2024年春夏オートクチュールコレクションが1月22日から4日間の日程で開幕。
今シーズンの必見のショーや気になるトピックスをご紹介します。
ショーのラストを飾った女優のグェンドリン・クリスティー。ツヤのあるメイクがセルロイド人形を思わせた。
今回のオートクチュールウィークで、最も衝撃的だったのは、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が手がけたメゾン マルジェラ(Maison Margiela)の2024年「アーティザナル」コレクションでした。
ショーの舞台となったのはアレクサンドル3世橋の下、セーヌ河岸に作られた怪しげな酒場です。汚れた食器が積まれ、ワイン瓶が転がるバー。夜な夜な宴を繰り広げていた1920年代の“狂乱の時代”を思わせる会場は、デカダンスなムードを漂わせていました。
パーティーが終わり、時が止まったかのような会場。©B.P.B. Paris
着想源の一つとなったのは、そんな時代に活動したフォトグラファー、ブラッサイ(Brassaï)の写真です。夜のパリを撮り続けた彼が魅了されたのは、アンダーグラウンドな社交場で、人間の渇望、享楽、性的解放が渦巻く世界。ショーで感じられたのもこうしたエネルギーでした。
1時間遅れで、夜の8時過ぎに始まったショー。序幕では歌のパフォーマンスに続き、フェティッシュな倒錯的シーンを盛り込んだショートフィルムを上映。ストーリーの中で逃げてきたモデルのレオン・デイムが酒場にたどり着くシーンで本編がスタートしました。
レオンは2022年「アーティザナル」の舞台『シネマ・インフェルノ(Cinema Inferno)』でも主人公を熱演。
次々に登場する妖艶な人物たちは、バストとヒップを膨らませ、締め上げたコルセットでウエストを強調。シリコン製のプロテーゼでボリュームをもたせたシルエットもあり、多くのモデルは老舗ランジェリーブランド「カドール」の下着を身に着けています。
12か月以上かけて制作されたというコレクションは、ガリアーノが編み出したいくつもの新しいテクニックが使われました。
その一つの「ミルトラージュ」は軽量の生地を何層にも重ね、ツイードなどの重い生地をプリントしたトロンプルイユの技法。「エモーショナル・カッティング」は、雨の中、ジャケットを頭から被るなどのジェスチャーをそのまま形にしたもので、雨の雫、濡れたような質感も綿密に表現されています。
雨から身を守るジェスチャーを服のシルエットに。©B.P.B. Paris
シューズはクリスチャン ルブタンとのコラボレーションで作られ、ルブタンを象徴するレッドソールに加え、コレクション全体に見られた身体補正の文脈が膨らんだ踵(かかと)に反映されています。
12cmヒールの「タビ」シューズ。クリスチャン ルブタンならではの赤いソールが印象的。©B.P.B. Paris
メゾン マルジェラの中で「アーティザナル」ラインは頂点に位置し、もっともクリエイティブなものを創作する場。今回は一年半ぶりの発表となりましたが、好奇心をそそる“ガリアーノ流”のイマジネーションの世界に観客をみごとに引き込み、ショーは大喝采のフィナーレで幕を閉じました。
Text : B.P.B. Paris