月刊「根本宗子」を率いる劇作家・演出家の根本宗子による『もっと超越した所へ。』が、映画化された(2022年10月14日公開)。
主演を務めるのは、根本とも親交の深い前田敦子。クズ男に翻弄されてしまう女性4人を描いた本作で、前田は中学時代の同級生で自称ミュージシャンの怜人(菊池風磨)に言いくるめられ、彼のヒモ生活を助けてしまう衣装デザイナーの真知子を演じている。
装苑オンラインでは、前田と根本の出会いからお互いの共通点や恋愛観、さらには「恋愛は無駄」ととらえる傾向についての私見など、ざっくばらんに語っていただきました!
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Yusuke Arimoto(NANAKAINOURA,Atsuko Maeda)/ hair & make up : Riho Takahashi(HappyStar, Atsuko Maeda), Yu Hotta (Shuko Nemoto) / interview & text : SYO
映画『もっと超越した所へ。』
STORY
それなりに幸せな日々を送る4組のカップルに別れの危機が訪れる。それぞれの本音と過去の秘密が明らかになる時、物語は予想外の方向へと疾走して――。根本宗子作品がいよいよ初映画化!「クズ男」をめぐる4人の女達の恋模様を描く。
原作・脚本:根本宗子、監督:山岸聖太
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大。全国公開中。ハピネットファントム・スタジオ配給。
前田さんとはずっと一緒にやりたかったけど、組んだら最高のものになることはわかっていたのでとっておきの機会まで待とうと思っていました。――根本宗子
――まずはおふたりの出会いについて伺えればと思いますが、根本さんは「高校生の時に、前田さんの握手会に並んでいたぐらい好き」とおっしゃっていましたね。
根本:完全にファンです。わかりやすくいうと、人生で一番お金を使った相手なんじゃないかな(笑)。
前田:(笑)。ありがとうございます!
根本:高校生のときに、AKB48というアイドルグループが秋葉原で劇場を持って活動を始めることをネットで知りました。興味を持って観に行ったのが、ちょうど「ロマンス、イラネ」という曲を出したタイミングで「ひまわり組」という豪華な混合チームの公演。それまでは特に「誰が好き」というのはなく、ライブや芝居を観に劇場に足を運ぶことが好きだったので、その延長という感覚でした。それで公演を見たら前田さんのファンになり、劇場に通うようになりました。
前田:私が根本さんとお会いしたのは、岩松了さんがきっかけです。岩松さんが根本さんの作品のことが大好きで、「すごい面白い舞台を観に行こう。俺のイチオシ!」と連れ出してくれました。
根本:すごい誘い方……(笑)。
前田:岩松さんってオバちゃんみたいなノリの方なんですよ(笑)。オバちゃんに誘ってもらってスズナリに観に行って、2人で爆笑しました。
――そのときにご挨拶されたんですね。
根本:はい。握手会以外の初対面です(笑)。
前田:そうですね(笑)。
根本:私が握手会に通っていた当時は、1人だけじゃなくてみんなと握手できるシステムでした。でも、前田さんのところだけ、“はがし”(握手会で、スタッフが引きはがすこと)が強くて一瞬しか対面できなかったんです(笑)。ちゃんとご挨拶したのはスズナリのときですね。
前田:その後、岩松さんと3人で近くの飲み屋さんに行きました。
――おふたりは前田さん監督・根本さん脚本の短編映画『理解される体力』でもコラボされています。
前田:私も、ただただ根本さんのファンなんですよね。お会いする前に作品から入れたことが大きかったと思っています。
根本:前田さんとはずっと一緒にやりたかったけど、組んだら最高のものになることはわかっていたのでとっておきの機会まで待とうと思っていました。今回、『もっと超越した所へ。』で前田さんが演じてくださった真知子は上演当時に自分がやっていた役というのもあり、「誰にやってもらうのがいいかな」と考えたときに、前田さんだと。
旧作を映画化する機会なんて私自身経験がありませんし、役柄的にやっていただけたら面白いというのもあるし、やっぱり夢があるじゃないですか。次はぜひ、オリジナルを書き下ろして一緒にやりたいと思っています。
前田:嬉しいです。
映画『もっと超越した所へ。』より
根本さんとは本当に似ている部分が多い気がします。――前田敦子
――おふたりは普段、どういう話をされるのでしょう。
根本:ふたりで話すのは、日常の愚痴が多いかな。
前田:それを面白おかしく喋る感じで……。
根本:そうそう。作品に出てくるような「こんな人がいてさ」みたいな話だったり、女の子同士がよく喋っているような内容です。真面目に熱い演技論なんかは、話したことがない(笑)。
前田:私たちはそういうの絶対ないです(笑)。
根本:一緒に舞台をやったらそういう話も稽古場でしたかなと思いますが、今回は山岸聖太さんが監督をしてくださっていたので、私はただ楽しい話をして終わりでした(笑)。
前田:山岸さんが根本さんのことを大好きなのが伝わってきたので、現場ではもう監督にゆだねていました。「根本さんのことなら僕に聞いてください!」みたいな勢いで、全部背負ってくれていたんですよ(笑)。
根本:すごい……(笑)。自分が別の方に作品をゆだねることがあまりないので、新鮮でした。
前田:なんで今までなかったんですか? 絶対「映画にしたい」って話がたくさん来てるはず。
根本:それが、そんなことないんです。『もっと超越した所へ。』なんて7~8年前の話だし、最も映画の話が来ると思っていなかった戯曲で。「本当にこれですか? 似たようなタイトルの別作品と間違えてませんか?」って何回も確認したくらい(笑)。
最後のシーンなんて、どうやって映画にするんだろう?と思いましたし。でも、山岸さんなら安心だったので、お渡ししました。脚本については私が前に出て打ち合わせを重ねましたが、撮り方に関しては、私は映像の監督ではないし、山岸さんに面白くしてもらった方が絶対に良いと思ってお任せしていました。その結果、現場で山岸さんが全部背負ってくださったのかも(笑)。
前田:僕がやらなきゃ!って(笑)。
根本:『もっ超』の舞台美術を当時一緒に作ってくれて、今回も前田さん(真知子)の部屋の飾りを貸してくれた子がいるのですが、その子と初号試写を観たんです。試写のあと、私が「前田さんに自分が乗り移ってるみたいだった。ビジュアルが最高にかわいくなったバージョンの自分かと思った」って言ったら、「私も根本さんかな?と思う瞬間がありました」と言ってくれて。彼女は何回も舞台版を見てくれているから、説得力がありました。
前田:嬉しい!
根本:これ言って嬉しいなんて言ってくれるのは前田さんくらいですよ(笑)。
前田:いやいや(笑)。ご自身を投影されているのは知っていましたし、私が今回参考にしたのは想像の中の根本さんだったのですごく嬉しいです。
根本:本当に前田さんにお願いできてよかったな……と思うと同時に、当時の自分をリアルに思い出して具合が悪くなっちゃって(苦笑)。山岸さんがその様子を見て「面白くなかったですか……」って聞いてきました(笑)。
映画『もっと超越した所へ。』より
――それは、なかなかない体験ですね。根本さんと前田さんのフィーリングが合うところも大きいのではないでしょうか。
根本:人に対してイラっとするポイントだったり、理詰めで追い詰める感じだったり、根底に持っているものが似ているんだと思います。ちょっと、それを持ってない人には出せないかも。真知子は人に合わせすぎた結果ぶちギレるキャラクターなので、そのスパークするところが面白くないとうまくいかないんです。前田さんの真知子は本当に面白かった。
映画『もっと超越した所へ。』より
――真知子が通帳を見て問い詰めるシーンなど、相手役の菊池風磨さんが「怖かった」と振り返るほどの迫力でした。
根本:でも、言っていることは正しいんですよね。
前田:私もああなると思います。正論で追い詰めて、「あなたが間違ってる」ととことん言います。
根本:相手に「そうだよね」と言われても納得できないですよね。
前田:そうなんです。何言われても「足りない」ってなっちゃう(笑)。
根本さんとは本当に似ている部分が多い気がします。恋愛の仕方だったり、男の人に対して思うことはほんとに一緒なんじゃないかな。男の人が言い返してくるか逃げるかのパターンにもよるかとは思いますが、どこまでも追い続けます。自分がすっきりするまで(笑)。
根本:話し合いたいんですよね。
前田:「こっち向きな」ってずっとやってる(笑)。でもそれでうまくいかないのもわかります。
根本:私は、自分にすごく体力があるバージョンが前田さんなんじゃないかと思ってます(笑)。いつも「体力があるな」と思って、それが凄く好きです。
前田:(爆笑)
根本:それは恋愛に限らず、舞台上だったり作品の中に出てきたときに前田さんからはすごくエネルギーを感じるんです。「生きる力が強い」って言葉にするとチープですが、もともと前田さんのファンになったきっかけもそういうところにあります。
ただ不思議なのは、前田さんが「やってやるぞ」というタイプではないということ。「目立ちに行くぞ」という人からそういうエネルギーが出ているのは自然な現象なので分かるのですが、前田さんは飄々としていてちょっと力を抜いているように見えなくもないときがあるのに、出ているエネルギーが強くて面白い。今後、生の舞台でいっぱい観たいです。『マクベス』とかやってほしい。
前田:え、やりたいです!
根本:じゃあ一緒にやりましょう!
前田:本当にやりたい……。舞台は発散できるから好きです。大きい声を出せるじゃないですか(笑)。大きい声を出すのが好きなんです(笑)。
根本:大事ですよね。「一度舞台をやるとやめられなくなる」というのは、そういうのもあると思います。
前田:人間の本質に立ち返れる気がするんです。
根本:ただ、大きい声を出して解放されるのは喉が強い人に限られているんですよね。喉を潰しちゃうとトラウマになるので、前田さんは生まれつき喉が強いんじゃないかな。それは赤ちゃんのときにどれだけ泣いたかで決まるらしいです。
前田:そうなんだ。子どものころ、すごくワガママだった気がします。すぐ泣いてました(笑)。
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