8月23、25、26日の3日間、東京国際フォーラムで行われたブロードウェイミュージカル「ジャニス」。27歳という若さでこの世を去った伝説のロックシンガー、ジャニス・ジョプリンの半生をコンサートスタイルで繰り広げられたものだ。この作品は、ジャニスが“亡くなる一週間前の、一夜のコンサート”をコンセプトに舞台化したもので、総合プロディーサーに亀田誠治を迎えたことも話題となった。
コンサートスタイルというあまり例を見ないミュージカル、通常のミュージカルより更なる音楽への熱い思いがここに込められていたのではないだろうか。
主演のジャニスにはBiSHのアイナ・ジ・エンド。そしてジャニスに大きな影響を与えたのがUAの演じるアレサ・フランクリン。さらにはニーナ・シモン(浦嶋りんこ)、オデッタ、ベッシー・スミス(藤原さくら)エタ・ジェイムス(長屋晴子)と、贅沢な面々がステージに華やぎを添えた。
オープニング。エタ・ジェイムス(長屋)とともにジャニス(アイナ)が歌うのは「Tell Mama」。続いてジャニス(アイナ)のソロ「My Baby」へと続く。ジャニス(アイナ)が自らの人生を語り、それに紐付く数々の名曲を繰り広げていくのだが、オープニングからアイナのシャウトぶりに圧倒。UAの迫力ある伸びやかな声や浦嶋りんこのソウルフルなボイスにも驚かされた。さらに注目したのはエタ・ジェイムス演じる長屋晴子の歌と演技。まるで舞台女優のような品格と美しさまでもが感じられた。
素晴らしかったのは歌だけにとどまらない。
ステージに登場した彼女たちの衣装も目を見張るものがあった。このミュージカルの舞台は1960年代後半のアメリカ。同じ時代に活躍したそれぞれ個性豊かなボーカリストがステージに立ったのだ。今回のステージの衣装もまたこの年代のファッションシーンを語るのに十分なものになっていた。
ジャニスを演じるアイナ・ジ・エンド
まず主演のジャニス演じるアイナの衣装。1960年代後半のファッションシーンを語るうえで外すことが出来ないヒッピースタイルだ。アメリカ中心に台頭した、反体制的で”愛・平和・自然”を愛する自由な生き方を求めた若者たちのファッション。わかりやすいところで言うと、サイケデリックカラーや、ベルボトムのジーンズ、ロングベスト、大きなサングラス。ディテールでは、ウッドビーズの刺繍やフリンジなどが使われていた。このようなもので構成されたのがアイナの今回のスタイルだ。絞り染め風のカットソーに光沢あるベロアのパンタロン。ストールのように軽やかなガウンコートの袖口にはたっぷりとフリンジがあしらわれている。首もとや腕、指に重ね付けされたアクセサリーもポイント。そしてこのスタイルのポイントになったのが赤く染めたクシャクシャのセミロングヘア。シャウトするたびに美しく乱れていたのが印象的だ。
後半の衣装は、ペイズリー柄のトップスにレースのきもの風のはおり物。スパンコールの側章の入ったワイン色のベロアパンタロン。もちろんこれもヒッピースタイル。
アイナ・ジ・エンドの後半の衣装は赤がポイント
次に全身煌めきを纏ってステージに登場したUA。ゴスペルで培った力強いソウルフルな歌声のアレサ・フランクリンを演じた。全身スパンコールで埋め尽くされたスリムラインのシルバードレスは、ワンショルダーのデザイン。片方の大きく膨らんだパフスリーブがインパクトを与えている。つけていたアクセサリーもシルバーカラーで統一。大きく開いた胸もと、そして深いスリットなど、ステージ映えするセクシーなドレス姿を披露した。
UAが演じたアレサ・フランクリン
そしてエタ・ジェイムス演じる長屋晴子。ウエストの細さを強調したヒョウ柄のドレスはアワーグラスシルエット。ふんわりと膨らんだスカートを翻しながら歌う長屋。この頃、カジュアルなファッションシーンではこのようなサーキュラースカートが流行ったが、この女性の魅力を十分に表現したドレスは、どちらかというとクチュール。まるでディオールのニュールックをも彷彿させるようだった。
エタ・ジェイムスを演じた、緑黄色社会の長屋晴子
個性を生かした素晴らしい音楽で、同じ時代を謳歌した女性たち。そして同じ時代であってもそれぞれを表現する衣装がこれほどまでに違って、そしてそれが楽しく目に飛び込んでくる。耳から聞こえる心を揺さぶる歌声。目に映る華やかな衣装。‘60年代のファッションシーンを思い描きながら観る「ジャニス」はまた格別な感動を得るものになった。
撮影:興梠真穂/岩村美佳
ブロードウェイミュージカル『ジャニス』
10月29日(土)18:00~WOWOWで放送決定!
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