ピリングス2022秋冬コレクション
バイエルピアノ教則本106番と
「道に迷っている人」のためのアランセーター

2022.03.25

デザイナーの村上亮太さんが手がけるファッションブランド「pillings(ピリングス)」が2022年秋冬コレクションをフィジカルショーにて発表。今年の「東京ファッションアワード2022」にも選出された。

ランウェイの上に吊り下げられたのは、大きなグランドピアノ。寸分の狂いも許されないピアノを社会(現実)のメタファーとして、ランウェイ(理想)の上に吊り下げることで、「理想と現実の間に生きている人間の姿こそが美しいのではないか」というメッセージを投げかけた。

テーマとしたのは「道に迷っている人のための服」と村上さんは語る。もっと楽に生きられるはずなのにそこにはまりきれない、見なくてもいいものまで見てしまって生きづらさを感じている、そんな人のための服。

根底にあるのは、人間を見つめ直してコレクションを作りたいという思い。どことなく今までのコレクションよりも大人びた感じがするのは、「愛おしいニットを作ろう」という気持ちから、「愛おしいひとを作ろう」という気持ちへの心境の変化によるものだという。

アラン諸島で生まれた、漁に行く旦那が無事に帰ってくるように祈りを込めて作られる伝統的なアランセーターをベースに、手編みで柄を入れたルックが印象的。まさに、現代の「道に迷っている人」に贈られるpillings流の人間讃歌のような服である。

コレクションには、アリなどの虫が社会性のモチーフとして多く登場。同じようにみえる虫にもそれぞれ意志や名前があるのではないかと、ジャンル分けされることへの疑問を提示した。

また、ヘアなどには学生の頃から好きだったという太宰治にも影響を受けているという。生きづらさを抱えた太宰を彷彿させるような、歩きづらそうなボトムスは、パンツを捻って下の方がスカートになっているという凝った構造になっている。

ショーに使用された音楽に関しても興味深い。前半の音楽は、デヴィッド・フィンチャー監督の映画『ソーシャル・ネットワーク』のサウンドトラック。コレクションの核となった、「理想と現実の狭間」という世界観にぴったりとはまるような選曲だ。そして後半は曲調がガラッと変わり、バイエルピアノ教則本の最後の曲、106番が流れてきた。背景には、村上さんが音楽に苦手意識を持っていた小さい頃、バイエルの教則本の最後にある106番まで弾けたら素晴らしい人間になれると思っていたけれど、最後まで続かなかったというエピソードが。もしかするとこの曲は、村上さんにとっての「アランセーター」なのかもしれない。

ブランド:pillings/ピリングス
デザイナー:村上亮太/Ryota Murakami

pillings
WEB : https://ryotamurakam.thebase.in/
Instagram : @pillings_
Twitter : @murakami_ryota

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