「プロダクトデザインとしての衣服」をコンセプトに掲げるブランド「mintdesigns(ミントデザインズ )」が今年で20周年を迎えました。それを記念した展覧会「ミントデザインズ大百科 : Mintpedia」が6月19日(日)までの間、青山のSPIRALにて開催中。
これまで積み重ねてきたファッションの分野に留まらないミントデザインズ のクリエイションの全貌について、展示を回りながら、デザイナーの勝井北斗さん、八木奈央さんにお話を伺いました。2人でデザインをするということ、ランドスケープとしての衣服の見え方、グラフィックのアイディアソースなど、彼らのものづくりの裏側を覗き見してみませんか?
デザイナーの勝井北斗さんと八木奈央さん
―20周年おめでとうございます。20年は長かったですか?短かったですか?
勝井北斗さん(以下 勝井)、八木奈央さん(以下 八木) : あっという間でした!
リーフレットにもなっているビジュアル。グラフィックデザインを手がけたのは村上雅士さん(emuni)
―そもそもお2人が一緒に始められたのは、セントマーチンズの同級生ということからですね。デザインするうえで何か担当とか分けているんですか?
八木 : アトリエにホワイトボードがあって、そこにいろんなアイディアソースとかデザイン画が貼り付けてあるんですけど、勝井が見て、「八木さんこれは良くないと思うんだよね」とか「やー私はこっちの方がいいと思うんだよね」みたいなやりとりはします。
勝井 : あと僕は女性の服は着られないから、客観的な観点はありますね。それぞれ違った立場にあるので、疑問があればお互いよく話はします。すごく活性化していると思います。
八木 : 例えばピンクの色を一つとっても、勝井さんが選んだものと私が選んだものとは違ったり。男性と女性では感じ方が違いますよね。理想と現実というか。そこのすり合わせはします。
―コレクションのタイトルが壁に描かれていますが、20周年っていうことは40回ちゃんとランウェイをやってらっしゃるのですか?
勝井 : ランウェイじゃないものもあります。コロナ禍の時は映像で発表しました。
―タイトルが面白くて読んじゃいますね。
これまで積み重ねてきた40回のコレクションのタイトルの一覧。
並べてみるとミントデザインズの方向性の移り変わりが一目で分かる。
オープンしたばかりの渋谷パルコでロンドンバスを使って行う予定だった
ショーは、コロナ禍で無観客での映像配信となった。
八木 : 会場構成していただいた阿部真理子さんにタイトルを全部見てもらった時に、「タイトルが面白いですよね」っておっしゃっていただいて。今までタイトルだけを意識して考えたことはなかったんですけど、“・・・・プロジェクト”ってついているようなカテゴリーもあれば、イギリスネタも多い。あとはちょっとダークな感じの言葉“ダークサイドイシュー”とか、“ダメに生きる”とか、“反抗期”とか。
― “反抗期”のシーズンは何かあったんですか?笑
八木 : 「ミントデザインズ」ってすごくふわふわしていて可愛いイメージに思われることが多かったので。
勝井 : そのイメージに対する反抗(笑)。しかもちょうど15回目のシーズンだったので、15歳くらいの女の子の気分が欲しかったからかな。
―ちょうど服も黒っぽい感じでしたよね。
八木 : そうですね。ブラックユーモアな方のミントデザインズっていうカテゴリーもあるっていう指摘を受けたので、並べて一覧してみようとなって。
―「ミントデザインズ」さんの服はポップで可愛らしい印象だったんですけど、ショーではヘア&メークアップアーティストの加茂克也さんのヘッドピースでモードに仕上がっていましたね。
八木 : ちょっとソリッドな感じに見せたいっていうところがありました。ふわっと可愛いだけじゃなくて、ちょっと硬質なものもほしいなと。
ショーで目を引く構築的なヘッドピースはヘア&メークアップの今は亡き加茂克也さんによるもの
―展示には、お二人それぞれ別のインタビュー映像がありましたね。
勝井 : 僕と八木が同じ質問に対して、お互いいないところで別々に答えているんです。
八木 : お互い何を答えているのか聞かないようにしようって。映像の編集が上がってきたのがこの展覧会の一週間くらい前なんですが、初めて勝井の映像を見て、「あ、なんか同じこと言ってる!」って。
勝井 : 僕らのこと知っている人は今回の展示の中でこれが一番面白いって言ってくれます。3~4分のビデオなんですけど、話しているうちに内容がシンクロしていくのが面白いですよ。
―床の展示は「ミントデザインズ」をさまざまな角度から切り取ったいろんなデザインですね
八木 : ここが一番、今回のタイトルにもなっている“大百科”っぽいんです。「ミントデサインズ」のいろんな部分を切り取って、それを編集し直して並べたもの。例えばアトリエで実際に使っている道具類。勝井のは“KATSUI”って名前がついているんですよ。
実際にデザイナーのお二人が使っているデザインツール。
勝井さんのものには全て名前が書いてある
―それは無くさないように?
勝井 : 自分のところに帰ってくるように(笑)
八木 : 実際に使っている柄の元になった、知人からもらった手紙。あの手紙の文字がすごく好きだったので、A to Z全部抜き出して、柄にしたんです。
アンティークの花の種の袋から着想を得た切り絵のグラフィック
勝井 : 北欧のジャーナリストで、その人の字が好きで、その字を拝借して柄にしました。あとは墨汁を垂らして、それを拡大してプリントにしたり。花の種が入っていたアンティークの袋のモチーフを切り絵にしてみたり。“ニッティングプロジェクト”っていうテーマでショーをやった時には、テーブル周りのものを全部ニットでくるみました。これを編んでくれたのが、現在の「muuc(ムーク)」のデザイナー村松啓市君。文化服装学院のニットデザイン科の学生の時にインターンできてくれて、全部編んでくれたんですよ。
八木 : これはショーのインビテーションを並べたもの。一番最初は紙のボタンをつけたカードをインビテーションにしました。
インビテーションも洗練されたグラフィックデザインが特徴。初期は紙のボタンがインビテーションにも使われていた
―展示の一番奥は20年間のクリエーションを凝縮したものですか?
八木 : これは“ランドスケープとしての衣服”というものをテーマにしています。服って自分が着るものとして選ぶことはあると思うんですが、いろんな服を着ている人を見るっていう楽しみもあると思うので。「ミントデザインズ」の服が、はたから見た時に景色として美しい服なのかどうかっていうところも意識したかったんです。
年代別ではなく色ごとにグラデーションになるように並べた20年分のコレクション。ランドスケープとして”見せる展示手法が印象的。キュレーションを務めたのはミナペルホネンの展覧会なども手がけた建築家の阿部真理子さん
―並べてみた感想は?
勝井 : 通常の展示だとマネキンとかトルソーを使うと思うのですが、このアプローチは一瞬で一望できるんです。そこが面白い。
―中でも印象に残っている服は?
勝井 : これはいちばん最初に作ったワンピースで、職人さんではなく自分たちで刷ったんです。アトリエのお風呂場で。そういう意味ではすごく感慨深いですね。
最初のコレクションの作品は、通常は仮縫いに使われるシーチング生地に
アトリエの浴室でプリントを施したもの。ミントデザインズ の原点となった貴重な1着
八木 : そのコレクションは全部シーチングで、プリントだけ頑張っていろいろ考えて。ここの服は年代順に並べているわけではないんです。色合い。グラデーションですね。白から順に赤、緑、・・・と。
夜に来ると、この空間が暗くなって下からライトが当たるんですが、それがまた幻想的で綺麗です。浮遊感があるんです。
勝井 : ここはプリントドレスのアーカイブ。ワンシーズンにそのとき作った柄をそめ付けて出していました。その一部です。ワンシーズンで5,6種類作っていました。素材はテンセルです。
20年分のアーカイブコレクション。型と素材はすべて共通してる。
プリントコレクション
今回新しく組み直したプリントのドレスがあります。販売もしているんですが、この中で好きなのが骸骨のプリント。うちにしては骸骨とかってあんまりないので新鮮ですね。
勝井さん、八木さんともにお気に入りの骸骨がモチーフとなったワンピース。
英国の雰囲気も感じられるクールな一着。新作のプリントワンピースは各44,000円(税込)
八木 : 今回はじめて版画作品も制作して販売しています。
勝井 : 僕らが一つ一つ手刷りで刷っています。
本展のためにひとつひとつ手刷りで制作されたグラフィック。こちらの作品は購入することができる。
フレーム付き 各 44,000円(税込)
シルクスクリーンの版
八木 : 家の中にもこういう柄を取り込んで飾ってもらいたいなと思って。
ブランドのアイコン的な人形の柄は、ヨーロッパの陶器でできた小さな人形から。蚤の市でよく売っていたりするんですけど。女の子のモチーフということに意味合いはなくて、どちらかというと、連続柄、ドットのような考え方です。連続柄で使えるもので、ブランドオリジナルの柄が欲しいということで作りました。
―20年経って、この先の課題はありますか?
八木 : プロダクトデザインとしての衣服というのが、ブランドコンセプトで20年前に掲げていたんですが、今後は少し衣食住に関わるデザインを手がけていきたいと思っています。これまでもさまざまなクライアントさんとのお仕事で、服以外のデザインもやらせていただきましたが、それをきちんと紹介できるようにしていきたいですね。
ショップでは展覧会オリジナルグッズを販売。アーカイブ生地を使ったトートバッグや、てぬぐい専門店「かまわぬ」とコラボレーションしたミントデザインズらしい柄のてぬぐいなどが新たに登場。手ぬぐいは各1,980円 トートバッグは8,800円〜19,800円。このほかこの展覧会でしか手に入らないアイテムが揃っている。
¥8,800〜¥19,800(税込)
手ぬぐい ¥1,980
ミントデザインズ20周年記念展覧会
『ミントデザインズ大百科“Mintpedia”』
期間:2022年6月8日(水)~6月19日(日)
場所:スパイラルガーデン
東京都港区南青山5-6-23 スパイラル1F
時間:11:00~20:00
入場無料
お問合せ:info@mint-designs.com
photographs : Josui Yasuda (B.P.B.)