大学でグラフィックデザインを勉強し、一時は建築家を目指していたというヴィヴィアーノ・スーさん。日本を訪れ、ふとしたことから文化服装学院を知り、そこからファッションにめざめたという。運針からスタートし、今ではコレクションのすべてのパターンを自身で引き、縫っているときがいちばん心が落ち着くと言う。ここでは2024年秋冬のクリエーションをメインにファッションにまつわるエピソードを伺う。
——2024年秋冬コレクションのテーマを教えてください
2024年の秋冬は“What’s New?”をテーマとし、今までの集大成という思いを込めてコレクションを発表しました。この先の新しいものは?という自分たちへの問いかけの意味も込めています。内容としては、幼少期に上海で生活していた頃の時間にフォーカスして、そこからインスピレーションをし、モチーフに取り入れています。
——上海にはどのくらいいたのですか?
幼少期に4 , 5年です。その時は上海のフランス租界に住んでいて、古い洋館なども多くありました。当時まわりに見えたものをコレクションに反映しています。
——コレクションのテーマは毎回どのように決めるのですか?
その時の感情とか、考えていることをディレクターと話し合いながら毎回テーマにしています。テーマで悩んだりすることはないですね。逆に自由だからいろんなことが出来ます。“What’s New?”という言葉は、“さいきんどう?”みたいな挨拶的な意味合いもあるんです。服を着てくれている人とのいい関係性や距離感も感じていただけたらと。
——過去に3回のショーを発表していますが、回数を重ねてどのような感想を持ちましたか?
毎回時間が足りなくて大変です!完成度を高くしたいと思っているので、そこは意識していつも臨んでいます。デザインはもちろんですが、パターンや縫製にも言えること。似たようなデザインで、同じように見えるものもありますが、実は毎回変えているんです。同じことはやっていません。自分ですべてパターンをひいているので、そこはとても大変なのですが。
——ヴィヴィアーノの服のファンはきっとそこはわかっていますね。
それがいちばん嬉しいです。楽しんで着てくれているということですから。あのシーズンのあのディテールのつけ方が好きだったとか言われることもあって。アーカイブを探している人も少なくないようです。
——あらためてアーカイブを作ることはありますか?
ショップとの企画でやることもありますが、それ以外ではありません。
——2024年秋冬でこだわった素材、進化したディテールを教えてください
オリジナルでレースを作りました。子供の時に家にあったヴィンテージ感のある綿レースが使いたくていろいろリサーチしたんですが、しわになりやすかったり、手入れがしにくいということで、ポリエステルを混ぜて作りました。あまりヴィンテージ感が出すぎても「ヴィヴィアーノ」らしくないので、モダンなものを。世界に3台くらいしかないドイツ製の織機が中国にあるのを知って、それを使いました。コストは上がるけど、サンプルの風合いを見たら、これしかないと。あとはチャイナドレスのディテールや磁器の柄なども取り入れました。ショーで印象に残ったかと思います。
——ショー会場を品川のグランドプリンスホテル新高輪の貴賓館を選んだ理由は?
西洋と中国が融合した空間。上海で住んでいた家がそういう感じだったんです。なのでショーもそういうところでやりたいと思っていました。貴賓館は日本で作られた洋館なので、ヨーロッパ過ぎずオリエンタルな部分もあります。今も使われている場所で現代っぽくきれいな部分があったので、それを目立たないようにするために壁をライティングで真っ赤にしました。演出の金子繁孝さんが直前まで調整してくれて。こんなふうに、ショーはチームで作り上げるという面白さがあるから楽しいです。他のデザイナーのショーを見るのも好きですよ。
——たとえばどんなショーが印象に残っていますか?
いろいろ見ていますが特に昔のものが好きで、ジョン・ガリアーノとか、ディオールとか。アレキサンダー・マックイーンは全部見ていますよ。今のデザイナーには表現出来ないことを実現していますよね。夢を見させてくれるんです。自分でもそこは大切にしているところ。ショーを見に来ている15分間は現実から逃避してもらって。トータルで楽しんでほしいから演出も音楽もすべてオリジナル。ただモデルを歩かせるだけなら、きっとショーはやらないでしょう。
——憧れていたデザイナーがいたら教えてください。
昔のデザイナーで言えばバレンシアガやスキャパレリ。革新的なデザイナーには目を引かれます。そして、川久保玲さん。
——フリル、ラッフルなどのロマンティックなディテールはヴィヴィアーノさんにとって永遠ですか?
はい。いろんな表情が出るし、古き良きクチュールが好きなので。自分がいちばん表現しやすい部分です。
——コレクションではフリルはないけど繊細なエレガントなレースとか使われていますね
エレガントな部分や可愛らしい要素には憧れはあって、バランスよく混ぜて使うのは好きですね。
——デザインする上でミューズはいますか?
特定な人は想定していません。若い人や年配の人など、着てくれている方に年齢の幅があるので、こちらからイメージを固めたくないんです。着た時に美しいことがいちばんです。
——いつからデザイナーになりたいと考えていたのですか?
服はずっと好きだったんですが、最初から勉強したいと思っていたわけではないんです。大学でグラフィックを学んで建築家も考えていました。ある時、来日したタイミングで文化服装学院の文化祭を見に行ったんです。それがファッションの道に進むきっかけでした。ものを作ることに興味はあったんですが、例えば建築だと一生に手がけられる建築物の数が決まってきますよね。でもファッションならシーズンごとに違うものが作れる。軽い気持ちで踏み込んでしまったんです。それまで針も持ったことがなかったのに。なので、文化に入学して1から勉強。でも縫うのは楽しかったですね。今でも縫っているときはいちばん気持ちが落ちつきます。
——文化服装学院に入って良かったところは?
やっぱり1からファッションを勉強できたし、文化に行っていなければ今の「ヴィヴィアーノ」はないと思っています。そして勉強していく中で、服作りの深さに気付かされました。BFGU(文化ファッション大学院大学)ではもっと広く学ぶこともできました。プリントとか生地の加工とかニットとか。
——人生のターニングポイントはそのあたりですか?
ターニングポイントは、ブランドをスタートしたときです。卒業して何も知らずにブランドを立ち上げました。コロナ禍でブランドの持続もあやうくなって、売るという手段もなくなり。ある時、デザインをがらっと変えて、思い切りやりたいことやってみたんです。すごいボリュームのドレス!展示会はできなかったけど、ルックを撮影してホームページに載せて。それが反応良かった。特に海外からの評判が良くて。中国からのオーダーもありました。日本にも海外からのサンプルが入りにくい時期だったので、その時は日本の雑誌にも取り上げられました。その後、東京ファッションアワードをいただいて。苦しかった時期から少しずつ準備してきたものが開花したんです。
——そしてメンズもスタートしましたね。
自分が着たいということもあるんですが、メンズはレディースと全く違うので新たな出発。パターンも1から勉強しました。レディースの服をいくらメンズが着られるといっても、物理的にやっぱり無理があるんです。サイズ感やパターンも違う。ユニセックスのアイテムを最近見ますが、だいたいがダボっとしてる。サイズ感の違いをカバーするためにはそうするしかないんですよね。でもその方法はうちのブランド的には違う。きちんと体に沿った服。だからメンズのためにメンズを出すとこにしました。
——今後はメンズもショーを発表しますか?
今のところはルックでの発表です。自分たちの中では、レディースとメンズがお互いに刺激を与えあって成長してくのが理想。その結果、合流してもいいしそれぞれ別でもいい。キャッチボールみたいに投げ合って。発見はいろいろあるので、そこは決めずに。
——ブランドの今後の展望は?
やっぱりパリで発表したいですね。いろんな方々の評価を得たいです。でも、やるならば日本でやったショーのクオリティぐらいで発表したいので、きちんと基盤を作って準備ができたら真剣に考えます。
photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)
VIVIANO SUE
デザイナーのヴィヴィアーノ・スーは、中国出身。アメリカで育ち、グラフィックデザインを学んだ後に来日。文化服装学院、文化ファッション大学院大学でファッションを学ぶ。2015年に自身の名前を冠したファッションブランドを設立。シーズンごとに設けたテーマを軸に、花々の色彩やシェイプ、アートからインスピレーションを受けたドラマティックなコレクションを展開。次世代を担うデザイナーとして高い評価を受けている。
Instagram : @vivianostudio