
デザイナー 木村由佳さん
—— 今回ファッション撮影させていただいた2026年春夏の服は、初めてランウェイで発表したものですね。感想を教えてください。
ブランドとしては 4 シーズン目であり、初めてのランウェイ。想定より早いタイミングではありましたが、このタイミングで挑戦できたことは大きな転機だったと思っています。ブランド構築をパズルで例えると、重要なピースを見つけたような感覚があって、ブランドの可能性も再確認でき、いろいろと勉強させていただきました。あと物作りにおいて、描いていた服が出来上がった時の喜びに加え、ショーの空間デザインなどがそこに重なった瞬間は今まで以上の感動を体験できたと思います。ブランドを応援してくださる方々と、この体験を共有できたことが何より嬉しかったです。
—— ムッシャンが立体的になったって表現できたということですね。コレクション前に思い描いていたコンセプトを教えていただけますか。
私自身、映画や小説、文学などちょっと現実離れをした話が好きなんです。時代の変化が早い中、その変化を楽しみながらもどこかちょっと怖いことを思い描いている自分もいて。現実は一つの側面にすぎないのではないか、という感覚を以前から持っています。例えばこの世界が崩壊しても、どこかに別の世界が存在しているんじゃないかと思っているんです。一昨年の12月頃にメディアで未来予測のような話題を目にしました。実際その予言よりその話に反応する人々の心理が気になって。先の見えないことがある中で、人々はどうやってそれに立ち向かうのか。そういう問いが2025年春夏の出発点でした。


木村さんのインスピレーション源となる様々な本。右はアメリカ人作家ダニエル F. ガロウイによる 1964年のSF小説
—— 実際にその思いをどう服に落とし込んだのですか。
予言によって気持ちは変化するけど、自分自身に影響するのはほんの少し。もしかしたら全く影響がないぐらいというところに私はフォーカスして、 1 日の中での心の状態の変改や様々な時間帯を想定し、自分のブランドだったらどう表現するのかという視点でデザインを行っていきました。
—— 実際にランウェイで発表されて、反省点的はありましたか。そしてそれが、次の3月に発表されるコレクションにどう生かされていますか。
反省点はもちろんあります。終わってすぐに振り返りはできなかったんですが、最近もう一回見直して、春夏では感覚的なところを伝えることができたと思うので、秋冬ではもう少し構造的でブランドが伝えたいカルチャーなどを提案するように考えました。
—— 春夏のコレクションで印象的だったのは、肌に張り付くような第二の皮膚のような素材でした。女性がそれらを身につけた時に見えてくる魅力はどういうところだと思いますか。
ムッシャンの第二の皮膚的な素材は、今シーズンだけではなくてブランド立ち上げの初期から続けてきていることで、それはブランドのシグネチャーだと思っています。春夏はそのフィット感と、透け感を強調するシーズンでした。それをまとう時に生まれる魅力は、着る人自身の輪郭や所作がはっきりと伝わるところだと思います。さらにそのフィット感によって自分の内面からのメッセージにも気付くのではないでしょうか。
—— 今回特に力を注いだ素材はありますか。
第二の皮膚と話が繋がってくるのですが、自分の中で第二の皮膚というものは、触覚がもたらす安心感だと思っています。私自身、子供の頃からタオルとか心地のいい生地とかを触りながら寝る癖がありました。多分それは、母親の手のひらに触れているような感覚。スキンシップに近いホルモンが分泌されて安心するような気持ちになるものだと思っています。触れて気持ちが落ち着く感覚はとても大切なもの。心地よい布で体を包むことで、日常の緊張感から解き放たれ、ストレスにさえ立ち向かえる。女性の味方になってくれるような存在でいてほしいと思っています。素材はキュプラなのですが、アルガンオイルを配合させて、肌との関係性をいい状態にして、布と触れる時間の質を高めるように意識しました。
—— アルガンオイルを配合するっていう考えはどこから。
地方の生地加工の工場さんにご挨拶に伺った時に、加工見本としてたまたま見かけたもので、それにすごく惹かれてしまったんです。もともと美容が大好きなので、アルガンオイルが配合されているということで、どうしてもうちの定番素材に加えてほしいとお願いをしました。

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—— 春夏のコレクションではコルセットやベルト使いで少しフェティッシュなイメージなどがありましたが、それは意識されましたか。
私はもともとボンテージスタイルや儀式としての衣装、矯正器具のデザインなどにとても興味がありました。それは単なる装飾というだけではなくて、意図的に内外の強さを引き出すための重要な要素として取り入れています。
—— ショーでは様々なタイプのモデルさんが登場していましたが、どのような思いがありましたか。
ブランド自体ターゲットは特定していないんです。洋服というのはやはり人ありきで、年齢とか性別だけじゃなくて様々な人のそれぞれの魅力が出せたらベストだなと思っています。モデルさんに関しては、それを確かめたかったという気持ちがありました。人が着た時の見え方の変化というところも含めて。
—— ムッシャンの服はどういう人に着てほしいという希望はありますか。
希望はあります。私が素敵だと思う女性って、大体強い女性が多いんです。芯が強く、生き方、佇まいが堂々としていてどこかセクシー。自分に正直で、自分が望むものを手に入れるべく行動できる女性。そして目標に対してストイックに生きる女性が私の中の理想です。そういう方に着てほしいし、自分もなりたいと思います。

家の近所の古本屋で見つけた朝日出版社から1970年代に発売されていた思想雑誌「エピステーメー」の創刊準備号と終刊号。ビジュアルがクリエーションの参考となっている


パリで見つけた舞台演出家でありビジュアルアーティストのロバート・ウィルソンによる椅子の作品集。間の作り方、そこに存在する役者さんにとても魅かれるものがある
—— 3 月の秋冬コレクションは、今の時点( 2 月上旬)で何パーセントぐらいまで仕上がっていますか。
……正直、現在はショー設計の段階で、全体としてはおよそ 3 割程度まで進んでいます。
—— そのくらいなんですね。ではまだ公にできることはないでしょうか。
洋服に関してはお伝えすることは可能です。インナーとして機能性を持った素材の開発に引き続き力を入れているのと、ムッシャンなりのフォーマルの提案をします。それは結構大きなテーマです。
—— ドラマティックな感じになるのでしょうか?
どうでしょう?意外とそうじゃないかもしれないですよ。
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—— 木村さんは幼少期に中国で生活をされていたことがあるとお伺いしましたが、その頃の生活に影響を与えられたことはありますか。
あると思います。実際にデザインや感覚に影響しているのは文学的なところかなと思います。現実離れした物語や、長い歴史の中に存在するおとぎ話、妖怪談などを見るのは今も好きです。実際ブランドを立ち上げた2シーズン目もそのようなお話がインスピレーション源となっています。


中国古代の人々が信じていた、奇怪な神や獣たちが描かれた奇獣図鑑。多頭のへびなどちょっとユニークな妖怪も描かれている。絶妙な色使いも参考になっていることの一つ。
—— 何歳まで中国で生活していたのですか。
12歳です。日本で言うと小学校卒業ぐらいまでですね。当時の文化や価値観に触れた経験は、今の感覚やものづくりの視点にも自然と影響していると思います。また、メイン縫製工場が中国にあることも、コミュニケーションの面でも良い関係性を築けていると感じています。
—— ファッションに興味を持ったのもその頃ですか。
はい。たまたまテレビでファッションショーを見たんです。2000年前半でしたね。一番インパクトが強かったのはジョン・ガリアーノによるディオール。あとジャンポール・ゴルチエやミュグレーも。その影響でバービー人形に服を作ったりしました。布や紙を切るのが好きだったんです。ある時、折られたお札がお年玉袋に入っているのが嫌で、きっちり 3 等分に切って袋にぴったりになるように入れたんです。それはさすがに祖母に叱られました!今振り返ると、もしかしたらそういうところから立体に対する興味が生まれたのかもしれません。中学校の時に日本に戻ってきたのですが、その時から文化服装学院に入ると決めていました。
—— 文化服装学院で学んで良かったと思うことを教えてください。
文化服装学院のアパレルデザイン科を卒業しましたが、そこで素材とパターンと、ファッションの歴史を学んで、物作りの基礎を築いたと思います。今でも表現を形に落とし込む際の基盤にもなっています。あと、文化での多くの出会いに恵まれたことも、私にとって大きな財産です。
—— その後デザイナーズブランドで経験を積んだようですが、そこではまた違った学びがありましたか。
企画として実際 4 年半ぐらい経験を積みました。文化では物作りの基礎だったんですが、実際職場に入って、物作りの現実と、物作りに対する追求の姿勢に一番大きく影響を受けました。理想と現実の距離をどう埋めるのか、制限がある中でどう仕事を進めるかなどは前職で学んだことですね。

—— デザイナーを目指している方たちにアドバイスをお願いします。
好きなことに挑戦し続けることは止めないで欲しいです。そしてすぐに結果を求め過たり、まわりに流されてしまうことなどに気をつけて。自分を信じて好きなものを追求し続けたら、きっと願いは叶うと思います。私もそれは信じているので。
—— デザイナーとして今後の展望は。
強いデザインチームを作っていきたいと思います。あとはもっとムッシャンが好きな方達、ムッシャンを着たいという方達に、直接会える場を増やしていけたらいいですね。
—— 最後に、日常で最近美しいと思って感激したことを教えてください。
特別なことではないのですが、日常生活の中でふとした瞬間にとても感動するんです。例えば早朝の散歩で見た空の色のグラデーション、スキー場で見る雪山、新幹線の窓から見る夕日に包まれた満月、その美しさにもう目が離せなくなります。自然が与えてくれるものって素晴らしいんだなっていつも思いますね。自然に対する感謝と敬意が生まれることで、自分の中でもっと頑張ろうっていう気持ちが湧いてきます。
photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)
Yuka Kimura
1998年東京都生まれ。中国にルーツを持ち、幼少期は中国・福建省で過ごす。10代より日本に定住。文化服装学院を卒業後、国内のデザイナーズブランドにて約4年間、企画職として勤務。その後、自身のブランド「Mukcyen(ムッシャン)」を設立。2024-25年秋冬シーズンにデビューコレクションを発表し、東京を拠点にブランド運営および商品開発・生産管理を行っている。
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