デザイナー、ヤシゲ ユウト&ビアンカにインタビュー。悪夢を表現したコレクション。
コレクションの真髄
――悪夢の続きを表現したテーマDreaming of meで、ネガティブな感情に向き合われたとのこと。テーマが生まれたきっかけや過程を教えてください。
ビアンカ:きっかけは、自分が思いもしないタイミングで現実とは思えないほど嫌なことが連続で起きたことでした。でも、同時に凄くいい事も起きていて。夢なのか、現実なのか混同するくらいの衝撃的な感情がそのままテーマになっています。今回のコレクションはひとつの物語で、その時の日々を悪夢だとしたら、私の夢の続きを見てほしい!という気持ち。悪夢の最後はみんなとハッピーに迎えたいので、コレクション発表の場であるショーを、物語の最後にしたくて。会場に来てくれたお客さんが笑顔でお花を持ち帰るシーンが物語のラストです。
ヤシゲ:デザイン画にも手をつけられず、キーワードを書き出すことしか出来ない精神状況からのスタートでした。なので、情景から世界観を作って膨らませていて。はじめに想像したのは、大きい木が並んだ林の中。丘の上にお城があって、それを主人公の自分(猫)が少し遠くから見ているような様子。ほかにも「バングルス」というアーティストの「エターナルフレーム」という楽曲誕生のストーリーからも着想を得ました。伝説のロッカー「エルヴィス・ブレスリー」の墓碑が関係していて、暗闇の中でもお墓にだけ、永遠にエターナルフレーム(赤い炎)が灯されているんです。その炎の灯火が悪夢の中の自分達に重なったというか。「これからもずっと燃え続けたい」思いを持つテンダーパーソンにぴったりな情景でした。
――現代に生きる人は皆少なからず、ネガティブな感情を持っていると思います。服はお二人にとって共感を産む装置のようなもの?
ビアンカ:私は、そう思っています。みんなそういう感情って持っているし、経験もあるだろうから共感も絶対できると思う。それをネガティブなだけじゃなく、ポジティブにも変換して欲しくて。自分たちも終わりはポジティブになりたいから、明るい服を作っています。
デザイナー、ビアンカが自身の身体に入っているタトゥーをモチーフにプリント。自身のタトゥーをデザインに採用することも多いのだとか
多様な素材で表現したプロテクターディテール
――ホラーモチーフのプリントとプロテクションディテールは、感情的な表現でありながらキャッチーでポップでもあります。ネガティブな気持ちを表現する時のバランス感で意識されたことはありますか。
ビアンカ:ホラーとかグロテスクなものが好きで、怖いものに綺麗さを、綺麗なものに怖さを感じます。だから、今回のショーもホラーが一つのテーマだけれど、会場にはお花畑があったり。コレクションでは血やゾンビのモチーフをディテールで入れているけれど、それをレースやきらきらしたものに落とし込んでいます。色味も、お互いの色の良さを引き立たせる補色で表現しているので、綺麗で明るく落としこめているかなと思います。
ヤシゲ:ブランドがもともと持っている核のひとつ、ポップアート的な要素が反映されている気がします。あえて作っているというより、自然に産み出てくるみたいなものに近いと思います。
補色を使ったゾンビプリントシャツ
左:インパクト抜群なホラーモチーフのコラージュ
右:高級感のあるベルベット地にスター形のキルティング加工を施したブルゾン
テーラードもテンダーパーソンにかかれば遊び心満載
ラメのように見えるラペルと前裾の縁はファスナー!
肘には硬いプロテクターが付いている
ホラープリントやデザインの着想源となったホラー映画のアート集&メキシコの映画監督ギレルモ・デル・トロの創作ノート
ゾンビのゴツゴツした肌感を表現したジャガード生地
ジャガード生地のイメージ元になったモンスター
デザイナーのビアンカが幼い頃の記憶から製作したスカラップ
左:ラメフィラメントのような素材。細かなラメが動くたび煌めく
右:テレコ生地にタイダイ染めを施したパンツもキラキラしたフリンジ付き
進化し続ける技法のこと
――ファイアーモチーフや、手編みのニットはテンダーパーソンのシグネチャーですが、今回進化した部分はありますか?
ビアンカ:作品としての技法や素材への追求はもちろん続けていますが、成長した部分で言うと精神的な面の方が大きいかもしれません。ポジティブな感情の時に自分たちのクリエーションを反映させるのって結構やりやすいと思っていますが、ネガティブな感情も表に出して服を作っていくことは、私たちにとって挑戦的なことでした。
ヤシゲ:技法でいうと、常にさまざまな要素をプラスしていて毎シーズン成長しています。ファイアーモチーフは今までエアブラシで行っていたものを、今回はカッティングワークでひとつずつ裁断して刺繍を入れました。日本の優れた職人さんと一緒にものづくりを行い、今回の着想源にもあったエターナルフレームのように、炎を自分たちのシグネチャーとしてより一層大切にしていこうという気持ちになりましたね。
職人の手仕事によりひとつずつ裁断し刺繍を入れた
ファィアーモチーフのカッティング
――ほか、加工や技術のチャレンジがあれば教えていただけますか?
ヤシゲ:今回は東京都と一緒に「TOKYO KNIT」というリサイクルループのプロジェクトに取り組んでいて、Tシャツやスウェットは糸の番手から選んで天竺生地を作りました。タイダイ染めや吊るし染めで表現した色のグラデーションなど、染めの技法にも注目して欲しいです。糸から素材を作ることで自分達の想像が再現性高く作品に反映され、今シーズンはより進化した気がします。
糸の番手からセレクトし製作したスウェット
肘や肩、背中など部分的にスプレーでブリーチ
日焼けした古着感を表現
テンダーパーソンらしいポップな色合いのタイダイ染めと注染染め
ギザギザしたテレコ素材も「TOKYO KNIT」の取り組みで製作
吊るし染めにより時間をかけて仕上げた色のグラデーション
ショーを構成した重要な要素
テンダーパーソンでスタイリングを担当するスタイリストの百瀬豪
――スタイリストの百瀬豪さんとのタッグについて聞かせてください。
ヤシゲ:百瀬さんはテンダーパーソンの第三のチームメイトでもあり、師匠のような存在。自分たちがピリついているときに、場を回してくれる指揮官的な感じで居てくれました。懐が深くて、ブランドを大事に思ってくれているのが伝わりますし、ついわがままも言ってしまう。スタイリングだけが全てではなく、百瀬さんだから担えているものがあると思っています。
ビアンカ:私は、嫌なことがあったらつい百瀬さんに相談しちゃいます。良いものを作ろうっていうゴールが同じだと感じているし、とても信頼しています。
――ショーでは香りの演出がありましたが、なんの香りですか?
ビアンカ:ジャスミンとローズです。ジャスミンは夜の女王と呼ばれているお花。会場の暗い雰囲気で、目の前にあるカーネーションと関係のないお花の匂いがするって、カオスで面白いなと思って。生き物である花の匂いと、音楽と、体で感じる要素がある場所って見えるものが変わってくるかなと思い、香りの演出をしてみました。音楽は、元々オーケストラでやる予定だったんですがそれが叶わなくて。別の方法で最高の音楽を出しました。
――クラシック音楽から一変、重厚感のあるサウンドへ変化したり、切り替えが多い印象でした。セレクトは直接されたのですか?
ビアンカ:そうです。ショーが19分だったので、飽きないように曲を変えなければいけないと。音楽を手がけたSUNNOVAさんのセンスがめちゃくちゃいいんです。相談しつつ、みんなで作りました。
ランウェーショーのスタートを飾ったのは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『エグモント』作品84
ヤシゲ:音楽では抑揚を大事にしました。最初は落ち着いたクラシックから、一回落としてまた上がって。というのは地獄、天国、地獄の行ったり来たりを表しています。ラストのルックの登場では歌詞が入って、フィナーレで使ったのは教会音楽のグレゴリオ聖歌。天国の先にある神を表現しました。実は舞台にも仕掛けがあって、正面から見ると左が白、右が黒の幕で天国と地獄を意味しているんです。上から見ると、階段がテンダーパーソンのTとPで繋がっています。
ショー中に使用された楽曲のうちの一つ、Even Healing
初めてのパリ展示会の成果と、
東京でのショーで見えたもの
――今回、初めてパリで展示会もされましたが、その反応を受けて見えた次のステージを教えてください。
ビアンカ:まずは続けることが大事だと思っています。SDGsや環境を意識することは当たり前ということも改めて感じたので、いかに新しく面白く出来るかをこれからに生かしていきたいですね。厳しい意見もありましたが、色味やアクの強さなど、クリエーションにキャラクターがあっていいねと褒めていただけました。まだまだ初めましての段階だったので、これからも自己紹介をして取り組んでいきたいです。
――今後の発表形式や発表場所についてどんな展望をもっていますか?
ビアンカ:自分たちに最も合っている方法は、ショーだと思っています。ユニセックスブランドでこんな風に着られるというのを一番体現できるし伝わりやすいから。二人でやっている分、体力なども必要だけど、続けていきたいです。国で言うと、ロンドンっぽいと言われるのでロンドンとかで発表してみたら面白いのかな?
――文化服装学院在学中からブランドをスタートし、特に近年は、ブランドを取り巻く環境も変化されたと思います。クリエイションの中で変わったこと、変わらないことを教えてください。
ビアンカ:好きなものや表現したいこと、テンダーパーソンとしてやるべきことは絶対にぶれてはいけないと思っています。変化としては、学生時代より見てもらう人も機会も増えたからこそ、一つ一つのモノづくりに対するクオリティを上げて行く必要があると思っています。私達はパターンを直接引くことが多いので、技術を磨かないといけないし、工場選びも吟味していて、シャツが得意なところにシャツを、カットソーが得意なところに良いカットソーを作ってもらう。構成と生地選びの質にはより一層こだわりを持つようになりました。
ヤシゲ:工場や生地、いい技術を持った職人さんたちを常に探していて、自分たちでアクションを起こすのはもちろん、先方から連絡をいただけるようにもなりました。ずっと進化し続けていきたいです。
――今回ご家族もショーにいらしていたようでしたが、見に来てくれた人たちの反応はどういったものがありましたか?
ビアンカ:私は、手編みのニットを母にお願いして一緒に作ってもらっていたので、絶対に見てほしくて。母もこんなに素敵なものを見せてくれてありがとうと、とても喜んでくれました。周りからは、ああ!あのお母さんが作ってるんだ!みたいな感じで言われました(笑)
母と制作したという手編みニットが生かされたルック
ヤシゲ:今回は、一度に600人程の方が来場し、今までで一番お客さんが入りました。2022年の初開催時はコロナの時期で人数制限があり300人を2回。その次は教会で100人未満の来場者数だったので。ショーとしては3回目で、展示会やインスタを通して、今までで一番多くの反応が得られたと思います。自分達がやっていること、やってきたことが少しずつ、浸透してきているのかも、と実感が沸いています。
ショーのフィナーレ
TENDER PERSON
WEB:https://tenderperson.com/
Instagram:@tenderperson
photographs : Josui Yasuda(Back Stage,showB.P.B.),Emi Hoshino(Back Stag,B.P.B.)