
2026年 装苑 9月号の「『彼岸』が提案 たくろう 新衣装をクリエイト 」企画にて素敵な衣装を制作してくれたファッションストア「彼岸」。
東京・高円寺に2022年に古着店としてスタートしながら、独自のバイイングやリメイクへと表現の幅を広げ、彼岸ブランドとしてのスタイルを築いてきた。装苑オンラインでは9月号と連動し、新たに姉妹店「詩人」の開店を控えるオーナーの(左)宮本理一さんと(右)大崎龍之介さんにインタビュー。二人が高円寺から広げる、日本ファッションの新しい可能性とは。
photographs:Jun Tsuchiya(B.P.B.)
HIGAN●2022年3月9日、高円寺にオープンしたファッションショップ。エッジの効いたヴィンテージ古着と、国内外20以上の気鋭デザイナーズブランド、そして唯一無二のリメイクアイテムを展開。さらに、2026年に同テナント1階にてグループ二店舗目となる「詩人」をOpen予定。@higan_tokyo
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店舗に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかな色彩や大胆な装飾をまとったエッジの効いた服たちだ。そんなヴィンテージウェアの隣には国内外のデザイナーズブランド、その横には一点物のリメイクアイテムが並び、ジャンルやカテゴリーで区切られた一般的なセレクトショップとは異なる空間が広がる。

店名は、遊戯王カードをきっかけに知った「彼岸」という言葉が由来。その後、仏教における「彼岸」の思想や、地獄から天国へと至る旅を描いたダンテの『神曲』に触れ、人生を旅と捉え、人として学び、成長しながら前へ進むという考えに共鳴したという。偶然つけた名前は、今では店の哲学そのものを表す存在になっているという。


大崎 「もともとは古着屋からスタートしましたが、古着だけでは表現できない部分もあって、セレクトを始めました。国内外の面白い物作りをしているブランドを中心に、その中でもより尖ったアイテムを選ぶようにしていて。近年はdoubletやFACETASM、FUMITO GANRYU 、KIDILLなどを取り扱っています。さらに、僕ら自身が本当に欲しいと思えるものも提案するために、リメイク制作にも取り組んでおり、常に1ラックは華やかなステージ衣装として使えるような、より装飾性の高い服を置いています。他にはない、うちだけのファッションを展開できるようなお店を目指しています」
大崎「『他にはない』をあえて言語化すると買い付けは主に僕が担当していますが、最近はデータをもとにマニュアル化して買い付けをするヴィンテージショップも増えています。ただ僕自身、判断基準は自分の中にあればいいと思っていて。トレンドやマーケットも、なるべく見ないようにしています。ファッションは本来“自由”であるべきで、そういった縛りのなさが「彼岸らしさ」につながっていると思っているからです。
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性別も関係なく、サイズがすごく大きいから格好いい、小さいから面白い、柄の入り方がいい。そんなふうに、見た瞬間に『これだ』と本能的にワクワクできるものを選んでいます。なので、僕が買い付けた時点では、服のスタイルも年代も本当にばらばらなんですが、スタッフがそこから自分なりに組み合わせて、僕の想像を超えるスタイリング案を見せてくれる。それがすごく面白いし、他にはないスタイルなのかなと思います。完成形を決めて服を集めるのではなく、『この服にはまだ見ぬ可能性がある』と思えるものを選んで、みんなで新しいファッションをつくっている感覚です」


買い付けは主にヨーロッパ。ヨーロッパの古着はデザインの幅が広く、思いがけない一着に出会えることが魅力だという大崎さん。
大胆なダメージ加工のTシャツ、鮮やかな赤いサテンシャツ、星柄のフレアデニムパンツなど、ひと目で印象に残るヴィンテージウェアが並ぶ。さらに、新進気鋭の海外クリエイターの手仕事による一点物の帽子やお客さんから人気を集めるウエスタンブーツなど小物類も個性豊か。

そんなアイテムが並ぶ店内は、黒を基調に、岩肌のような壁やトゲのある什器、ゴールドのラックやシャンデリア、彼岸花をモチーフにした大きなネオン管が配され、まるで異世界に迷い込んだかのような独創的な空間が広がる。

宮本「店内は二つのエリアに分かれています。どちらも『彼岸』という店名から着想を得て、地獄をイメージした空間にしています。トゲトゲした壁や金棒をイメージして、ゴールドをアクセントに取り入れるなど、細部まで世界観にこだわりました。

入り口手前は様々な年代、テイストの古着を雑多に並べつつも、彼岸が自信をもって提案する、この店の核となる空間です。レジ横には試着室を設け、お客さんと自然にコミュニケーションが取れるよう、あえて開放的なつくりにしています。奥はセレクトブランドとリメイクアイテムを中心にディスプレイされた、よりエッジの効いた空間を演出しています。


ブランドのセレクトは、知名度や売れ行きだけでなく、服そのものに強いアイデアや違和感があるか、そしてデザイナーの人柄や、そのブランドの姿勢に共感できるかどうかも大切な基準にしています。現在は国内外のブランドを20以上取り扱っています」

大崎「スタッフも本当にファッションへの熱量が高い子たちばかりです。買い付けや展示会にもみんなで参加して、取り扱う品番やカラーについても全員で意見を交わします。役割だけで組織を動かすのではなく、それぞれの感性や得意なことを持ち寄りながら店をつくっています。



商品化するリメイクアイテムを制作するクリエイターは6人いて、部活みたいな感覚で『自分たちが本当に着たい服』を自由に制作しています。
それぞれがこの店で力をつけながら、自分の夢を実現してほしい。人生の勉強をしながら、どんな人間になりたいのか、どんな風に歩みたいのかを考えて進んでいます。そういう意味では、この店そのものが『彼岸』なんだと思います」
宮本「彼岸に来てくれるお客さんも、個性のファッションを楽しむ方たちが多いので、純粋に『その人に合わせる』ということを何より大切にしています。一人ひとり価値観が違うので、マニュアル通りに服を薦めるのではなく、その人に一番合うものを一緒に考えたい。直接顔を合わせ、その人だけのために時間を使えるのは店舗だからこそだと思っています。服を買ってもらうことよりも、『来てよかった』『楽しかった』と思って帰ってほしい。お店やスタッフのファンになってくれる人がいるのも、服のラインナップだけでなく、お店を訪れてくれる方とのコミュニケーションを大事にしているからだと思います。なので、彼岸はオンラインショップも展開していますが、売り上げの約90%が店頭での販売なんです」

そう話す宮本さんの言葉通り、実際に取材中も来店したお客さんは服を見る前にスタッフへ声をかけ、自然と会話が始まる。話題はコーディネートだけではなく、近況や将来のことまでさまざま。気づけば店内で長い時間を過ごし、笑い声が絶えない。その光景からは、この店が「服を売る場所」にとどまらないことが伝わってきた。
大崎「うちは“ヒューマニズム”で売っている店なので、とにかく楽しんで満足して帰ってほしい。全身格安ファッションで来店した子が、スタッフから頭にバッグを被せられるような本気のスタイリングをされて、そのまま服を買って、今ではインターンとして働いているようなミラクルも起きています。そんなファッションで人生が変わる楽しさを、もっと多くの人に知ってほしいですね」
大崎「実は、彼岸の下の階に新たに『詩人』をオープンする予定です。店舗は“天国と地獄の間”をイメージしたソリッドな内装で、青・白・黒でまとめた空間になっています。よりデイリーでありながらも個性的な世界観を提案します。セレクトアイテムと古着中心のラインナップは彼岸と同じですが、ウィメンズも増やし日常使いにフォーカスしていく予定です。
これからの展望としては“日本一のファッションショップ”になること。ファッション好きが日本に来たらまずは『彼岸』だよね、と言われる存在になり、NYへの出店など海外展開も本格的に進めたいです。あとは、展望というよりは願望ですが、スタッフ全員でファッションの聖地・パリへ訪問したい。彼岸のスタイルがファッションウィーク中にあちこちに大群で現れたら面白いじゃないですか。日本のファッション業界をもっと面白く、世界に発信できるんじゃないかなと思っています。
アパレルで働くことを『楽しい』と思える人は、昔に比べて少なくなっていると思います。それを一撃で変えることはできませんが、日進月歩で、自分たちなりのやり方で影響力を駆使してファッションの楽しみ方や魅力を発信していきたい。アパレル業界全体とも手を取り合って、もっともっと興味をもってもらえるカルチャーにしていけたらと思っています。
あとは、2年以内に漫画『ジョジョの奇妙な冒険』とのコラボレーションセットアップを作りたいという夢もあります!(笑)」
宮本「日本一を目指すと同時に、これまで服に全く興味を持ったことがないという人にもどんどんお店に来てほしいです。彼岸の接客とデザインで、新しいファッションに挑戦するピュアな楽しさを伝えていきたい。
これからAI時代だからこそ、僕たちが大切にしている『人間味(ヒューマニズム)』がビジネスでも何でも一番強くなる。そう信じて、これからも突き進んでいきます」