Vol.2 デビュー10年で東京からパリへ
2007年に”ビューティフルピープル”を立ち上げたデザイナーの熊切秀典さん。デビュー10周年を迎えた時に念願のパリコレクションデビューを果たしました。今年の10月にパリコレ10回目の節目を迎える熊切さんに、ファッションのこと、ブランドのこと、パリのことなどをお聞きしました。
▶▶Vol.1はこちら
ブランド名にも象徴されるように、対立した概念が一つに同時に含まれる感覚をパリに進出してからも東京と変わらずにデザインコンセプトとして掲げています。
★パリコレ#1 2017-18秋冬
テーマ「WAFUKU」
着物の直線裁断と洋服の裁断のいいところを融合させました。フランスでジャポニズムが流行っていて、着物をガウンのように羽織ったりして、日本とは全く違う着こなしをするんですよね。そんなことも意識して作りました。日本人が和をテーマに服を作るのは難しいですよね。
“コム デ ギャルソン”出身の日本人というとこで期待感もあったのだと思います。パリは常に何か新しいものを、そしてどこか強いものをと望んできました。とはいえベーシックなものが好きなわけで、根底にあるのはそれなんですけどね。
★パリコレ#2 2018春夏
テーマ「MAKE LOVE」
一回目は和服と洋服という対極にあるものをひとつにしました。二回目は、男性と女性を一つに。それぞれのイメージの服の半分をはぎあわせるのではなく、きちんと完成された2着をレイヤーの方法で半分に見えるようにしたデザインです。既存のデザインに対するカウンターみたいなところもあるので。パリは、自分たちがやってきたことをさらに進化させるデザインに対して評価が高いんですよね。Side-Cへの転機となるコレクションです。
★パリコレ#3 2018―19秋冬
テーマ「/fe」
バイヤスのコレクション。ヴィオネのクリエーションからヒントを得ています。ピーコートやトレンチコートなど、男性的なアイテムをバイヤスで仕立てました。素材はメルトンなど。バイヤス仕立てのトレンチコートは存在するのですが、布が体に沿って落ち感を楽しむようなものを表現したかったんです。学生時代に作ったジャケットは2面構成とか4面構成ですが、これは0面構成。ようするにはぎ目がないということです。ボタンの停める位置で、フォルムが変わり体の協調される部分が違ってきます。難しいけど楽しいですよ。
★パリコレ#4 2019春夏
テーマ「Side-C」
毎日ファッション大賞の受賞理由になった、side-Cというパターンをはじめました。side-Cは、表をA面、裏をB面としたときのその間のこと。コインやレコードから連想して名付けました。それは表から見えないけれど、服作りにおいて一番重要なところです。肩パットやジャケットの毛芯だったり。そしてそこの部分には正式名称がないんです。表と裏の間とか、裏の裏とか表の裏とか。そこに目を向けることで、新しい服のテーマになりました。従来の中綴じや表と裏の仕立てを変化させ、新しいデザインアプローチに挑んだコレクションです。
★パリコレ#5 2019-20秋冬
テーマ「Side-C vol.2」
前回複雑なパターンをやりましたが、表と裏を同じ色でやったのでわかりずらかったということもあり、それぞれ色を変えて可視化して伝えました。こだわっている内側、人間だと血管だったり心臓だったりする部分なので、血管に見立てた花柄などもテキスタイルに表現しました。
★パリコレ#6 2020春夏
テーマ「Side-C vol.3 24way」
表と裏の間は実は体は1つの所しか通せないのですが、前布、前布の裏地、後ろ布の裏地、後ろ布と4枚の布には3か所体を通すところがあります。日めくりカレンダーのように前の布をくるっと後ろに1枚ずつ返していくと、全部で24通りの着かたができます。プリントや色のグラデーションで1日の空の変化を表現しました。シアーな素材なので、布の重なりで色も変わります。フォルムはあまり変わらないのですが、それが逆に今後の課題になりました。
★パリコレ#7 2020-21秋冬
テーマ「Side-C vol.4 INTIMATE」
洋服の毛芯の部分というのは、建築で言うと壁にも存在します。実際壁をはがすと、内部に隠れている断熱材にプリントがあったりするのですが、そういうものをインスピレーションして、洋服において僕たちがside-Cだと思うところに保温機能なども加えてプリントを施しました。壁の間の物をわざとみせるという発想。このコレクションもなかなかおもしろかったですよ。パリのジャーナリストからの反応にも手ごたえを感じました。
★パリコレ#8 2021春夏
テーマ「Side-C vol.5 MOTIONAL」
毛芯とかパットの入っている部分を袋状にしてそこに発砲ポリスチレンビーズを入れて膨らました服。膨らましたくないところはおさえて。内側を設計し直したコレクションです。ビーズを入れて膨らました服は、そのまま座るとソファに座っているように見えるユニークなもの。ディオールのニュールックへのオマージュもパッドで作っているからクラシックには見えなくて、新しいアプローチです。モデルさんたちが、さまざまな動きに沿ってビーズが舞い散ったり、こぼれたりする動画を撮ったんですが、映像の美しさとはうらはらに、撮影後の掃除が過酷でした。
★パリコレ#9 2021-22秋冬
テーマ「Side-C vol.5 DOUBLE-END」
上下を入れ替えることのできる服。バレンシアガへのオマージュです。バレンシアガはアップサイドダウンというドレスをデザインしました。例えば釣り鐘が逆になっているフォルムのものとか、ブーケを持っているような逆Aラインのドレスとか。でも僕たちはどちらが上になっても下になっても着られる服を提案しました。男女が入れ替わるかのように一着の服が違った表情を見せています。オマージュしながらも、もっとコンテンポラリーに現代的なアレンジをするのが”ビューティフルピープル”のこだわりです。
★10回目となる次のパリコレでは?
次回の10月はパリで発表しようと思っています。「Side-C」もそうですし「DOUBLE-END」もそうですが、ひとつの服にさまざまな表情を見せているのがぼくらのデザインの基本。ひとつの服の多様性を見せられたらと。それによって男女の垣根も超えたり、ひとつの服を男性や女性が着ることで違った顔に見えてくるようなもの。そのような服を作っています。パリに1年行けていないので、その間頑張ってきたことを出そうと思います。ヴィオネもスペイン風邪が流行したときに、家にこもってドレスをつくっていたらしいです。パンデミックの時は職人が自分たちの技術を磨く時なのかもしれないですね。僕らもこの1年、仕事ばかりしてました。なので技術的には成長しているはずです。リフレッシュ?仕事でうまくいったときが、実はいちばんリフレッシュしているんですよ。
★パリコレデビューがかなった今の夢は?
このまま続けてパリで発表していきたいということと、パリにお店を出すことです。3年後のパリオリンピックのタイミングがベストかな。パリに自分の家があるみたいで素敵ですよね。
熊切 秀典(くまきり ひでのり)
1974年神奈川県生れ。1997年文化服装学院アパレル技術科卒業後、コム デ ギャルソンのパタンナーを経て、2004年に独立。2006年”ビューティフルピープル”を立ち上げる。 2017-18年秋冬でパリコレデビュー。2020年、第38回毎日ファッション大賞の大賞を受賞。