3.2021年春夏の東京コレクションを振り返って感じること、発見したこと。

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RequaL≡ 2020-2021 S/S COLLECTION


 欧米に比べるとCovid-19の感染状況は危機的とは言えない日本でも、半年前には、人が集まる文化活動が次々に中止や延期になり、「自粛」という形でステイホームが強いられるという、これまでに体験したことのない事態になった。と言っても人間は冬眠するわけにはいかないから、不自由なりに、各自の日課を形作って行った。ファッションの世界でも、服の産業が大きく変わるという話はあまり聞かないものの、コロナ禍をきっかけに、デザイナーたちは、それぞれの仕方で、閉じた時代に向き合ってできる愉快なことを、ファッションという形で構築しようとしたはずだ。


 コロナが収束した時には、また去年までと同じように、人々はSNSでおしゃれを競い合い、人気者が登場し、表参道や渋谷や銀座には、新しいスポットも生まれて、ファッション都市トーキョーに、世界中から人が集まってくることだろうけれど、それは同じに見えて、きっとなにか違う。一人一人少し賢くなっているに違いない、と思う。


 この半年は一種のエアポケット状態だったとしても、この時期に誰に強いられることなく、自分で考え、変革したことやものは、とても貴重なものではないかと思う。その一片が、新作コレクションに伺えるブランドがいくつかある。


 前回、オンライン映像で紹介したdoublet(ダブレット)も明らかにその一つで、一度7月にパリコレ・メンズに向けて制作した、熊の着ぐるみが出てくる映像(昼間の物語)をホラー風味のゾンビの宴(夜の物語)に作り替えて発表。映像の後、少人数の観客を対象にリアルなショー(それも、ゾンビたちがモデルとなって歩くのだが)も見せるという凝った発表の背景には、ステイホームを続けることで、人が人らしさを失っていくことへの警鐘を感じさせた。同時にそれは画一的な人間を捨てて、個性的なゾンビとして生きることで、正解のない自由なファッションを謳歌する、と見ることもでき、不気味さが反転していくのを楽しむことができた。一体一体は、ベーシックな日常着で、そこに違和感を盛り込むdoubletならではのスタイリングは素晴らしかった。

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楽天が日本発のファッションブランドを支援するプロジェクト「by R(バイアール)」の支援のもと開催されたdoubletの2020-2021 S/S COLLECTION


 もう一つ、17日(土)にヒカリエで行われたRequaL≡(リコール)のコレクション。深読みしてしまったかもしれないけれど、このショーを見た時、90年代後半に東京で見たいくつかのコレクションが重なって、不思議な既視感が襲ってきた。コラージュのように作り上げた過剰なボリューム。「脱構築」という90年代的な言葉。doubletとはまた違ったさまざまなモンスター的な(亡霊のような)存在感のあるモデルが、壊しては再構築した服をまとって一方通行のランウェイを歩く。途中から、さまざまな小道具や装置が加わり、見せたいものは服だけではなく、環境であり、社会性なのだという印象を受け、この一風変わったコレクションの作り手に会ってみたくなり、翌週、展示会場を訪ねた。

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 デザイナーの土居哲也さんはまだ27歳。東京モード学園、ここのがっこう、BFGUなどで学び、2015年89回の装苑賞でイトキン賞を受賞。2016年に仲間と3人でRequaL≡を立ち上げ、2019年南仏イエールの国際ファッションフェスティバルでは審査員特別賞を受賞している。


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第89回 装苑賞 イトキン賞を受賞した土居賢哲さんの作品


 いきなり土居さんはこんな興味深い話をしてくれた。

 「今は、インスタグラムを使って、ファッションの情報を誰もが手に入れることができる時代だと思うのです。そのインスタグラムの機能にリールというのができたんですが、これは、すべての情報をコンピューターが選択して、僕の好みを想定して向こうが勝手に画像を選んでくるんです。僕は、これが、情報が錯乱しすぎた結果、ファッションにおいても何が正しいのか、何が歴史だったのか、何が過去で、何が文化で、何がカルチャーなのか、ということを、全てかき消してしまうような流れに見えてきたんです。今若者なら誰でもこれを使います。興味のあることが勝手に編集されてしまって、それが自分らしさ、オリジナリティになってしまってきている」

 そんな現状を土居さんは、醒めた目で認識して、イメージの錯乱の中で、あえて90年代という時代、ベルギーやオランダの実験精神が輝いていた時代を自分のやり方でトレースして、現代の服を作り上げようとしている彼は、オランダのコンテンポラリーファッションにとても注目していて、27歳の彼が、ニールス・クラヴァースに関心を持っていると聞くことは、私にはうれしい驚きだった。そう思って、RequaL≡の服を見ると、リ・トレースという手法を謳うだけのことはあって、20数年前の、今見ると荒削りなデザインに進化した軽い素材を使用したり、メンズウェアにオートクチュールの手法を取り入れてみたりすることで、単に削ぎ落とすのではない、現代の日本の若者に届くデザインを構築しようとしている。ステイ・ホームとは関係がないかもしれないが、予想外に生まれた時間を、土居さんはファッションの歴史を紐解き、形作ることに費やしたに違いない。

 これに加えて、今シーズンのコレクションで指摘できるとすれば、外国人モデルの来日が難しかったためか、白人モデル一辺倒が崩れ、日本人モデルだけでなく、黒人や、パーソナリティの感じられるモデルの起用が目立ったことだ。これは奇しくも、コロナ禍の今年アメリカから起こったBLM(Black Lives Matter)やLGBTなどのダイバーシティ運動の考え方を、日本のファッション関係者たちも無視できなくなったことではないだろうか。doubletでも、RequaL≡でもそうだった。そして、これは、ショーだけでなく、展示会だけで発表したブランドの作るイメージ画像や動画でも見られる。
 
 

 YEAH RIGHT!!(イェーライト)の今シーズンは、プロのモデルでまとめずに、普通の人がコレクションを着こなし、ご近所の物語のようにルックブックをまとめた。このコロナ禍の空気の中で、このルックブックは、いつも以上に説得力がある。ファッションは、斬新なデザインを提供するだけでなく、共感という形で人の生活の意識を変えることもできると言っているようだ。www.yeahright.jp/collection.html
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ファッションウィークから遅れて、JennyFAX(ジェニーファックス)が、新宿の老舗中華料理店「随園別館」を舞台に発表したVRコレクションも、デフォルメによって、単なる美しさを超越した世界が伝わり、楽しくなった。いかにも、JennyFAX流のユーモアが振りかけられているところも。

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2021年春夏は、少なくとも東京のファッションにとっては、悪くないシーズンだったのかもしれない。


text:西谷真理子


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2021年春夏東京コレクション総合レポート、その前に <コロナとファッション。オンラインの時代>

2021年春夏東京コレクション総合レポート <コロナとファッション。オンラインの時代> ーvol.2