「アズディン・アライア、クチュリエとコレクター」展より。
中央はラファエル(RAPHAËL)1947-’50年頃のオートクチュールのドレス。
1980年代にボディコンシャス・ブームを巻き起こし、生涯を閉じるまでモード界に愛され続けたファッションデザイナー、アズディン・アライア(1935 -2017)。その業績をたたえて、2013年にアライアの大回顧展を開催したパリ市のモード博物館ガリエラ宮(Palais Galliera)では、10年後の今年、彼のもう一つの顔にスポットライトを当てた展覧会「アズディン・アライア、クチュリエとコレクター(AZZEDINE ALAÏA, COUTURIER AND COLLECTOR)」がスタートしました。
チャールズ・ジェームス(Charles James)1947年頃のオートクチュールのドレス。ニューヨークで開かれたジェームスの回顧展を訪れたアライアは、未来都市の設計図のような彼のパターンに魅せられたのだとか。
今回、展示されるのは、アライアが蒐集した偉大なクチュリエやファッションデザイナーのコレクターズピースです。彼自身、言わずと知れたクチュールの大家でしたが、モード界屈指のコレクターでもあり、集められた作品はなんと2万点以上だったといいます。
エイドリアン(Adrian)1940年頃のドレス。ブロードウェイで実績を上げたエイドリアンは、1928年からアメリカの映画制作会社の衣装部門を率い、彼のフォトジェニックな創造物はハリウッドのグラマーを確立するのに貢献した。
その情熱へと駆り立てたのはクリストバル・バレンシアガの引退でした。世界に名を馳せたバレンシアガが、メゾンを閉じたのは1968年。長年アトリエを支えたマドモワゼル・レネから、在庫生地の整理のために呼ばれたアライアが、巨匠のオートクチュールの素晴らしさに感銘を受けたことがきっかけとなり、モード史にとってかけがえのないクチュリエたちの遺産の保護に目覚めたそうです。
クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga / 1895-1972)のオートクチュールの作品。スペインの巨匠バレンシアガの比類なきカットの美しさがアライアをコレクター人生へと導いた。
以来、歴史に名を刻むクチュリエたちの作品を次々に手に入れ、古くは19世紀のオートクチュールから現代のプレタポルテまで、膨大な数のシルエットを蓄積していったのです。この展覧会では、アライアが秘密裏に築き上げたそれらの中から選りすぐりの約140点を紹介。アライアの生前には、フランス国内外で一度も公開されたことはなかった貴重なコレクションです。
写真上:マダム・グレ(Madame Grès)のオートクチュールの作品。下:1940年代のドレス。シルクジャージに細かなドレープを施したこれらは、“布の彫刻家”と呼ばれたグレの代表作。
写真上:マドレーヌ・ヴィオネ(Madeleine Vionnet )のオートクチュールの作品。下左:1921-’22年秋冬のドレス。馬や渦のモチーフはルサージュが刺繍。下右:1925-’26年秋冬のドレス。影絵のような柄がポエティック。
オートクチュールの父といわれるシャルル・フレデリック・ウォルト(Charles Frederick Worth / 1825-’95)の作品。
奇想天外な作風が目を引くエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli / 1890-1973)のオートクチュールの作品。
写真上:ジャンヌ・パキャン(Jeanne Paquin)、ジェニー(Jenny)、ブエ姉妹(Boué Sœurs)のオートクチュールの作品。下:手前は1920年代のブエ姉妹のドレス。可憐な花刺繍と当時流行したアールデコ調のモチーフが特徴的。
手前はジャック・グリフ(Jacques Griffe)1948-’50年頃のオートクチュールのドレス。
歴代のクチュリエたちの作品が並ぶ会場は圧巻。
現代のデザイナーたちの作品も展示。左からヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)、コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood )。
写真上:中央はニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquière)によるバレンジアガ 2004-’05年秋冬のプレタポルテ。下:ジュンヤワタナベ(Junya Watanabe)2005年春夏のプレタポルテ。
さらには特別展示として、博物館の向かいにあるパリ市立近代美術館のマティスの間で、1919年にアンリ・マティスがロシア・バレエ団のために制作した3つの舞台衣装を見ることができます。
マティスがデザインした『ナイチンゲールの歌(Le Chant du Rossignol)』の舞台衣装。
伝説のクチュリエであり、ひとりのコレクターであったアライアの心を捉えたこれら作品群は、その審美眼をあきらかにするとともに、同業者への深い敬意を伝えています。
●AZZEDINE ALAÏA, COUTURIER AND COLLECTOR
「アズディン・アライア、クチュリエとコレクター」
2024年1月21日まで。
パリ市のモード博物館ガリエラ宮
Palais Galliera
10 avenue Pierre 1er de Serbie, 75116 Paris
公式サイト
Photographs : Chieko Hama(濱 千恵子)
Text:B.P.B. Paris