました。

プロフィール:1999年、神奈川県生まれ。2018年、多摩美術大学 美術学部 生産デザイン学科 プロダクトデザイン専攻 入学。2022年、同大学卒業。現在、フリーランスで活動中。

公開審査会の様子はこちら

さらに第98回装苑賞受賞作品や公開審査会の模様は、2023年7月26日(金)発売の『装苑』2023年9月号でも詳しくお伝えします。ぜひご覧ください!

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