「マルニ」のフランチェスコ・リッソ、
文化服装学院での特別講義と東京でのランウエイショー。

2023.02.10

文化服装学院の生徒からの5つの質問

講義終了後、フランチェスコ・リッソを囲んで記念撮影

――フランチェスコさんがデザインするテーラリングは、クリエーションの中でどのような意味をもつのでしょうか?

テーラリングというのは、上質な服を語るのに不可欠なものです。コレクションの中にテーラリングを盛り込むのはとても大好きで、ジャケットを一つ作るのにも多くのステップを必要とし、層を重ねて最終的に美しいジャケットを作るのはとてもやりがいのあること。ジャケットをデザインするにあたって、まず肩のデザインをどうするか考えます。テーラリングの存在によって、その時のコレクションの中に一つのキャラクターを作ることが出来るのです。今日私が着ているのはレザーの固いフォルムのコートですが、肩のラインによっては柔らかい雰囲気になると思います。コレクションの全体的な枠組みを決めてくれるのがテーラリングの役目だと思っています。

――好奇心を持つこと。そしてファッションの世界だけでなく視野を広げてということが大事だと仰っていました。ただ、そういう意識を持っていてもいいアイディアが出てこないかもしれません、その時はどうしたらいいでしょうか?

私たちにとってもスランプに陥るのはあり得ることです。ファッションだけの領域において無理にインスピレーションを求めようとすると、深みのないインスピレーションのもとになってしまいます。視野を狭めてインスピレーションを得ることは、私からは提案はできません。
幅広く学びたいという好奇心を持つならば、文学、芸術、例えばここに置かれている椅子や道を歩いている人からもインスピレーションを得ることが出来ると思います。好奇心を持つということは世界を広げていくことなんです。
深みのないインスピレーションは行き詰ってしまうでしょう。作品を進めることが出来なくなるということ。それを解決するには、勉強を絶え間なくすること。例えば、シェークスピアを題材にするときに、すべての作品を読む。そうすることでシャークスピアが解決策を教えてくれる。深く掘り下げて学ぶことが大事。でもそれでもダメな時もあります。あきらめることなく好奇心を持って、シェークスピアの作品だけでなく、“彼の人生はどうだったのか?”と、その背景までを調べます。人間ですからそれでもダメな時もあります。クリエイティブになれるときとどうでないときを受け入れるしかないです。
私たちが仕事をしているこの業界では、非常に多くのことを求められます。次々と絶え間なくアイディアを引き出されることを求められます。時には疲れ果てて疲弊感を覚えることも。ただその時は自らの精神スキルを守ります。プレッシャーを感じる中で、そこから何かが生まれることもあるかと思います。

――私はファッションデザインを勉強しています。チームとともにものづくりのプロセスそのものを楽しむべきだと仰っていました。でも私たちは一人で制作することが多いのです。どうやってクリエーションを楽しめばいいでしょうか?

私が話したチームというのは、仕事のチームのことだけではありません。私には友人、画家、アーティスト、ミュージシャンなどさまざまな交流があります。その人たちと自分のアイディアを分かち合います。バーチャルな意味でのチームが、仕事場とは別に存在します。そこでクリエイティビティを共有できる人たちも一つのチームとして考えています。
服作りをするうえで、意見が食い違うことも多々あります。そんな中で、逆に反対意見を持っている人たちから、新たな気づきを得ることもあるのです。人間として成長していくためには、より多くの問題に直面し、それを対処することが出来る人間になること。自ら挑戦していきましょう。

――近年のファーフリーについてどう思いますか?

面白いエピソードがあります。マルニは美しいファーに定評のあるブランドでもありました。私は6年前のファーストコレクションで、リアルファーではなくフェイクファーの服を披露したのです。そうしたら「美しいファーを扱っていたマルニがフェイクファーを発表するなんて!」と大スキャンダルになって。でも今となっては、ファーというものはこの世の中で必要性を感じないし、生きるためにも必要不可欠なものでもありません。むしろ今はあの頃には存在しなかったファー以外物の美しい素材がたくさん開発されていています。ファーがなくても代替となる素材はいくらでもあるのです。今現在ファーは使わなくなっても、皮革は使われていますね。けれど、それもだんだん消えていくと思います。私の着ているコートもヴィンテージのレザーコートですが合皮です。技術は進歩して、キノコやバナナの成分から合成皮革が作られるのです。動物愛護の運動も活発化し、服にもそのような素材を使わずにファッションを表現するというように変わってくると思います。

――私が今興味を持っているのはマカロニウエスタンです。マカロニウエスタンの映画を撮るセルジオ・レオーネ監督は、日本の黒澤明監督から影響を受けて映画監督になったと聞きました。フランチェスコさんは、ショー以外に来日の目的、日本から影響を受けたいと思っていることはありますか?

コロナ禍において友人とも会うこともない中、世界各都市に点在する友人に手紙を書いて相談したことがきっかけで、ロス、シカゴ、デトロイト、NY、パリ、ミラノ、ロンドン、ダカール、上海、東京など世界18都市で2021春夏コレクションの動画配信をしました。あらかじめ服を各都市に届け、ライブ配信ではそれらを着たモデルたちが自ら撮影した日常を流す、というデジタルならではの手法を用いて発表したものです。友人たちがそれぞれの視点で好きに解釈したもの。通常のランウェイとは違う概念です。第3者の好奇心も知ることができ、自分では考えられなかった展開に素晴らしい影響を受けました。私にとってとても力強いメッセージになったのです。どこの都市に行っても違う環境に自らを置いて、じぶんが適応性をもって接することで、マルニを愛してくれる人と接点を持つ。それは貴重な体験です。
なぜファッションの世界にいるかというと、人とつながりたいから。私がデザインした服を着た人がどういう感情、エモーションになるのかを知りたいのです。人はどういう服を着るかによって、語るストーリーも変わる。自分の存在意義も変わる。思想も変わってくるのではないかと思う。ここ東京でもそれが知りたいと思っていたのです。

国立代々木競技場 第二体育館でのショー、
招待状のデザインは文化服装学院の赤澤雛子さん

左は赤澤さんがデザインした招待状の原画。国立代々木競技場 第二体育館をモチーフにした少しレトロなイメージ。右は実際の招待客に配信されたデジタルの招待状。紙のクシャクシャとした質感を表現させたもの。

赤澤雛子さんとフランチェスコ・リッソ氏

赤くライトアップされた国立代々木競技場 第二体育館

装苑モデル、モトーラ世理奈登場!
世界18都市で開催した、2021春夏コレクションの動画配信での東京バージョンにも出演した。

ショーの様子

ショーの様子

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