茅野しのぶさんインタビュー
AKB48の衣装の歴史は、国内産地や技術者、職人とのコラボレーションの歴史!
――これほどの歴代衣装を一気に見られるのはそうそうない機会だと思います。茅野さんご自身は、これまで制作されてきた250着の衣装をご覧になって、どのように感じられましたか?
茅野しのぶ「頑張っていっぱい作ったなって思います(笑)。その時、その時で、コンセプトや楽曲のイメージ、メンバーの個性に合わせてがむしゃらに作ってきたのですが、ファッションの世界に身を置くものとして、新素材や新しい技術をなるべく多く取り入れていこうというのは、常に考えていることです。なので、今見ると随所に貴重な素材や技術があります。ここにある衣装には、工場さんとのお付き合いがあったからこそ叶えられたデザインが多くあります。私としては、日本の工場さんや産地の素晴らしさをこの展示で伝えたいという思いもありました。
プリーツで柄を織る職人さんがいたり、精緻な刺繍柄の中にさらに柄を作る技術を持った方がいたりと、高度な技術を有しているのが日本のものづくりの現場です。衣装によく使用しているレースも然り、そうした工場さんや技術者さんとともに歩んできたからこそ、できたものです。
ただ、そうした高い技術力を持った工場さんには後継者問題があってーー。この展示にある衣装を通して、ファッションを学ぶ学生さんには糸や生地作りの面白さを感じていただけたら嬉しいですね。学生世代の皆さんが、これから作る作品や将来へのきっかけになるような展示であることを願っています」
――衣装は産地や職人さんとのコラボレーションでもあるということですね。
茅野しのぶ「そうです。時間も発注するメーター数も一般的なアパレル企業よりは少ない中、皆さんに無茶を言って叶えていただいて・・・。なので、一堂に会した衣装を見て『圧巻だな』と、自分ながらに思います」
――この作りの細かさや手の掛け方、愛情の込め方は、日本のアイドルの衣装ならではだとも思います。
茅野しのぶ「22歳で私がこの仕事を始めたばかりの頃は、アイドルの衣装の仕事をやりたいという人はあまりいなかったんです。アイドルの衣装の仕事には、自分の中に戦略さえあれば、いろんな服を作れるという面白さがあると思ってこれまで続けてきたので、今の服飾学生さんに『アイドルの衣装デザイナーになりたい!』と言っている方が多かったのは、嬉しかったですね」
――衣装をデザイン・制作する上で、茅野さんが変わらず大切にされてきたことはなんですか?
茅野しのぶ「自分も楽しむという部分はすごく大事にしてきました。工場さんには無茶もたくさん言ってきてしまったのですが・・・こんなこともできるんだ!という楽しみも、毎回あるんです」
茅野しのぶが衣装で振り返る、AKB48というアイドル。
――今回、250着もの衣装を一度に拝見する中で、AKB48さんの衣装には、ラインやデザインに、明確にデザイン言語があるように感じて面白かったです。そういう視点で見ていくと「恋するフォーチュンクッキー」などは少し違う感じがして、興味を引かれました。茅野さんの中で転換点となった衣装はあるのでしょうか?
茅野しのぶ「第1回の総選挙の際、1〜21位の方の衣装にバリエーションを作ったんです。その選抜メンバーによるリリース曲『言い訳Maybe』の赤チェックの衣装が、その後のAKB48のイメージを決めたもので、そこから全盛期に入っていきます。そしておっしゃるように、『恋するフォーチュンクッキー』は、これまでとは違う方向の、いわゆるアイドル楽曲ではない曲でした。センターは指原莉乃さん。どういう衣装にしましょうか、という話をした時に、秋元(康)さんが『タイの学生服みたいな色合いがいい』とおっしゃられて。それでタイの学生服を調べたら、とてもカラフルなんですよね。そのカラフルさを、どう指原さんのキャラクターに置き換えていくかで生まれた衣装だったんです。そしてあの楽曲は、指原さんがセンターだったからこそ生まれたものだったかなと思っています」
――卒業ドレスは、衣装の中でもさらに思い入れの深い一着になっているのだろうと想像しますが、特に印象深かったドレスはなんでしょうか?
茅野しのぶ「峯岸みなみさんのドレスですね。峯岸さんは、ドラマチックなアイドル人生を歩まれてきた方です。こんなこと一つのアイドル人生の中にはなかなか起きない、ということが多くあった方で、カオスだなと感じていました。でもそのカオスは同時に、AKB48そのものでもあると思っているんです。AKB48自体にもドラマチックなことはたくさんあって……人数が多いのもそうですし、いろんな個性の子がいて、カオスなんですよ。中にいるスタッフたちも時間との戦いで。それが、峯岸さんのアイドル人生とイコールに見えてきたんです。
なので、彼女が卒業ドレスはチェックがいいなと言った時、AKB48そのものである赤のチェック柄のドレスを提案しました。今まで彼女が着てきた衣装の残布を素材に用いて、ファニーで、みんなに可愛がられる彼女らしいドレスができたので印象深いです。
あとは宮脇咲良さん。彼女は本当に、強く美しく、やさしい人。そこで彼女の名前にちなんだ桜色で、彼女の気高く美しくやさしい雰囲気を最後に見せたいと思いました。多頭機ミシンで作っているため、1m作るのに25mもの布が必要なんです。そうして一つひとつ手をかけてきた衣装を間近で皆さんに見ていただく機会ができて、とてもありがたいです」
峯岸みなみさんの卒業ドレスのバックスタイル
――宮脇さんの卒業ドレスのスカート部分には、よく見ると細かくたくさんのビジューが縫い込まれていて、こんなところにも手がかけられているんだ、という驚きがあります。
茅野しのぶ「私たちが作る衣装の特徴は、オートクチュール感。ミシンで縫える工程もあるのですが、手縫いなどの手作業の要素が必ず入っています。そうした工程が得意なアトリエのスタッフにも支えられてできていますね」
――最後に、現在のAKB48の衣装はどういうタームにあるのかを教えてください。
茅野しのぶ「等身大の彼女たちをいかに表現できるか、ということはよく考えています。あとはトレンド。年頃の彼女たちが着てテンションが上がる衣装を、というのは常に考えてきたのですが、そこにプラスして今は、比較的シンプル志向で、実際に着てみたくなるような衣装を心がけています。ファンの子やテレビを見た子が『着たい』とか『私服に取り入れたい』と思える要素を多く入れています」
Shinobu Kayano
株式会社オサレカンパニーのクリエイティブディレクター。AKB48創設当初より総合プロデューサー秋元康氏の下で衣装担当として活動。その後、デザイン・衣装・ヘアメイクなどの事業を担うオサレカンパニー社のクリエイティブディレクターに就任。これまでに制作した衣装はおよそ35,000着。メンバーの個性を引き出す豊富な衣装デザインとバリエーションに定評があり、AKB48以外にも、声優、コスプレイヤー、2.5次元アーティストの衣装、学校制服・医療制服のプロデュースなども行う。Twitter:@shinobukayano
AKB48 大衣装展~オサレカンパニーの世界~
期間:2023年7月27日(木)~8月8日(火)
場所:大丸東京店11階催事場
時間:10:00~19:00(20:00閉場)
※最終日は17:00最終入場(18:00最終退場)
料金:一般¥2,500、中高生¥2,000、小学生¥1,500
WEB : https://www.daimaru.co.jp/tokyo/akb48/